中学生編(魔王の誕生)

第9話 戦闘狂の言動って変態と勘違いされやすいよね

「よく今まで俺の修行について来た。数段レベルを落としてるとは言え、その年でここまでの領域に辿り着いて見せたんだ。誇るがいい」


 そう言って激励する師匠。師匠に褒められた事が一度も無い俺としては感動で涙を流したい所なんだが、


「そうか……話はそれだけか? こんな森の奥深くまで来たんだ。何かやらせようとしてんだろ?」


 敢えて俺は師匠のありがたい言葉に興味なさげにし、はよ進めろやと本題に入るよう促す。とんだ悪いお口です事。


 なぜ俺が師匠の前でこんな失礼極まりない態度を取っているのかと言うと、


「クカカ! 言葉よりも力を望む、か。そうでなくちゃあなぁ?」


 こういう事だ。なんかこっちの態度の方が評価が良いんだよな、流石俺以外の弟子を頑なに取らない頑固じいさんだけある。すっげぇ変わり者だ。


「今からお前さんに教えるのは森海流の奥義だ」


「っ! おいおい、随分と早いな」


 マジで!? もう教えてくれんの? 俺まだ全然修行途中だと思ってたんだけど。


「なんか勘違いしてるみたいだが、俺はやり方を教えるだけだ。今のお前が体得出来るなんて思っちゃいねぇ」


「? じゃあなんで教えるんだ?」


 出来る訳ないと言ってるのに奥義を教えるとはこれいかに? そんな俺の疑問もすぐに解消された。


「この奥義は森海流のあらゆる技術を身に付けている前提で使う技だ。森海流の終着点とも言えるこの奥義を見れば、お前さんも今後の修行で何を見ていけば良いのか自ずと分かるだろう」


「なるほどな、確かに明確な目標があるのはいい事だ」


「あとは、まあ……坊主の進級祝いと今まで俺の修行を乗り越え続けてきたご褒美って奴だ」


 し、師匠……そんな照れ臭そうにしちゃってさあもう! 一生ついて行くっす!!


「はっ! 驚いたぞ、まさかあんたからそんな言葉が聞けるなんてな」


「る、るせぇ! 俺だって弟子が成長すりゃ嬉しくなんだよ」


「悪い悪い、ありがとな。これからも俺を強くする為に協力して貰うぜ」


 最近はちょっともう強くなるのはいいかなって思うようになって辞めようかなって考えてたけど、ここまでされちゃったら奥義ゲットするまで頑張るしか無いだろうよ!


「クカカ! おうとも、そんじゃ今から奥義を見せる。目を離すなよ?」


 そう言って師匠は奥義を使ってみせた。俺はその一挙手一投足を見て……み、て……


「これがお前が将来会得する技だ。分かったか?」


(いや無理だろ!?)


 なんだったんだあの動き、人間の可動域ギリギリじゃねえか! なまじ武を身に付けてるから分かる。あれはヤバい、主に修得難易度が。


「お前にはアレを会得して貰う。その為にも今から新たな修行を始めるぞ」


『拒否権はありませんか?』


 なーんて言いたいけど、そんな事言われたらぶん殴られるだろうなー、嫌だなー、でもアレが使えれるようになる前に俺死んじゃいそうだなー、怖いなー。


 かくして俺は変態的な奥義を手に入れる為、過酷な修行に身を費やすのであった。イヤダーシニタクナーイ


▽▽▽


 今日から始まる中学ライフ。僅かな期待と大きな不安を胸に学校へ向かう俺の心は既にボロボロだった。


 我が師よ、ちょっと加減という物を覚えてはいかがでしょうか? え? そんな言葉知らない? ……そっかぁ。(諦め)


 いや、体の方は問題ないのよ。問題なのは心の疲労だ。なんか前世の社畜時代を思い出した。


(はぁ……ん?)


 始まったばかりだと言うのにもうサボりたくなってきた俺は、学校へ向かう道中で人だかりを見つけた。


(なんじゃろなっ、と)


 気になった俺は軽い気持ちで人だかり隙間を縫うようにその中心地へと潜り込んだ。そこに居たのは二人の男女であった。


「なあいいじゃねえか、さっさとやろうぜ」


 野性味溢れるオラオラ系のイケメン男子は悪どい笑みを浮かべて少女に言う。


「なぜあなたとやらなくちゃいけないのかしら? 頭沸いてるの?」


 対するクールビューティーといった雰囲気を放つ少女の方は、冷めた目で少年を見ていた。


「いいじゃねえか、減るもんでもねえし。ちゃんと寸止めすっからよ」


「そもそもやる事自体が嫌なのよ、これまでの言動を聞いてそれぐらい理解しなさいよね」


 どちらも一歩引くどころかヒートアップする始末で、もう一触即発といった雰囲気だった。……というか、


(えぇ、いや、ちょっと……えぇ)


 マジすか? こんな朝早くに、しかも人だかりが集まってるってのに。いやホント、マジすか。


 しかもあの制服、うちの学校の生徒じゃないですかヤダー。おまけに付けてる校章の色、俺と同じ新入生じゃないですかヤダー。


 今すぐにでも少年がおっ始めそうな雰囲気に、周りの野次馬達も騒ついている。いや騒つくなや、さっさと止めなさいよ。


(そう言う俺も止めに行った方が良いんだろうけど、果たして俺に出来るかどうか)


 俺の肉体的スペックは師匠に鍛えられたおかげでかなり高いと自負している。最近は修行も地獄のようにキツい物へと進化してるからより強くなってると感じている。


 しかし、それでも強力な異能力者には勝てないだろう。


(あいつの異能が何かは知らないが、流石に戦闘力がDって事は無いだろう)


 そうじゃなきゃナンパなんて真似しないだろう。となるとやはり俺が出しゃばって解決出来るか分からない訳で、ここは警察に通報するのがかしこい選択だろう。


 そう判断した俺がスマホを手に取ろうとした時、


「強情だねえ、なら無理矢理にでも」


 そう言って少年は彼女に向かって襲い掛かろうとしていた。


(レ◯プはダメぇぇええ!!!)


 強硬手段に出るのは流石に見過ごせない。俺は久しく使っていなかった『威圧』を出力弱めで発動した。


「「「!?」」」


 その瞬間、男のみならず襲われかけた少女も、そして野次馬さえも俺の方を振り向いた。


(良しっ! こっちに注目できた。でもこっからなんも考えてねえ!?)


 とりあえず少女には逃げてもらおうと、彼女に話しかけた。


「今のうちに離れて」


「……」


 しかし、少女は俺にガンを飛ばすまま動かなかった。


「どうしたの? ……ああ、そっか」


 威圧を使ってるせいで俺を警戒しているんだろう。注目させる事には成功した訳だし、威圧は解除しておこう。


「はい、これで大丈夫でしょ?」


 怖くないよー、といった風な優しい笑みを彼女に見せる。


「なんだあ? お前の知り合いか?」


「し、知らないわ」


「ふーん? ……で、こいつとのやり合いを邪魔した訳だが、代わりにお前がやってくれんのかあ?」


「悪いけど僕にそんな趣味は無いかな」(え? 嘘でしょ? この人両方イケる口?)


 内心めちゃくちゃ引いてる俺をよそに、男はまじまじと俺の体を見てブツブツ独り言を呟く。


「凄まじい体幹だな、どんな地形でも全くブレる感じがしねえ。それに筋肉も凄い、軽さを重視してるのか一見細身だが、実際にはそんじょそこらの奴とは比較にならないほどのパワーを持ってそうだな。こりゃ確実になんかの武術を習ってるねえ」


(な、なんだこいつ?)


 いきなり早口で俺の体について語り始めた。正直言ってすっげえ気持ち悪いです。


「異能は……うーん? ピンと来ないな、さっきの圧は自前の物か? まっ、いいか。それじゃあ」


 瞬間、男は凶悪な笑みを浮かべて戦意を剥き出ししてきた。……ん? 戦意?


「えっと、ちなみに彼女とは何をしようと?」


「ああ? 戦おうとしてたに決まってんだろ」


「……」


 あ、ふーん。そ、そうなんだ。やるというのは戦と書いて戦るだったんだね、へー……。


(あ゛あ゛あ゛!!!!)←悶え苦しむ音


 なんだよ! とんだ勘違いじゃねえか!? あっぶな、口に出さなくてホント良かった! マジで赤っ恥かくところだったわ!


「どしたあ? 急に体を震わして。武者震いか?」


「い、いや気にしないで欲しい。いやホントに」


 いや、そもそもなんであの少女と戦いたいたかったんだこいつ?


「……」


 そして当人である少女よ、こいつから離れたのは良いけど観戦しないで逃げてくれないかね?


「そうかあ? そんじゃそろそろ始めよう、っぜ!」


(ったく、本当にやりに来るなんて……お?)


 少年は真っ直ぐ突き進む、かと思いきやフェイントを混えつつステップを入れる。


(こいつ)


 そして彼は俺の右の頬目掛けて鋭い拳を放つ。


(戦い慣れてるな?)


 この拳は陽動、本命はおそらく蹴りだ。俺が拳を防いでる隙に蹴りを一発入れるって算段なんだろうが、


(だが甘い!)


 俺は向かってくる拳を手のひらで受け流し、軌道を逸らす。


「うおっと!」


 すると男は体勢を崩し、本命の蹴りを放てずにいた。


(そんな攻撃、師匠に長年鍛えられた俺には効かぬわ!!)


 この隙を見逃すほど俺は甘くない。奴が足元をふらつかせてる間に足払いを掛け、尻もちを付けた所で勝利宣言をするのだ。


『まだやる? 君ならさっきので理解出来ると思うけど』


 あれ? なんか俺めっちゃカッコよくね? イケイケじゃね? そこからクールに去れば……おお、すごくカッコいい! 師匠の扱きに耐え続けて良かった。炎使いと戦った以外であんまし使わなかったけど、この力はこの日の為にあったんだね!


……なーんてアホな事を考えてたのがいけなかった。


 足払いを掛けようとしたその時、彼は自ら体勢を崩しながらこちらに片方の腕を向けた。


 いったい何のつもりかと思ったが、この世には異能という未知の力がある事を思い出した俺は、急いで足払いを掛けるのをやめて後ろへバックステップした。


「っ!」


 すると、彼の袖の中から鋭い何かが飛び出してきて、俺の髪の毛の先をハラリと切り取った。


「へえ? こいつもかわすんだ」


 そう言って少年は袖の中からソレを取り出した。


 取り出したのはレイピアのような武器だった。けれどそれは単なる武器ではなく、青く透き通っており、表面を波打っていた。


「……水の武器、それが君の異能か」


「ご名答、お前も異能を出し惜しみしない方がいいぜ? 俺みたいに足元をすくわれちまうからなあ」


「ご忠告どうも、けど僕の異能は戦闘向きじゃないからね。このままで行くよ」


「そう、かい!」


 彼は水の形状をレイピアから刀に変え、その刃を俺に向けて斬りにかかる。


(おいおいおい、刃物は卑怯だろう刃物は)


 内心あたふたしつつも、体はしっかりと迎撃の体勢に入っていた。


 俺はさっき拳を逸らしたのと同じ要領で手のひらを刃の部分に当てて軌道を逸らそうとした。しかし、


「そいつぁさっきも見たなあ!」


 刃が手のひらに触れる寸前、触れようとした箇所から先の刃の部分が形を失い、ただの水と化した。


「っ!」


 そして流れるように水は形を変えてナイフへと変化する。


「俺の武器は変幻自在だぜ?」


 懐に潜り込まれている俺はそのナイフの突きに対応出来そうになく、


(あかんあかんあかん! これはマジであかん!)


 俺は刺される恐怖でパニックになり、思わず全力の『威圧』を放った。


「っ!」


 すると男は顔色を変えた。


(効いたか!?)


 そしてさっきまで感じられなかった殺意をナイフに込めた。


(なんでぇ!?)


 もうダメだおしまいだ。俺はこのまま刺されて病院送りなんだ。そして登校初日で不運な事故に遭った哀れな奴として噂されるんだ。


 俺が諦めたその時、


「そこまでよ」


 ナイフを突き出す彼の腕を何者かが掴んだ。


「き、君は」


 その子は、先程この少年に戦いを強要されていた少女だった。


「これ以上は周りに被害が出るわ、やるなら他所でやりなさい」


 そう言って俺と少年に言う。向こうはともかくなぜ俺も睨まれとるん? ……あっ、威圧使っとるやんけ。オフにしとかな。


「そうだなあ、流石にこれ以上やるのは不味そうだしな」


 俺が威圧を切ると、向こうも今度は素直に少女の言葉に従ってナイフを下ろした。


「……あなたもこれでいい?」


「うん、僕は構わないよ」


 というかこれでいいって、喧嘩売られたのこっちだよ? そんなわざわざ聞かなくても……あれ、今何時だ?


「それじゃあ僕はこれで」


 ヤベー、変な所で時間食っちまった。入学早々遅刻なんて悪目立ちしたくないぞ。


 さっさと行かねばと、俺は未だに俺達を囲う人だかりを突っ切った。幸い、人だかりは俺が通ろうとすると勝手に避けてくれたので時間を食わずに済んだ。


▽▽▽


 戦いが終わると、彼はすぐにこの場を去って行った。既に興味を失ったのか、こちらを一瞥する事も無かった。


「……」


 私は去り行く彼の背を見ながら考えていた、彼がいったい何者なのかを。


 高い身体能力と巧みな武術を兼ね備え、最後まで異能を使う事なく異能を使う相手に戦ってみせた。


……いえ、最後の最後で使おうとしていたみたいだけれど。


 あの時、彼からとてつもない圧が放たれた。悲鳴一つ許されない圧倒的な恐怖を叩きつけられた。


 私が戦いを中断させれたから何も起きなかったものの、止めれずにいたらどうなっていた事か……考えたくもない。


……っと、早く学校へ行かなきゃ。全く、あいつのせいで時間を食っちゃったわ。


 そういえば、彼の制服って私の学校の物と同じだったわね。それにあいつも彼と同じ制服……。


 頭のおかしい不良に未知数の強さを持った怪物。


(あんなのと一緒のクラスにならない事を願うわ)


 これが世に言うフラグと言うのか、私は怪物の方と同じクラスになってしまった。

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