第2話 ぼくのかんがえたさいきょうのくんれんほう

 転生してから五年、俺はこの五年間をある事に心血を注ぎ込んだ。


 それは異能の強化。今は相手を怖がらせるだけのヘボ能力だが、成長していけばもしかしたら能力が覚醒して強力になるかも知れない。そんな淡い期待に加えてもう一つ、異能の強化をしておきたい理由があった。


 それは訓練の開始時期によるアドバンテージである。普通、他の人は小学生ぐらいになってから異能を使えるようになるという。対して俺は生まれた時から異能が使える。つまり赤ん坊の頃から異能の強化が出来るのだ。


 他の人より早めにスタートダッシュが出来る。これは大きなアドバンテージとなるだろう。

 という訳で異能の訓練を行おうとして、いきなり行き詰まった。そもそも訓練って何すりゃ良いんだ?

 そもそも異能とは何か? 使い続ける事でデメリットはあるのか? というか『威圧』なんて能力をどう訓練すれば良いんだ?


 分からない。全く分からない。赤ん坊の身では自力で調べ物なんて出来ないし、かと言って両親に尋ねる事もあまりしたくない。

 今のところ俺は異能を使えるという事を誰にも言わないつもりだ。言うとしても、もっと異能を強くしてからだ。


 俺の理想としてはこんな感じ。


『ねえねえ、流星くんってもう異能使えるの?』


『うん、昨日から使えるようになったんだ。ほら』(異能をバァーン!)


『すごーい! 使えたばかりなのにもうそのレベルに達してるんだ!』


『『『流星くんすごーい!』』』(女子の比率高め)


 とまあこのように、特訓しまくった異能をさも初めて使ったかのように装い、同年代の中でも一際強い異能力者として周りから注目されるって寸法だ。

 まあそれでも『威圧』がショッボイ能力というのは変わらない事実なんだが、第一印象を変えるだけでも俺の将来はきっと変わる筈だ。


 故に、俺は誰にも悟られる事なく異能を強化したい。その為にはどうすれば良いか? 決まってる。自力で試行錯誤していくのだ。(苦行)


 という訳で俺は色んな事を実践していった。前世で読み漁った漫画やラノベに出てくる修行方法を試してみたり、異能について独自に研究してみたり、本当に色々やった。

 俺の異能は周りに影響が出やすいタイプなので、バレないようにするのは非常に苦労した。異能を隠す事に神経を注いでいたので中々進まなかったが、異能を隠す過程で一つの修行法を思いついた。


 俺は自分なりに『威圧』がどういう仕組みで発動しているのか考えた。結果、内に秘めし謎エネルギーを全身から放出して、その謎エネルギーを浴びた者に恐怖心を与える、そんな仕組みだと考察した。俺はその謎エネルギーをどうこう出来ないかと模索し続けた。

 ようやく見つけた修行法の手掛かり、俺は謎エネルギーに干渉出来ないか試行錯誤を繰り返し、そして遂に俺は謎エネルギーの一時的に抑制する事に成功した。


 謎エネルギーを自在に操るような真似は不可能みたいだが、そっちは別にいいかなと考えてる。なんせ画期的な修行法を思い付いたのだからな。

 その訓練法とは、放出され続ける謎エネルギーを抑制し続けるという物だ。


 今のところ俺は『威圧』をオン・オフの切り替えを行う事しか出来ない。しかし、一度オンにすれば常に謎エネルギーは垂れ流しとなる。俺が行う訓練法は、その溢れ出る謎エネルギーを抑え続けて体内に溜め続けるという物だ。

 もし溜め過ぎて体が爆発でもしたらどうしようとも思ったが、意を決してこの訓練を一ヶ月ほどやり続けてみた。結果、特に人体に異常は無かった。逆に若干だが異能の出力が高まった気がした。


 遂に見つけた修行法! 俺は暇さえあればこの訓練を欠かさず行う事にした。


 そういえば、これは余談というか愚痴になるんだが、俺が通う幼稚園に少々面倒な子どもがいるのだ。

 四方堂緋雨、歳の割にしっかりした子なのだがなぜか俺は目の敵にされている。


……いや、なぜ目の敵にされてるかは分かっている。あれだ、最初に会った時に冷たい態度を取ってしまったんだ。


 四方堂と初めて話した時、彼女は自分の家をすっごい自慢げに語った。

 どうやら彼女の家は超が付く程のお金持ちらしく、それを俺にひけらかして優越感にひたろうとしたっぽいのだ。


 さて、負け組人生を前世で散々経験してきた俺にとって、ぶっちゃけ金持ちが嫌いだ。そしてそれを自慢する奴はもっと嫌いだ。

 故に俺は、「へー、それがどしたん?」みたいな感じで興味なさげな態度を取ったのだ。


 その時の四方堂の顔といったら、いやぁスカッとした。金持ちだからって思い通りに行くと思うなよ!

 え? 大人気ないだって? HAHAHA、今の俺は子どもだからセーフなのさ。そう思うと子どもという名の免罪符効果って凄いな、今後も利用していこう。


 まあ出会いがそんなだったばかりに、それ以来俺は彼女から度々ちょっかいをかけられるようになった。

 ちょっかいと言ってもイジメとかではない。機会さえあれば勝負しろと言われるのだ。


 正直めちゃくちゃ面倒くさい。勝てば彼女はわんわん泣くし、その事を彼女の親の耳に入ったら凄え怖い。かといって手を抜けば子どもながらの観察眼で見抜かれ、本気を出せと言われてしまう。そして勝負を受けなかった場合でも彼女の親に目をつけられてしまう可能性もあって怖い。いやぁ権力って怖いね! ファック!!


 そんな訳で、俺は訓練をする以外では主に四方堂の勝負に付き合う生活を送るようになった。俺は訓練に集中したいのに……。


▽▽▽


 物心ついた頃から、私は自分が恵まれている事に気付いていた。


 優しいお父様とお母様は、私が欲しい物をねだるとすぐにくれる。家が凄いって言うとみんな羨ましがる。

 なにをしても褒められた。叱られた事なんて一度もない。だから私は、自分が凄い人間だと思った。……でも、違った。


 私は凄い人なんかじゃない。それに気付かせてくれたのは、私と同い年の男の子。


 荒宮流星、雰囲気がすごく大人っぽい不思議な男の子だ。


 彼は他の子とあまり遊ばない。みんなが外に出ている時も、いつも教室に残ってボーッとしている。

 そんな彼だけど、よく先生にお利口さんだと褒められる。この歳で凄いね、って言われる。私はそれが気に食わず、同じ組になってから半年して初めて彼に話しかけた。


 いかに私が凄いのか、それをたくさん話した。


「───という訳。ふふん、私の凄さが伝わったかしら?」


 これだけ言えば彼も分かるだろう。そう思っていた……けど。


「へー、そうなんだ」


「……え? それだけ?」


「? うん、そうだけど」


 私は心底驚いた。彼は羨ましいなんてカケラも思っていない。それどころか私に興味すら抱いていない。


「ちょ、ちょっと、もう少し無いの? 私って凄いんだよ?」


 思っていた反応と違い焦る私、もっと言う事は無いのかと尋ねてみれば、


「ごめんね、どうにも僕には君の凄さが分からないみたい」


 他の人に聞いてみたら? そう言うと彼はノートに方に向き直ってブツブツと独り言を呟き始めた。


(……そっか)


 自分の凄さを分からないんだと勘違いしたり、逆上したり、そこまで私は愚かではなかったらしい。


 私は気づいた。


(私って、凄く無いんだ)


 みんなが羨ましいがっていたのは私じゃなくて住んでる家、みんなが褒めていたのは私が凄いからじゃなくて家が凄いから。


 私には、凄い所なんて何も無かったんだ。


 その事に気付いたショックは大きく、気づけば部屋のベッドの上で寝ていた。


「……」


 真夜中に目が覚め、荒宮流星に言われた言葉を思い出す。


───僕には君の凄さが分からない。


「……」


 歯を食いしばる。それは、私が人生で初めて経験した感情だった。


「絶対、凄いって思わせるんだから!」


 それは悔しさ、見返してやりたいという強い思い。


 以来、私は彼に事あるごとに勝負を仕掛けた。今のところ彼に勝てていない。いえ、勝った事はあるけど、それは全部彼が手を抜いた結果だ。

 この勝負に家の力は借りていない。それだと私の凄さを証明できないと思ったからだ。

 結局は幼稚園を卒業するまで彼には勝てなかった。けど、小学校では必ず勝ってみせる。そう決心した。


 彼は私に凄いとは言ってくれない。けど、凄いと嘘を付く事もない。


 それが少し、居心地が良かった。


……そういえば、彼が良く見ているノートを盗み見たのだけれど、異能について色々書かれていた。


 どうやら彼は異能に関して並々ならない関心を持っているらしい。……もし、もし私が凄い異能を持てたら、彼も興味を持ってくれるだろうか。


 私を、見てくれるだろうか。

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