第14話 長期休暇=パラダイス、この方程式はいつの世も揺るがない

 二週目の中学二年、俺の学校は夏休みに入っていた。


 夏休み、それは学生という身分を持つ者だけに許された長期休暇。学校という名の社会しがらみから逃れられる最高のひと時。

 前世で社会に出ていたからこそ分かる、この値千金に匹敵する貴重な時間。それを無意味に過ごすなんて勿体なさすぎる! そうは思いませんか!?


 ん? なぜ夏休みをそう熱く語ってるかって? ……ふっ、ちょっと俺が今まで過ごしてきた夏休みを見てくれよ。



〜〜幼少期時代〜〜


俺「あー、そういや明日から夏休みか」


俺「……」


俺「良し! そうと決まれば朝から晩まで異能の研究だ!」


───うぉぉおおお!!



〜〜小学生時代〜〜


師匠「おいボウズ、お前さん明日から夏休みなんだってな?」


俺「ウッス!」(そうですね!)


師匠「俺が何言いてえか分かるか?」


俺「ウッス!」(分かりません!)


師匠「なら話は早え。明日から山に篭るから準備しろ、いいな?」


俺「……ウィッス」(山に篭るってマ?)



〜〜回想おわり〜〜


 お分かり頂けただろうか?


───俺の夏休み、何一つ青春してねぇ……!


 いやまあ確かに、あの頃の俺は人生勝ち組ルートに進もうと必死で遊ぶ気なんてさらさら無かったからな。こうなるのも必然だ。(?)


 異能の研究もあれはあれで楽しいし、師匠との修行も……ゲボほど苦しいが、確実に強くなれるので文句は言わない。


 けどな? そうなんだけどな?


……俺も青春してえよ!


 友達と海で馬鹿騒ぎしたい。深夜にジャンクフード食べながらゲームしたい。気になるあの子と甘酸っぱい恋がしたい! ……そんな子いないけど。


 とにかくだ、俺は平凡な夏休みを送りてえんだよ。断じて一人で研究に没頭するとか、師匠との修行で体を虐めたおすとか、そんなものを求めてるんじゃあない!


……そんな想いを神様が叶えてくれたのだろうか、俺は夏休みに入る直前に師匠から連絡が来た。


 今年は師匠とどこに篭らされるのかなぁと憂鬱になっていたのだが、なんと師匠、今年は用事があって修行を見れないそうなのだ!


 そういや俺って師匠の事なんも知らねえなあと思いつつも、そんな事より突如として埋まっていた夏休みの予定が全て空白になった事で、俺の感情は歓喜で大爆発した。


 喜びのまま我が妹にその事を伝えると、妹から今年は一緒に過ごせるねと嬉しい一言を貰えた。それにしても俺と居られるのが震えるほど嬉しいとは……全く、ブラコンな妹を持って大変だぜ!(満更でも無い)


 さて、そんな夏休みエンジョイ勢になっていた俺は、折角だからある人物と久しぶりに会う事にした。


───ピンポーン♪


……と、俺が夏休みについて語っている間に来たようだ。

 俺は家の玄関まで赴き、意気揚々と扉を開ける。


「ひ、ひひひ久しぶりね流星!」


 そこに居たのは白いワンピースでオシャレをしてきた四方堂緋雨、俺の友達だった。


「こんにちは、うん、久しぶりだね」


 最後に会ったのは緋雨が引っ越すのを見送った時だろうか。もう一年半近くは会っていなかったのかー。


「こ、これ! お菓子よ! 良かったらご家族の方達と食べてって」


「わざわざありがとう」


「ご無沙汰しております。流星様」


「あ、緋雨の付き人の人達ですね。こんにちは」


 緋雨の後ろにはいつもの黒服三人組が居た。この人らは相変わらず俺のこと警戒してんなー。まだ俺が緋雨の事を狙ってると思っているのかね?


「流星ー? お友達来てるの?」


「あ、母さん」


「おおおお義母様おかあさま! お邪魔しております!」


「……って! この子四方堂さんところの!? ちょっと流星なんで事前に言ってくれなかったのよ!」


「だって母さん、緋雨が来るって分かると凄い慌てて準備するじゃん」


 緋雨を始めて家に招き入れた時、母さんと父さんはそれはそれは盛大に歓迎した。もうあの時は凄い恥ずかしかった。


「だってぇ……、四方堂家の方を迎えるのに粗相なんて」


「流星様のお母様、我々はこの程度の事で機嫌を損ねたりなどしません。普通にして頂いて良いのです」


「そ、そうよ! 流星とは……と、友達だもの!」


 ホントだよ。超が付くほどの金持ちと言っても相手は子どもだ。妙な畏れや偏見を持ったらいけないんだぞ!(過去に目を背けながら)


「そ、そう? ……ならえっと、何かお菓子でも出しましょうか?」


「はい、ありがとうございます」


 母さんの答えに緋雨は満足そうにしてペコリとお辞儀する。


「立ち話もなんだし、僕の部屋にいこっか」


「そうね、お邪魔します」


 緋雨も始めは妙に緊張していたが、今は普通にしてくれている。


……ところで、さっき母さんの事をお母さまって緋雨言ってたけど、なんかニュアンスが違う気がしたんだけど。


「流星様、少しお聞きしたいのですが」


「はい? なんでしょうか?」


 うーん……気のせいか!


▽▽▽


「はぁ……はぁ……や、やってやるわよ!」


 流星が玄関で緋雨一向を出迎えていた頃、二階に居るリカは一世一大の大勝負に出ようとしていた。


(寄生時間が長引いた時の為に前もって用意していた逃走ルート、これを逃したらもう私には後がない!)


 そうやってリカは自分に言い聞かせて、目の前の窓を開ける為に強張る体を必死に動かそうとする。

 荒宮家に寄生し、流星に首輪を嵌められてからおよそひと月。今日彼女は、この家から逃げようとしていた。


(大丈夫、何度もシュミレーションしたもの。あらゆるパターンを考えて、最善だったのがこの逃走ルートなのよ)


 未知の異能を持った流星に、そのバックには偽の戸籍すら作れる巨大な組織が。

 寄生虫という裏の顔も知られた今、たった一人で逃げ切れる自信がリカには無かった。……しかし、


「はぁ、はぁ……だ、大丈夫よ、勝算だってきちんとあるもの」


 彼女がこうして行動に移した理由、それは今日が流星の友達が訪問して来る日であるからだ。


(彼は人前で能力を使うのを忌避している。これは間違いない)


 実際、リカは流星が真の異能を使っている所を見た事が無かった。


(私とは無関係な第三者が家に来る事で、彼は異能の使用を躊躇う筈)


 つまり、流星の友人という抑止力を期待しての行動なのだ。


「大丈夫、私ならやれる……私なら……」


 意を決して、覚悟を決めたリカは窓を開ける……その瞬間だった。


「───逃げても無駄ですよ、寄生虫」


「なっ……!?」


 扉の向こう側から、自分の二つ名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「なん……で」


「あなたをこの家に縛り付けるのに一枚噛んだ者……と言えば分かりますか?」


「……」


 察しの良いリカはすぐに悟った。扉の向こうに居るのが何者なのかを。


「そう……だったのね」


 そう言って彼女は、膝を崩して項垂れる。


(あはは……なんだ、彼には全てお見通しだったという訳なのね)


 彼女は全てを悟った。流星が言っていた友人というのはバックに付いていた組織の人間で、自分に前もって友人が来ると伝えていたのは今日逃げようと思わせるよう誘導する為。


「完敗、だわ」


 異能の強さでも、自信のあった知恵比べでも、リカは流星に完全敗北した。


「無駄な抵抗はオススメしませんよ。あーそれと、扉を開けないで下さいね? あなたの異能の餌食になりたくないので」


「……」


「窓から出て逃げますか? 無駄です。私の異能を使えばあなたの居場所なんて筒抜けになるので」


「……っ!」


 悪足掻きに窓を乗り越えようとすれば、それより前に行動を当てられてしまった。


「……何が、目的かしら」


 それをキッカケにリカは完全に抵抗心を奪われ、大人しく話をする事にした。


「私をあなたの組織に連行でもするの? いいわ、ここで荒宮理華を一生演じるよりはマシでしょうし」


「いいえ、我々もそうしたいのは山々ですが、彼……流星様はあなたを受け渡すつもりが無さそうですので」


「……?」(完全な協力関係では無い、という事かしら?)


 予想に反した答えに疑問を抱くが、質問しても返事が来る事は無いだろうと思い、疑問を口に出さなかった。


「ですが、あなたから情報を聞き出したり、一時的に借りるだけならと了承を得ました」


「借りるって……道具みたいな扱いね」


「あなただって、今まで多くの家庭を自分の宿り木として使っていたでしょう?」


「……」


 相手に同情の気配が一切無い事から、リカは自分の悪事が全て知られてる事に気付く。


「それでは聞かせて貰いましょうか、あなたが知る裏の世界の全てを」





 さて、別に補足するまでも無い事なのだが、一応話しておこう。


……荒宮流星に、そんな意図は一切無い!


 流星がリカに友達が来るのを言った時だって、


(理華は家族以外とは話したくないっていう極度の人見知りだしな。理華だけには話しとくか)


 という純度百パーセントの善意から来たものだし、


『え? 今理華が居る場所ですか?』


 ガンマにリカの居場所を聞かれた時も、


『うーん、多分二階の部屋に居ますね。えっと、何か要でも?』


『……話しがしたい?』(もしかして、引きこもりな妹を心配してくれてるのか?)


『いいですけど……え? ウチに連れてってもいいかって?』


 リカを四方堂家で預かっても良いかという話も、


『いやそれは流石に』(いや心配だからっていきなり他人の家へ招き入れるのはハードル高いでしょうよ)


『……あーでも、きちんと家まで送ってくれるなら良いですよ』(でもまあ、引きこもりを外に出すならそれぐらい強引に行かないと無理なのかな?)


 という風に、引きこもりな妹を社会復帰させたいという思考によるものである。


───結論、流星は良いお兄ちゃんだった。


▽▽▽


……一方その頃、当の本人である流星はというと、


『ゲームセット!!!』


「ぐぅぅぅ、また負けたー!」


「ふっふっふ、年季の差だよ」(スマ◯ラは前世含めて2000時間はやってるからな。そこらのビギナーには負けんよ)


「年季って、あなた私と同い年でしょう」


 緋雨とゲームをして楽しんでいた。


「あはは、でもあながち間違いじゃないでしょ? 緋雨ってこういうのあまりやらなそうだし」


「うぐっ、確かにそうだけど……」


 天井を一つ挟んだ場所でシリアスが行われてるとは露知らず、流星と緋雨は仲良くワイワイ楽しんでいた。


(まあこれ以上初心者狩りするのも可哀想だし、そろそろ別のゲームにしようか)


 流石に初心者相手に十連勝しているという状況に気が引けた流星は、別のゲームで遊ぼうかと考え始めた。


(何か良さそうなのあったかなー。……そういや前にアソ◯大全買ったよな)


「……ね、ねえ流星」


「あれどこに置いてたっけ……ん? どうしたの?」


 良さげなゲームがあった事を思い出し、探す為に立ち上がろうとした流星に緋雨は言う。


「その……あ、明日!」


 頬を赤らめて、まるで一世一大の告白をするかのように尋ねた。


「ショッピングに行かない!?」


「……」


 緊張で尋常じゃない汗の量を流す緋雨を前に流星は、


「え? いいけど?」(急にどうしたんだこの子?)


 特に何かを思う事なく、あっさりとした返事を返した。



────────────────────

本作は……というより作者が書いてる全ての作品は、書き終わったら即投稿を基本スタイルとしています。なので投稿が物凄く遅れる事もあれば、高頻度で投稿する事もあり得ます。

楽しみにしている方には申し訳ありませんが、本当に作者の気分次第ですのでそこだけはご理解下さい。

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