第5話 炎使いって自分の炎だけ効かない独特な熱耐性があるよね

 なぜか四方堂に異能を隠している事がバレてしまった俺氏。彼女と話し合う為に人気のない場所へ移動する事にしました。


「ここなら大丈夫かな?」


 俺は校舎裏という学校でも人気の少ないとされる場所ナンバーワンの所を選び、更にその中でも人の出入りが少ない所を選んだ。

 ここは俺のお気に入りの場所だったのであまり他の人に知られたくなかったのだが、俺の持つ異能について話すのだ。背に腹は変えられん。


「こんな所で勝負するの? 狭くないかしら」


「いや、ここで勝負はしないよ」


「はあ? どうしてよ?」


 やはりすぐにでも勝負するつもりだったなこの子。


「ここに来たのはある話をする為なんだ」


「ある話って?」


「僕の異能についてだよ」


 俺がそう言うと彼女は目を見開き、しばらくして好戦的な笑みを浮かべた。


「やっと観念したわね」


「まあこれ以上みんなのいる所で言い続けられても困るからね」


……本当は弱みを見せたくなかったけど、俺の異能がヘボい事を知れば大人しく去ってくれる事だろう。


「君との勝負を受けても良い、その代わり約束して欲しい。僕が異能を隠してる事を誰にも言わないで貰いたいんだ」


 さて、素直にこれを受け入れてくれるか。


「……異能を隠すのはいけない事なのよ?」


 四方堂はジト目で俺を見てくる。そりゃそうだ。俺のやっている行為は法律で禁止されている事。罪に当たるのだ。

 異能の力に目覚めた者は必ず国に報告しなければならない。これをせず成人した者は異能犯罪者として問答無用で逮捕される。


 異能とは無限の可能性を秘めた希望の象徴であり、無数の危険性を秘めた恐怖の象徴なのだ。


 故に人は異能で物事を考えたがる。故に人は異能で支配したがる。


「別に隠し通そうとは思ってない。頃合いを見て異能は明かすつもりさ」


「そうなの? というかなんで隠すのよ」


「うーん、なんと言うか」


 やっぱ言いづらいなぁ、自分の将来の為にヘボ異能を良く魅せたいだなんて。


(いやいや、ここまで来ちゃったんだ。ちゃんと説明するのがスジってもんだ)


 意を決して俺の人生勝ち組計画を話そうとしたその時、四方堂が叫んだ。


「危ない!」


 その言葉を聞いたからか、はたまた師匠との修行の日々で殺気に敏感になっていたのか、俺は勢いよく前へと転んだ。


 シュンッという風を切る音が、さっきまで俺の頭があった場所から聞こえてきた。


「あら、随分と機敏なのね」


 そのあとすぐに背後から女性の声が聞こえてきた。


 突然の殺気からの頭を狙った鋭い攻撃、完全にヤル気だったのが窺える。


「いったい何が起きて……ゎぉ」


 俺はいきなり殺されかけた事で動揺しながらも敵の姿を見ようと振り返り、その姿に目を見開いた。


 敵は声から分かるように女だった。さっきの攻撃の正体は蹴りだったのか右足を上げていた。そこはまあ良い。肝心なのはその服装だ。


 なんとまあどエロい、いやどえらい格好をしていた。人通りに出れば注目の的、警官に見られたら一発で職質されるだろう。

 軽装も軽装。ヘソを出したりふとももを出したり、限界まで素肌を出した服装は実に扇情的だった。


 しかも本人のスタイルが抜群なせいでよりヤバい。何がヤバいって色々とヤバい。(語彙力低下)


「あらあら、坊やは小さいのに随分ませてるのね」


「あ、あなたこんな時にどこ見てるのよ!」


「うぇ!? い、いやいやなんも見てないよ? ただ相手を分析してただけでして」


 ま、まずい。俺の積み上げてきたイメージが一瞬で崩れ落ちそうになってる。この場に他の女子がいなくて良かった。


「コホン……それで、あなた何者ですか? 何が目的ですか?」


 いきなり蹴り殺そうとした相手だ。話が通じるとは思えないけど、一応対話を試みるとしよう。ただし、警戒度はフルにしておく。


「へぇ、冷静ね。それに構えも素人じゃなさそうだし、どうやらさっきかわしたのも偶然じゃなさそうね」


 女は妖艶な笑みを浮かべる。うーん、一つ一つの動作が艶めかしい。わざとやってんのか?


「でも、それで私に勝てると思ってるのかしら? ボウヤ」


 そう言って女はこちらへ歩みを進める。


「勝てるとは思ってませんよ」(……少なくとも俺だったらな)


 ここには俺と女以外にも、もう一人いる。そう、後ろで女を凝視している四方堂がな!


「使わせると思った?」


 女はそう言うと、手から炎を出した。


「っ!?」


 突如現れた炎の壁に俺は驚愕の声を上げた。


(こいつ炎使いか! まずい、確か『凝視崩壊』は相手を直接見なきゃ使えない筈)


 立ち昇る炎に遮られて女の姿が見えない。これでは四方堂の異能が使えず、そして攻撃手段が肉弾戦しかない俺も攻撃できない。


 立ち往生している間に、女は炎の壁から飛び出した。


「あっぶな!?」


 女は飛び出ると同時に俺を視認し、蹴り放つ。俺はそれを本当に間一髪だがなんとか回避できた。


「ふーん、これもかわすの。思っていた以上にすばしっこいのね」


 当たり前だ。師匠との修行で俺が真っ先に身につけたのが緊急回避能力だ。この一年を回避術の習得に集中したおかげで結構サマにはなっている。


「面倒ねぇ、ボウヤは後回しにしましょう。……それじゃあ」


「な、なにを、うっ!?」


 女は怯える四方堂の首筋に手刀を当てて気絶させる。……手刀で気絶って、漫画だけの話じゃ無いんだ。


「はい捕獲完了。あとは指定された場所まで連れていけば依頼達成、なんだけど困ったわねぇ。現場を見られたらどうするか言われてないわ」


 芝居掛かった口調で女は呟く。


(どうする、逃げるか?)


 そう考えても足は動かない。


 恐怖で動かないのでは無い。死ぬ思いなんて師匠との修行で何回も体験したしな、あれと比べたらなんて事ない。


 彼女を助けなきゃいけないから? それも違うだろう。そもそも俺に何が出来る? いや無い。そんな事ぐらい理解している。


 動けないのは、相手に隙が無いからだ。女は俺の方を見てはいないが、仮に俺が逃げたり攻撃しようとすれば即座に反応する。不思議とそんな確信があった。


 逆立ちしても勝てっこない。ここで俺は殺されるのだ。


───本当にそうか?


 実際そうだろ、相手は殺傷能力の高い炎使いでしかも体術に相当心得がある。そして躊躇いなく殺せる冷酷さも兼ね備えている。


 対して俺は? 武術も未熟で覚悟もないヘタレ、肉体面ですら劣っている始末。こちとら成長真っ盛りの八歳なんだぞ。


 異能に関しちゃ論外だ。『威圧』なんて怖がらせるだけの異能でどう切り抜けたら……ん?


「逃げないの? まあ逃げても殺すけれど」


(いや、やりようによってはいけるか?)


「この世とのお別れは済ませたかしら?」


(めちゃくちゃ分の悪い賭けになるが、今はそれしか無い)


「まあそんなの待たないけど」


(イメージしろ、強い俺がコイツに勝つ所を。思い出せ、師匠と初めて会った時にノリでやった強者風ロールプレイを)


「それじゃあねボウヤ、呪うなら自分の不幸を呪いなさい」


(俺は、最強の異能使いだ!!)


▽▽▽


 数日前、とある犯罪者グループから私に依頼があった。

 それは四方堂家の令嬢、四方堂緋雨を誘拐しろという物だった。


 人攫いなんて面倒でつまらない依頼はやりたくなかったけれど、結構な額を出してくれるので受ける事にした。

 さっさと終わらせようと思ったけれど、やはりお嬢様という事もあって中々隙を付けれずにいた。


 やっぱり受けるんじゃなかったなと若干後悔していた時、突然チャンスは訪れた。


 彼女が通う学校を見張っていた時、彼女と仲の良い男の子が彼女を連れて人気のない校舎裏へ向かって行ったのだ。


「男女二人で人気のない所に行くなんて、イケナイ子ねぇ」


 他に人がいない事を確認して、私は校舎裏へと赴いた。


 そこからはボウヤを殺し、標的を気絶して運んではいおしまい。……となれば良かったんだけど、どうにもボウヤがやり手だったらしく、中々殺されてくれなくて困ったわ。


(まっ、標的は既に手元にいるし、手加減する必要もなくなったからさっさと燃やして逃げようかしら)


 標的の異能はあらかじめ調べておいたから把握していた。そして確かこのボウヤはまだ異能を使えなかった筈。なら万が一でも私が負けるなんて事はあり得ない。


「それじゃあねボウヤ、呪うなら自分の不幸を呪いなさい」


 そう思っていた。……この時までは、


「聞きたいんだけど、四方堂さんはちゃんと気絶させてる?」


「? 勿論よ、誤って殺したなんてマヌケはしないわ」


 こんな状況で自分より少女の身を案じるのかと、少し驚いた。


「そっか、……良かった」


 しかし、それは間違いだった。


「これで本気を出せる」


───瞬間、彼から悍ましい圧が放たれた。

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