第12話 家族がふえるよ!! やったねりゅうちゃん!

 二度目の中学生を送り始めて一年ほど経ち、俺は中学二年生となった。


 一つ学年が上がるだけでクラスメイトもガラリと変わり、今年こそ友達を作ってリア充ライフを送ってやろうと画策する俺。


……そうだよ。あれから半年経ったけどボッチのままだよ! 文句あんのか!? おぉん?(斜め下からのメンチ切り)


 悲しい、俺は悲しいよ! こんなに頑張ってるのに、こんなにアピールしてるのに何故か俺を見る目は怖がる物ばかり、俺が何したって言うんだ!!


 ふっ、これが孤高って奴か。中二病は前世で卒業した筈だが、なんかの間違いで再発しそうだぜ。そういやこの世界の中二病ってどんなだろ? 異能が使えるって事はやっぱやる事も派手なのかな?


 まあ、俺がボッチ街道まっしぐらなのは置いといて、いや放ってはおけない事例なんだけど、今は置いておこう。この問題は未来の俺が片付けてくれる筈さ。


 さて、学校の話ばかりだと俺が惨めな奴だと思われかねないからな。ここいらで俺の身内……家族の話でもしようではないか。


「ただいまー」


「おかえり、流星」


 家に帰ると真っ先にあいさつを返してくれるこの人は俺の今世の母さんだ。幼い頃は俺の事を怯える節があったけど、今はそんな事もなくおっとりしていて優しく、そしてすごく美人さんだ。前世の俺なら間違いなく見惚れていただろうね。まあ今は実の親だから発情する事無いんだけど。


「お父さん今日は夜遅いんだって」


「そうなの? じゃあ晩御飯は一人分少なくしておくね」


 我が家の晩御飯は俺が担当している。昔は母さんも作ってたけど……うん、頑張ってるのは凄く伝わるんだけどちょっと、アレだった物だから俺が自主的に作らせて貰った。前世じゃ自炊なんて当たり前にしてたからな、経験しておいて良かったわホントに。


 ちなみにさっき話で出てきた俺の父さんは異能関係の仕事をする公務員だ。我が子を物凄く溺愛しており、時折り鬱陶しく思ってしまうほど愛を注がれまくっている。まあ、大人になれば愛なんてそう簡単に貰えないからな、一生分以上の愛をくれている父さんには感謝だ。


 あと、父さんも母さんに見合うほどのイケメンだ。きっと学生時代はキャアキャア言われた事だろう、羨ましいぜ。


「いつも悪いわね〜」


「いいよいいよ」


ーーードタドタドタ!


 おや? この二階から鳴り響く足音は、


「あら、またあの子ったら」


「いいよ母さん、俺も嬉しいし」


 おっと、一番大事な話をしていなかったな。実は今世の俺、ラノベ的シチュを絶賛経験中なのだ。


ーーードタバタドタバタ!


 そう、俺には、


「お兄ちゃん、おっかえり〜!」


 お兄ちゃん大好きな妹がいるのだ!!!


「ただいま、理華」


 階段を降りて俺を見るや否や飛びつく彼女、荒宮理華。俺の最愛の妹である。


 お淑やかな母さんに過保護な父さん、そしてハイパープリティーな妹! あと俺。


 四人家族の我が家は俺の心のオアシスであり、俺の大切な場所だ。


▽▽▽


ーーーふんふふんふ〜ん♪


 人の寄り付かない廃ビル、そこで少女は気持ち良さげに鼻歌をする。


ーーーらん、ららんらーらん♪


 それは薄暗い廃墟に似合わず楽しく愉快な歌声で、少女は気分よく足をぶらぶら揺らしていた。


「らー♪ らー♪」


「随分と気分良さげだな」


「あっ、やっと来た」


 一人歌う彼女は自分以外の声を耳にして歌うのをやめ、椅子代わりに座っていた台の上から飛び降りる。


「よっこいしょ、っと。つけられて無いわよね?」


「当たり前だ。この仕事何年やってると思ってる」


 少女の前に現れたのは、スーツを着て疲れた様子のくたびれた中年男性だった。


「表だとうだつの上がらない冴えないリーマンなのにね」


「うるせえ、あれは会社が悪いんだ。今朝だって上司が……ああ、なんで俺はあんなブラックな所に入ったんだ」


 嫌な事でも思い出したのか、男は頭を押さえて喚き声を上げる。


「あなたも大変ねえ、社会って怖いわ〜」


「お前も実年齢は俺とタメだろうが、働けニート」


「いやよ、誰が好き好んで辛く苦しい社会の歯車として働かなくちゃいけないのよ」


「腐ってやがる……流石『寄生虫』だな、駄目人間っぷりが半端ない」


 寄生虫、そう呼ばれた少女は浮かばせていた笑みを引っ込め、顔を顰めさせた。


「その二つ名嫌いなのよね。私の事は『リカちゃん』って呼んで欲しいのに」


「なーにがリカちゃんだ。お前のやって来た事を考えればこれ以上なくピッタリな名前だろ」


「えーそうかしら?」


「じゃあ聞くが、お前以前の寄生先はどうした?」


「飽きたから殺したわ♪ あっ、家ごと燃やしたから証拠は残してないわよ」


「とびきり悪質な寄生虫じゃねえか」


 笑顔でそんな事を言ってのける少女に、やっぱこいつバケモンだわと密かに畏怖する男。


「それで、俺を呼び出したって事は」


「ええ、私に能力を使って欲しいの。そうねえ、小学生ぐらいの見た目にして欲しいわ」


「ったく、金は用意してるんだろうな?」


「ええ、以前住んでた家から根こそぎ頂いたわ。これでどう?」


 そう言って少女は隠していたアタッシュケースを取り出し、数百万にも及ぶ金を見せた。


「……やっぱ羨ましいぜ、そうやって生活を他人任せにして生きれるなんてさ」


「私だから出来るのよ、私達の立場が入れ替わってもあなたじゃこんなの無理でしょ?」


「まっ、そうだな。……それじゃあ始めるぞ」


 男はそう言って目を瞑る少女に手をかざし、自身の異能ーーー『容姿退行』を発動させる。


 中学生ほどだった彼女の見た目はみるみる幼くなっていき、そして最終的には小学校高学年ほどの姿へと変貌した。


「終わったぞ」


「……やっぱり何度やられても慣れない物ね。体が小さくなるっていうのは」


 彼女はほんの数分で劇的に変化した自身の体を眺めながら感想を述べる。


「最後にもう一度言うが、この能力で変わるのは見た目だけで、老いや体の不調を無くすことは出来んぞ。四十肩とか、そういう悩みは解決出来ないからな」


「分かってるわよ、常連の私に何回それ言うの? あと私はまだそんな悩み抱えてません」


 あんたは小姑かと、煩わしそうに少女は耳を塞ぐ。


「何回言っても理解しねえ奴が居るからこう口酸っぱく言ってんだよ。……そういやもう寄生先は決まってんのか?」


「ええ、まあね。あなたは知ってる? あの『放火魔』が捕まったっていう話」


「ああ知ってるさ。まさかあいつが捕まるとは思わなかったぜ。証拠隠滅にはお前と同じぐらい熱心にしてたのに、いったいどんなヘマをしたんだか」


「それがね、なんと捕まった理由がとある小学生にやられたからって噂なの」


「なに? ……いや、無い無い無い。なんであいつがガキにやられるんだよ、あいつがガキ相手にやられるなんて想像も付かねえぞ」


 放火魔は知る人ぞ知る有名な異能犯罪者だ。彼女の冷静さと苛烈さを良く知る男は、あり得ないと断言した。


「私も最初はそう思ったわ、でもね? その小学生について調べば調べるほど、それが事実だと思えて仕方ないの」


「……いったいどんなガキだ?」


 男がそう尋ねれば、少女は待ってましたと言わんばかりに説明し出す。


「荒宮流星、◯◇中学に通う男子中学生、家は両親と三人で暮らしており、その異能はランクD1の『威圧』、けれど一部の人間は彼は本当の能力を隠してるのだと疑念を抱いていてーーー」


「待て待て待て」


「なによ?」


 途中で遮られて不満に思う少女だが、男は一つ物申したかった。


「お前そんな情報どこから手に入れたんだよ」


「『情報屋』からよ」


「またわざわざあいつから情報を仕入れたのかよ」


「確かに高く付くけど、その価値は十分にあるわよ?」


 少女は話を戻すわと言って再び説明をしていった。


「ーーーとまあ色々と知れたけど、彼の異能だけは結局分からなかったのよね。で、いくら調べても正体の掴めない彼の異能に興味を持った情報屋が、私に依頼したの」


「……あー、つまりあれか? お前は依頼されたからその家に寄生すると」


「そういう事、私も興味があったし受けてもいいかなって」


「……そんだけの為に寄生先に選ばれるなんて、哀れなもんだな」


 彼女が寄生してきた家庭がどんな末路を辿ったかを知っている男は狙われた少年を哀れに思った。


「まあ、運が悪かったと思って欲しいわ」


「自分で言うな」


「でも、本当に運が悪いとしか言えないわね。……だって」


 そう言う彼女の顔は、


「私みたいなかわいい女の子と家族になる恐ろしい寄生虫に寄生されるんですもの」


 悪魔のような笑みを浮かべていた。


ーーーーーー


【認識改竄】ランクD0

寄生虫が使う異能。相手が持つ自身への認識を歪める能力。

発動条件は目を合わせるだけ、その効果はある制約に引っかからない限り永続される。と、非常に強力な異能である。ただし制約として"改竄した認識に矛盾を起こしてはならない"という物があり、相手が少しでも矛盾が起きてる事に気付けば即座に能力が解除される。

このように強力な分扱いが難しく、使用する際は改竄させる認識も詳細にしておかないとすぐに矛盾点が出てしまう。


【リカちゃん】

寄生虫という異名を持った異能犯罪者。

ターゲットとなる家庭に自身の異能『認識改竄』を使用し、自身を家族だと思い込ませて堂々とニート生活を送る。その生活に飽きたら証拠隠滅の為にその家族全員を皆殺しにする。そして再びどこかの家の子どもへと成り済ます。『寄生虫』の名に相応しいその所業は、巧みな隠蔽工作によって一部の者にしか知られていない。

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