第3話 やはり筋肉、筋肉は全てを解決する
転生してから七年、俺は小学二年生となった。
あの頃に編み出した修行法は今も続けているが、異能のお披露目はまだしていない。異能を使えるようになった子達もちょくちょく現れ始め、いつ異能を披露するかタイミングを見計らっているのだ。
本当はピカピカの一年生の時に誰よりも先に異能を覚醒させて注目して貰おうと計画していたのだが、ある人物によってそれが出来なくなってしまった。
奴の名は四方堂緋雨、幼稚園時代に散々絡まれ続けられたあの金持ちお嬢様であるのだが、なんと一足先にあの子が異能を覚醒させたのだ。それも強そうな異能を。
異能の名は『凝視崩壊』、凝視した対象を塵へと変えるという能力だ。なんだそのツヨツヨ能力、俺の『威圧』と交換しようぜ。(真顔)
いやホントマジで、冗談抜きで、俺のヘボヘボ能力とトレースしようぜ。え? 出来ない? やだー! 俺もあんな異能欲しかったよー! なんで転生者である俺がヘボ異能で、元から人生勝ち組なアイツがツヨ異能なんだよー!!
……おっと、取り乱してしまった。精神年齢おっさんがやるマネじゃなかったなこりゃ、反省反省。
まあ何が言いたいかというと、こんな奴に続いて『威圧』なんて異能を使えると名乗りを上げても、ねえ?
『うわあ! 緋雨ちゃんの異能すごーい!』
『え? 流星くんも異能を使えるようになったの? どんな異能?』
『え? 威圧? ……ふーん、そうなんだー』
『それより緋雨ちゃんの異能凄いよね───』
あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!(血涙)
……すまない、またまた取り乱してしまった。ちょっとあり得ざる未来を幻視してしまってね。
つまり何が言いたいかというと、ちょっと話題性に欠けるというか、なんというか……まあ、そういう事なんだ。
そんな理由があって、だったら少しでも異能のアピールが出来るようにと、タイミングを見計らっているのだ。
そして時は流れ、俺は異能を披露出来ないまま一年生を終えた。うん、そんな都合の良いタイミングなんてそうそう訪れないよね。
だが、何もせず一年生を終える程俺は愚かじゃない。いったい何をしてたかって? そりゃ勿論自分磨きだ。主に肉体面を重点的に。
俺思ったんだ。どれだけヘボ異能を強くした所でその後どうすんの? ってさ。
元も子もない話だが、俺の異能は弱い。そりゃもう弱い。どうしようもなく使えない。
勿論、異能を武力という面だけで見るのは愚かな考えだが、生憎とこの世界って前世と比べて犯罪率が高いんだよね。これも異能が存在する弊害か。
だから武力面を鍛えるというのも、この世界で生きていく上で必要不可欠……とまではいかないが重要となってくる。
そういう背景もあって、俺は異能の強化と並行して筋トレを行うようにしていた。しかし、筋トレしたからこの先どんな相手が来ても大丈夫だろうなんて楽観的発想にはなれない。
そこで俺は地元に良さげな道場が無いかを調べた。空手やら少林寺拳法やら、なるべく銃刀法違反に引っかからないようにステゴロでもいける武道を身につけたかった。……しかし、調べていく内に気付く。
───あれ? 武道を習うのにこんな金いるの?
調べれば調べる程に金がわんさかいるのを思い知らされた。前世で武道をやった事ないからあんまり知らないけど、薄っすらとした記憶ではここまで高く付かなかった筈だ。
なんでこんな小金持ち以上でないと入門出来ないほどお金がかかるのか? 考えた末に思い当たる事が一つ浮かんだ。
武道の需要が前世より非常に高いのでは無いのか?
この世界は異能があるせいか犯罪率が高い。それはつまり犯罪が身近な存在になってるのでは無いのか? なら、その為に護身術を習いたいと思うのは当然だろう。
それを裏付けるようにこんな高いのにも関わらず、どこも生徒数が多い。
うちは貧乏では無いが金持ちという訳でも無い。至って普通の家庭だ。頼み込んだら習わしてくれるだろうが、こんなに高いとちょっと躊躇ってしまう。
そうして俺は渋々有名どころの道場に行くのをやめ、もっと安い所は無いかと調べ続けた。そして調べる最中、ある情報を手に入れた。
風の噂で聞いた話なんだが、なんでもこの辺りに凄い武術家のじいさんがいるらしい。その武術を見てじいさんに弟子入りしようとした人もいるほどだが、気に入った奴しか弟子にせんと追い払われ、誰もその人の弟子になれていないと言う。
聞く限りどうも頑固じいさんらしいが、稽古料が高いとかそんな話は聞かないので、もし弟子入りしても安く付くだろう。
そんな訳で、俺はある程度調べた上でそのじいさんに会いに行く事にした。断られても、まあその時はその時だ。
▽▽▽
「あなたが黒鉄銅一さんですか?」
そいつと出会ったのは俺が公園にある長椅子で昼寝をしていた時だった。
「なんだ坊主、俺の事知ってんのか?」
「はい、と言っても凄腕の武術家という程度ですけど」
話しかけられた時はなんだコイツと思ったが、俺の噂を聞いて話しかけたって事は、他の奴らと同じく弟子入りにでもしに来たんだろう。
別に舐めてる訳じゃないが、コイツは流石に若すぎる。歳の割に随分な落ち着き様だが、もう少し成長してから出直してきて欲しいもんだ。そう思い、さっさと追い払おうとしたのだが、
「なんでも『森海流』という格闘術の達人らしいですね」
「……ほう?」
森海流、その言葉を他人から聞くのは随分と久しかった。どうやら上辺だけの噂を聞いて弟子入りしに来た訳じゃなさそうだ。
「森だろうと海だろうと、十全の力を発揮できる事を目的とした実戦向きの格闘術。しかしあまりの修練の厳しさから体得者は年々減り続け、いつしか幻の古流武術として過去の遺産へと成り果てた」
「ふんっ、随分と調べたようだな」
「いえいえ、これは全てインターネットから調べた物です。僕もあなたの存在を知るまで、森海流なんて全く知りませんでしたし」
「そうか……それで? そこまで調べて坊主は俺に何を望む?」
そう尋ねてみると、坊主の目つきが変わった。ギラギラと、何かを渇望する目だ。その目に俺は心当たりがあった。
あれは過去の俺だ。異能なんて馬鹿らしい力を己が拳でぶちのめそうと奮闘していた時の、青臭いガキの頃の俺だ。
だからだろうか、次に言う言葉も大体予想出来た。
「強さが欲しい。誰にも負けない圧倒的な強さをだ」
ほらな、思った通りだ。
「……」
恐らく今の俺は大層凶悪な笑みを浮かべている事だろう。それも仕方ない事だ。
これだ。これこそが森海流を教えるに相応しい人物だ。
礼儀作法なんて馬鹿らしい。他の武術がどうなのか知らねぇが、俺にとって武術とは力を手に入れる為の手段であり、それを扱う格闘者は力を求め続ける獣でなけりゃならん。
「坊主、名前は?」
「荒宮流星だ」
「クカカ! やはりさっきまでの口調は演技か。良しっ、お前の異能を見せてみろ」
気に入った。年齢に見合わない成熟した精神も、攻撃的な本性も、それを隠し通せる技量も、良い、最高に良い。
「……使って良いのか?」
坊主は目を丸くして聞き返してくる。
「おうとも、森海流は持ち主の手札が多い程強さが発揮されるからな」
「そうか、残念だが俺の異能を格闘術に取り入れるのは厳しそうだ」
こんな事しか出来ないからな、そう言って坊主は異能を使った。……いや、片鱗を見せた。
「っ!?」
凄まじい圧力を感じた。久しぶりに死ぬかも知れないと恐怖し、思わず臨戦態勢に入った。
(このガキ、やっぱただもんじゃねえな!)
本能が俺に訴えてくる。こいつはヤバい。異能を使わせたら、俺なんてあっという間に殺されるぞ。そう言ってくる。
(なるほど、こんな事しか出来ないというのは、使ってしまえば甚大な被害を出すから、という事か)
恐らくコイツは異能を上手く制御出来ていないのだろう。手加減してこれなんだ、本気で使えばどうなるのか。
「クカカ!!! なんだよ、凄え異能じゃねえか!」
コイツはどれほど俺を楽しませてくれるのか、俺はもうコイツの成長した姿を見たくて堪らなくなってしまっている。
「褒めて頂きありがとうございます。それでどうです? 弟子になってもよろしいでしょうか?」
異能を使うのをやめて、態度も行儀の良い偽りの姿へと戻した。
「ああ、勿論だ。改めて自己紹介といこう。俺は黒鉄銅一、森海流格闘術の使い手だ」
「僕は荒宮流星と言います。よろしくお願いしますね、師匠」
「クカカ! 途中で死ぬんじゃねえぞ?」
このまま年老いて死ぬとばかり思っていた人生だったが、まさかこんな面白い奴と出会えるとはな、全く運命ってのはよく分からん物だ。
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