第10話 アピールの積み重ねが実は全部裏目に出てるっていうね

 二度目の中学生を送ってから半年ほど経った。ここいらで俺が少しでもリア充になろうと頑張った話をしようでは無いか。


 まず、俺が自己紹介をした時の話をしよう。


▽▽▽


「えー、それでは皆さん一人ずつ自己紹介をしていきましょう」


 中学生になって初めての自己紹介が始まった。新学期特有の静寂が辺りには流れており、自己紹介という自分をアピールする場でどう動くかを皆が思考を巡らせていた。


「じゃあまず初めに、荒宮さんから」


「はい」


 そして動く上で指標となるのはやはり最初に自己紹介をする人間である。出席番号一番である彼はどんな自己紹介をするのか、皆が聞き逃すまいと彼の方へと耳を傾ける。


「☆○小学校から来ました。荒宮流星と言います。趣味は体を鍛える事、好きな食べ物は───」


 ありきたりな言葉を述べていく、しかし澱みなく話している様子には全く緊張の色が無く、話すのが苦手な子は彼に感心していた。また、顔の良い流星のそんな姿を見て彼氏候補にするませた女子も居た。


「───以上です。皆さん、この一年間よろしくおねがい」


「なあなあ、お前の異能ってなんなんだよ?」


 流星が自己紹介を終えようとした時、一人の男子生徒がいきなりそんな事を言い出した。


「異能、ですか」


「そうだよ、なんだよ言えねえのか?」


 そう言って異能を喋らない流星を見て、その男子は見下していた。


 自分に自信がありそうなこの少年、おそらく小学生の頃は強い異能を持ったが故に周りからチヤホヤされてた口だろう。そういう者が中学で浮いて孤立するというのはよくある話だった。


「なあなあ、隠さず見せてくれよ〜、気になるじゃんか」


「……そうですね」


 流星は動揺する事なく、少し困った笑みを浮かべて、


「じゃあ少しだけ」


 そう言った。……瞬間、


 彼は強い圧をクラス内に満たした。


「「「っ!?」」」


 背筋を凍らす悪寒、流星を除く全員がそれを感じ取った。暴力的な圧はただの子どもにはとても耐えれる物じゃなく、中には腰を抜かした者もいた。


「───っと、これが僕の異能、『威圧』です」


 その悪寒も僅か数秒で収まった。流星が周りの様子を見てすぐに異能を解除したのだ。


「い、威圧だって?」


 流星に異能を見せるよう言ってきた少年は体を震わしながら聞き返す。


「はい、言葉の通り、相手を威圧させるだけの能力で、皆さんが感じた恐怖は能力による物です。それだけの能力ですので皆さん怖がらずに話しかけて貰えると嬉しいです」


 改めてこの一年間よろしくお願いします。そう言って流星は着席する。


 なお、彼氏候補にしていた女子達はさっきのを見て付き合おうとは思わなくなったそうな。


▽▽▽


───という感じだった。どうだ? 完璧な自己紹介ムーブだろ? きっと第三者の視点から見ても俺という人間がありありと伝わって来てたであろう。


 特に異能見せろやと無茶振りされたココ! 戸惑う事なく落ち着いて披露し、威圧という弱い異能を恥ずかしがらず自信を持って言えた。まあ、舐められたくないという思いからちょっと出力強めにしたのは失敗だったわ、恐怖で泣きそうになってた子には悪い事しちゃったな。


 それと俺のクラスには、なんとランクA5の異能を持った人がいるのだ。しかもその人というのが今朝に俺がオラオラ系男子の魔の手から救ったあの少女だったのだ。


 いやぁ、居るもんなんだな。ランクがAで、しかも5の異能力者って。確かランクがAや4以上の異能力者って世界的に見ても十パーセントとかなり少ないって言うし。


 はぁ〜〜〜!(クソデカため息)


 俺も欲しかったなぁ!?(強欲) 転生特典とか無かったんでしょうかねー!?(強欲) こんちくしょうめが!!(逆ギレ)


 ま、まあ? 俺もなんだかんだ『威圧』の力には助かってるし、上手く使えば頼れる相棒だし? 羨ましいなんて微塵も思ってないんだからね!!(大嘘)


……もう、もうよそう。こんな話は誰も幸せにならない。もっと『威圧』くんの良い所を話していこうよ。


 という訳で話していくんだが、実は俺の『威圧』、最近威圧する範囲を弄れるようになったんだ。


 一年前からかな? なんか謎エネルギーの出力があんまし上がらなくなったんだよな。いつもの成長度合が10だとしたら今は1って感じだ。なお原因は未だに不明。脳内会議では成長期が終わった説が有力説という結論となりました。


 それでこのまま同じ訓練をやり続けるのは悪手だと考えた俺は別の方面を成長するようシフトした。


 この能力の一番面倒な点は、範囲内に居る生物全てを威圧する所だ。もしこの状態で戦闘に使えば、敵味方関係なく威圧させる事となる。相変わらず使いづれー。


 そんな事態にならないよう、俺は威圧を使う際に放たれる謎エネルギーに指向性を持たせれるように訓練を始めた。


 久しぶりに異能の研究をやったけど、やっぱり異能というのは興味深い。調べれば調べるほど意味分かんないぐらい謎が多い。


 異能とはいつからあったのか? 能力は遺伝するのか? そもそも異能とはなんなのか?


 各国の偉い人から世界中の天才がその謎を追求しようとしたが、そのどれもがよく分からんという結論へと辿り着いてしまう。


 かく言う俺もなんだが、それでも前世の"異能が無い世界"を経験してきた故の発想もあり、そのお陰で独自に研究している割には進展している方だと思う。


 で、その研究の末に俺は謎エネルギーの有効範囲を設定出来るようになったのだ。今後はここから発展させて特定の相手のみに威圧の対象に出来るようにしたいと考えている。


……と、話を戻そう。それで俺の完璧な自己紹介による効果なんだが、そんなに無かった。逆に怖がられる始末。やっぱ『威圧』使ったせいかな? オデ、コワクナイ、ヤサシイ……いやホントビビらなくていいから。


 そんな現状でもリア充ライフを諦めきれなかった俺にチャンスが訪れたのだ。


 なんと、俺のクラスメイトが他のクラスのイキリ系男子共にイジメられていたのだ。


 これは見逃せん! クラスメイトを助けにいざ行かん! そしてあわよくば友達になって下さい。


 そんな想いを胸にいじめっ子達に立ち向かった俺の話をしようではないか。


▽▽▽


 中学生になって三ヶ月ほど経った頃、ある少年はいじめを受けていた。


「トモキくーん、黙ってないで喋ろうよー」


 相手は前に居た小学校のクラスメイト。トモキと呼ばれた少年は一度親の都合で小学校を転校しており、その転校前の小学校で彼らにいじめられていたのだ。そして少し前に彼らと再開してしまったトモキは、


「ぅ、ぇっと、ぁの」


「えーなんて? 声ちっちゃくて分かんない」


「「ギャハハ!」」


 こうして再び彼らの玩具となってしまったのだ。


「……」


 トモキの心には暗雲が立ちこみ、段々と惨めな気持ちになってきた。


「ぅ、ぅぅ」


 心の弱い彼は言い返す事も出来ず、打ちひしがれていた。


 このままでは引きこもりになるのも時間の問題だとだろう。


(誰か、助けて)


 助けを求める心の叫び、それに駆け付ける者は……居た。


「何をしてるんだい?」


「……ぇ?」


 彼の助けに応えた者は、自己紹介の時にクラス全員を恐れさせた異質な少年、荒宮流星だった。


「あ? なにおまえ?」


「そこに居る前田友喜くんのクラスメイトです」


(あ、名前覚えてくれてる)


 余談になるが、流星はクラス全員の名前を始まって三日で覚えていた。事前に名前を知っているというのは相手と仲良くなる為には重要だと知っていたからだ。なお、クラスメイトと仲良くなる機会は訪れていない模様。


「それで、君達は何をしてるんだい? 彼、嫌がってるように見えるけど」


「なにおまえ? 俺達に説教してんの? 異能が弱い癖によぉ!」


「たつっちから聞いたぜ。お前、自己紹介で弱い癖にイキったんだってな!」


(うわっ、俺の事知ってるのかよ。これじゃハッタリ使えないじゃん)


 お得意の技が使えない流星は対処が面倒だと思いながらも撃退は可能だと考えていた。


「まあそうだね。でも、異能が弱くても君達になら僕でも勝てるよ」


 流星は肩をすくめるとそんな風に安そうな挑発をする。


「なんだとゴラァ!」


 するとそれに一人乗ってきて流星へ殴り掛かる。


 彼の異能は『鉄拳』、殴った拳を鉄のように硬くなる能力である。なんの訓練も施されてない子どものパンチでも凶器となり得るその拳を。


「よっ、と」


 流星は軽く受け流した。


「なっ!?」


「受け止めようと思ったけど、なんだか自信満々だったからね。なんだか鉄みたいな感触してたし受け流して正解だったよ」


「て、テメェ」


 受け流したのはまぐれだと判断した彼は何度も拳を放つも、そのどれもが空ぶってしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「まだやるかい?」


 全力のパンチを撃ち続けて疲労困憊の彼に対し、流星はけろりとしていた。


「く、くそっ!」


「どけ! 俺がボコしてやる」


 そう言って出てきたのは、友喜をいじめていた中心人物だった。


「へへ、雑魚な能力しか無いお前じゃこれは防げないだろ」


 そう言って手のひらから氷柱を生成する。


 『氷柱生成』、氷柱を生成して発射する能力である。


(うわ〜遠距離かよ。しかもこの位置、俺が避けると氷柱が窓を破っちゃうよな。それだけならいいけどもし窓の方に人が居たら……)


 流星達が居るのは二階、もし氷柱が窓を破って落ちてしまえば、下に居る人間はただじゃ済まない。


(あの大きさなら弾く事も出来ると思うけど、それでこの場を納めても今度は俺をいじめの標的にしそうなんだよなぁ)


 異能も使わずに撃退された。相手はその事に屈辱を感じるだろう。そうなれば彼らはその屈辱を晴らそうと、矛先を流星に向けるだろう。


(……やりたくなかったし成功するかも分からないけど、やっぱやるしか無いかぁ)


 それは流星がまだ人生勝ち組ルートを諦めていなかった頃に考えていた一つの案である。


「前田くん、ちょっと驚くかも知れないけど我慢してね」(ステップ1、今からやる事に真実味を持たせます)


「え?」


「? なんの話だ」


「君達が本気で僕を害そうとしてるからね」(ステップ2───)


「───僕もちょっと異能を使おうと思ったんだ」(ハッタリをかまします)


「っ!?」


 息を呑むほどの強烈な圧が、動けば命の保障は無いと言わんばかりの恐怖を、その場にいる全員が感じた。


「な、なんだよ、これ!」


「ひぃっ!?」


 いじめっ子達は震えて腰を抜かしてその場にへたり込む。


「……は、はは! な、なんだよ、驚かすなよ。それあれだろ? お前の異能なんだろ?」


 しかし、一人だけはとある事を思い出して立ち直る。そう、流星は自己紹介の時に自身の異能を怖がらせるだけの能力と言っている。彼は友人からそう聞いているのだ。


「うん、確かに僕は自己紹介の時に、今みたいに相手を威圧する能力。それだけの能力と言ったね」


「はっ! だったら怖がる必要なんて」


「でもね? それが嘘だとしたら?」


「……は、はあ?」


 自己紹介で言っていた能力が嘘、それを聞いていじめっ子は困惑した。


 異能を強く見せようと大袈裟に話すのなら分かる。現にこの少年もクラスの自己紹介の時に能力について少し持っている。しかしその逆、異能を弱く見せる事になんのメリットが? いじめっ子は理解出来なかった。


「僕は平和に、静かに生きたいんだ。正当な評価はいらない。だって僕の場合、異能の評価が高すぎて平穏な人生を送れなくなる可能性があるから」


 初めは単なるハッタリだと、この場を切り抜ける為の嘘だと思っていた。だが、


「今この瞬間だって怖いんだ。もし僕の異能を大人に見られたら、きっと僕の人生は騒がしくなってしまう」


 これが嘘を付く者の姿なのか? この能力は『威圧』という能力では無いのか?


「もし君ら如きに異能を使う事で僕の人生がめちゃくちゃになったら……どうしてくれようか?」


 そう言う流星の目は笑っておらず、形だけの笑みを浮かべていた。


(……本当なんだ)


 その瞬間、いじめっ子は理解した。今までの言葉に嘘偽りは無く、もし自分が反撃しようものなら一瞬で倒される。……いや、倒されるだけに留まらないかも知れない。


 彼は言っていた。異能がバレたら困ると、そしてもし自分達が原因でバレたら……原因である自分達に報復すると。


「う、うわぁー!!!」


 殺される。そう悟ったいじめっ子達は一心不乱に走り去った。


「……」(ステップ3、ハッタリした事実は死ぬまで隠しておきましょう)


▽▽▽


───と、俺は見事にいじめっ子達を撃退した訳だ。中々イカしてるだろう? ちなみにその後いじめられてた彼とは友達にはならず、あれ以降めっちゃビビられるようになりました。なんでや。


 それといじめっ子達なんだけど、噂だと学校に来なくなったみたいで……ヤベェ、これ絶対やり過ぎたわ。


 彼らの将来を考えると非常に心苦しいのだが、これもいじめをしていた報いだと思っておこう。でないと俺の心が死ぬ。


 とまあ、以上が俺のここ半年間やってきた活動だ。他にも周りから話しかけやすいように色々してきたが、どれも実らず。うーん、後半はともかく残りのは上手くやれていた筈なんだけどなぁ。


 そんな俺の中学ライフは順調にぼっちルートを辿りつつあった。なんでや。

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