第8話 こうして物語は一旦区切られる

 炎使いとの死闘?を繰り広げてから三年あまり、今日で俺はこの学校を卒業します!


 いきなり飛んだなって? 仕方ないじゃん。あれ以来とくにイベント起きなかったし。


 強いて言えば、師匠が課す修行が日に日に厳しくなって明日をまともに生きれるか常々不安だったり、異能が弱くてもクラスのみんなは変わらず俺を慕ってくれて嬉しかったなという事だったり、緋雨と一緒に夏祭りへ行ったり……ああ、あったわイベント。


 実は俺、緋雨と友達になったのだ。


 なぜあんなに俺に突っかかて来た奴が友達になりたいんだと思うだろうが、納得の理由がある。少しばかり長くなるが、語ろうではないか。



★★★



 炎使いとの戦いを終えてから半月、俺の学校生活は至って平和であった。


 異能が使える事をバラした翌日、学校に行く時の俺の気分は最悪だった。


 昨日まで後悔する訳ないと高を括っていたのだが、やはり『威圧』なんてヘボ異能でクラスのカースト上位勢の地位を保てるとは到底思えず、正直めちゃくちゃ後悔していた。


 やっぱりあの眺めを捨てるのは嫌なんよ! 一度手に入れた地位を手放したくないんよ! これが悪事に手を染める政治家の気持ちか。


 しかしイヤイヤ言ってても埒が明かないのも事実で、俺は意を決して教室に入った。


 するとどうだろう、クラスメイト達はまるで俺をヒーローでも見るかのような目をしていたのだ。


 なぜ? 困惑していた俺にケンタくんがこんな事を聞いてきた。


「なあなあ! 不審者を倒したって話、本当なのか!」


(……あっ、そういう事)


 どうやら彼らにとって、異能云々よりも不審者を撃退した事の方に注目したらしい。


 これはクラスのみならず、学校中で話題の種になってるみたいで、みんなが俺の事を憧れのヒーローが如く見ていた。どうりで教室に向かう道中、熱い視線を送られていた訳だ。


 そこから俺は、偉そうな態度を取らないようにしつつ、武勇伝として不審者との戦いを語った。少々脚色した気もするが、まあ武勇伝って大体そんな物だろ。


 それでいつも突っかかってくる四方堂なのだが、どうやらしばらくお休みらしい。


 なんでもどこかの犯罪グループが四方堂を狙っているらしく、今回の事件を聞いて事態が収まるまで四方堂には家に居てもらう事になったそうな。


 ちなみにその犯罪グループはその一週間後に壊滅したらしい。強すぎだろ四方堂グループ。


 そこからしばらく経って今日、四方堂が学校に来れるようになったのだ。


「四方堂さん今日から学校来れるんだ。良かったね」


「荒宮流星!」


「ん?」


 また勝負だ勝負だと突っかかれるのかなぁと、憂鬱になったりしたが、四方堂は予想の斜め上の事を言った。


「えっと、今まで、その……迷惑かけてごめんなさい!」


「へ?」


「私、あなたに凄いって言われたくて今まで勝負を挑んだの。異能で勝負がしたかったのも、異能で勝てばあなたに凄いって言われるかもって、思って、その」


「……」


 な、何が起きてるんだ? えーと、つまりあれか? 四方堂は俺に凄いって言われたいから勝負で俺を負かして自分が凄いと言わせたかった……って事か?


「えっと、僕に凄いって言われたかったから今までずっと勝負を?」


「……」


 四方堂はコクリと頷く。……マジか、それだけの為に通算二百は超えるであろう数の勝負を俺に挑み続けたのかよ。どんだけ凄いって言われたいんだこの子。


「ゆ、許してくれる、かしら?」


「あ、はい」


 軽い返事になったけど、仕方ないじゃん。だって俺、この子に凄い憎まれてると思ってたもん。それがこんな子どもみたいな、いや子どもでさえこんなに勝負を挑み続けようと思わないだろ。


「ほ、ほんと? じゃあその……と、友達になってくれないかしら?」


「友達?」


 じゃあという意味は分からないが、元々この子は俺と友達になりたかったのか?


「別に良いけど」


「い、いいの!?」


「え? う、うん」


「ほ、本当に? 本当の本当?」


「いや本当だって」


 しつこいなぁと若干思ってしまった俺に、四方堂は悲しそうな顔でこう言ってきた。


「だってあなた、ずっと私を見ようとしなかったじゃない」


「……っ!」


 この時、俺はハッとしてようやく気付けた。


(そうだ。俺はこの子を頑なに他人として扱ってきた)


 それはなぜか? だって俺は金持ちが嫌いだから。


 前世の俺はいつも金持ち連中に踏み台にされてきた。中には良くつるんでいた奴もいたが、結局はそいつも俺の事を裏で見下していた。


 俺は自分でも知らない内に、金持ちとは関わらない方が良いという捻くれた教訓を持ってしまっていたのだ。


(……違うだろ俺、あいつらとこの子は別だろ)


 この子は努力家だ。俺に勝とうと懸命に頑張ってきた。しかも決して俺が不利にならないよう、俺の苦手な分野は避けていた。


 全ては俺に、凄いと言われたいから。


(なるほど、ずっと他人のように扱ってくる俺に一泡吹かせたくて今まで勝負を仕掛けたんだな)


 そう思うとずっとぞんざいに扱ってきた事が申し訳なくなってきた。


「ど、どうかしたの?」


「……四方堂さん、ごめん。確かに僕は君を毛嫌いしていた」


「っ!」


「でも、もう大丈夫。気持ちの整理はつけれた。こんな僕でよければぜひ、友達になって下さい」


「う、うん!」


 四方堂は笑顔で頷く。その笑顔は可愛らしく、今までこんな子を雑に扱ってきた自分が信じられなかった。


▽▽▽


 それ以来、俺は彼女の事を緋雨と呼び、緋雨は俺の事を流星と呼ぶようになった。


 友達になった後は色んな思い出を……作れたら良かったのだが、残念ながら彼女は自分磨きの為にと恐ろしい数の習い事をしており、そのせいで学校以外で遊べる予定が非常に少なく、未だに遊んだ数より勝負に挑まれた数の方が多いという現状だった。


 更に更に、緋雨が通う中学は名門のお嬢様学校であり、そこは俺が通うごく普通の学校から結構離れた所にある。


 中学を通う間は別邸に住まう予定らしく、必然的に疎遠になってしまうであろうと言われた。


 せっかく友達になったのにイベントが少ない! そう嘆く俺は小六の時に夏祭りに行こうぜと彼女を誘った。


 ダメ元で誘ったが、なんと快諾してくれた。俺は習い事は大丈夫なのかと聞いたが、それはなんとかすると言われた。……いや、なんとかするってどうすんねん。


 そう思った俺なのだが、どうやら本当になんとかしたようでその日の予定を丸一日消したらしい。


 そして夏祭りが始まり、俺と緋雨、あと保護者としていつもの付き人三人組が来た。あの人達いっつも俺の事を睨んでくるんだけど、もしかして緋雨に下心があるのではと考えてるのではなかろうか?


 安心して欲しい。俺は決して彼女と付き合おうなんて思わない。金持ちだからとかではなく、単純に恋愛対象として見れないのだ。だって俺、前世では立派な大人だったもん。未成年と付き合うなんて図太い精神はとてもとても……。


 そうして楽しい夏祭りも終わり、そこかはいつも通りの日々が続き、そのまま卒業式を迎えるのであった。


(いやー、俺の小学校生活って中々濃かったな。楽しかったけど中学ではもう少し控えめに行きたいな)


 確実に前世より良い思いはしてるけど、流石にこんな日々がずっと続くと体が持たない。


 中学では優雅路線でいこうと、卒業証書を広げて両親に写真を撮られまくる俺はそう考えるのだった。




ーーーーーー




あとがき)登場した異能の紹介

物語の主人公、荒宮流星が小学校を卒業した。ここいらで今まで登場してきた異能を解説しようと思う。


【威圧】ランクD1

荒宮流星が使う異能。文字通り相手を威圧させる能力。本人いわく、体から謎エネルギーを放出して相手を威圧させるらしい。

ぶっち切りで弱い能力だが、ハッタリで使う分には優秀であり、持ち主の技量次第では頼れる異能となるだろう。


【凝視崩壊】ランクB3

四方堂緋雨が使う異能。凝視した対象を塵に変える能力。

どんな物でも問答無用で崩壊できる強力な異能だが、対象をしっかり視認していないと発動せず、気体や液体などは能力の対象外となるので、戦闘では環境や相性が重要となってくるだろう。また、凝視する必要がある為に集団戦では不利となり得る。


【灼熱放散】ランクB2

放火魔が使う異能。体内の熱を逃がす熱放散を過剰な熱量で放出できる能力。

原理としては熱放散と同じなので、体中から炎を出す事が可能。しかし、使い過ぎると体から熱が無くなって凍死する危険性がある。

異能の影響で彼女の平均体温は40を超えており、そのせいで彼女は大変暑がりとなってしまい、少しでも涼しもうとした結果、露出度の高い服を着るようになった。


【危機察知】ランクC1

アルファが使う異能。身に迫る危機を耳鳴りとして知らせてくれる能力。

大きな危険が迫るほど耳鳴りは大きくなる。逆に小さな危険なら耳鳴りは小さくなるので、気付かない事もしばしばある。

裏技として、特定の人物の危険が自身の危険に直結する場合なら、その人物が危機的状況となった時にも耳鳴りは起きる。


【背景同化】ランクC1

ベータが使う異能。自身の体を背景と同化させる能力。

体が透明になる訳では無いので、大きく動きすぎると背景と同化し切れなくなる。また、気配を消すような力は無いので、完璧に隠密できるかは本人の技量次第である。


【感覚受信】ランクD3

ガンマが使う異能。対象が感じている五感をリアルタイムで共有する能力。

対象の事をある程度知っておかないと能力が発動できず、また使用中は対象が受けた痛みも同じように感じてしまう。しかし、距離は無制限で使用時間も本人の集中時間に比例するので、優秀な能力ではある。






【豺ア淵蜀吶☆繝モノ】繝ゥンク⁇?

荒宮流星が『威圧』を強化し続けていった末に辿り着いた異能。その能力は"自身に対して恐怖を抱かせる"という物。相手が恐怖する。ただそれだけでの能力だが、その絶対的な恐怖に抗える存在はおらず、全ての生物は荒宮流星に恐怖で屈するしか無い。そして、荒宮流星は恐怖の魔王として永遠に君臨し続けるだろう。










……なお、今のところ荒宮流星がこの異能へと到達する兆しは無い。

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