異能が全ての世界に転生した俺、弱いのに強そうなフリをし続けていたら魔王と呼ばれるようになってました。
ブナハブ
小学生編(魔王の目覚め)
第1話 転生しても負け犬だった!? こりゃ成り上がるしかねぇよなあ?
俺の人生を一言で表すなら負け組だろう。
万年負け組、そう呼ぶに相応しいぐらい俺の人生には華がなかった。
中学、高校時代は言うまでもなくカースト最下位で、ラノベのような展開は一切確認出来ず。大学受験に挑んだが逢えなく撃沈し、そこから必死になって探した職場はこれ以上なくブラックな環境だった。
それだけならどれほど良かった事か。俺は同僚や上司、果てに後輩からの無茶な頼みでさえ断る事が出来なかったのだ。
そしたらどうなるか分かるか? そう、都合の良い人間としてエグいほどパシられるのだ。
ただでさえキツイ業務を自分の行いのせいで余計酷い状況に、そのまま職場で過労死……したらあのクソ会社に一矢報いる事が出来たんだろうな。
俺は仕事の疲れによる不注意で信号無視、そしてトラックに激突して痛みに蝕まれながら意識を失う。ここだけラノベっぽく無くて良いから。あとトラックのおっちゃん、もう死んだから面と向かって言えないので心の中で謝罪します。信号無視してホントすみませんでした!
……さて、死ぬ前の話はこれぐらいにしておこう。ここからはラノベ的急展開となる。
なんと俺、目が覚めたら見知らぬ人の赤ん坊になってました! しかも特殊能力を持って! はい、皆さんご存知異世界転生ですね神様ホントありがとうございます。
ちなみに異世界と言ってもファンタジー全開な世界観ではない。魔物もいないし魔法も存在しない。ただ一つ、前世に酷似したこの世界には『異能』が存在する。
異能、それは一人につき一つだけ持つ事が許された特別な才能、超能力である。そう、この世界は全人類が超能力者なのだ!
ある者は口から火を吹き、ある者は身一つで空を飛び、またある者は銃弾でも傷一つ付かない肉体を持っていたりするのだ。
そんな超人達が持つ異能と、自分の異能を比較して絶望した。
……俺の異能ショボくね? そう思わずにはいられなかった。
俺が持って生まれた異能は『威圧』、相手に自分を恐怖させるという物だ。攻撃にも防御にも使えない。なんだこの微妙な能力。
ちなみに異能が使えるようになるのはもっと成長してからのようで、早くても6歳から自分の異能が何かを理解し、使えるようになるそうだ。俺の場合は生まれた瞬間から異能を使えたので意気揚々と使ってみたのだが、隣の部屋にいた母さんが物凄い形相で入ってきたのを見て、慌てて異能の使用をストップした。
あの時の母さんの顔は今でも思い出せる。なんというか、人を殺しそうな顔だった。あれって俺を殺そうとした訳じゃないよね?
……ま、まあその話はさておき、俺の今後の方針について考えようじゃないか。
現在生後六ヶ月、赤ん坊の身で頑張って情報収集した結果、俺は更に絶望した。
どうやらこの世界、異能がすべてといった風潮が世界レベルで広まってるらしく、強い異能または有益な異能力者に対する優遇が半端ない。
どれだけ貧しい生まれであっても、素晴らしい異能を持っていればそれだけで人生の成功が約束される。反して豊かな生まれであっても、異能がショボければそれだけで人生オワオワリになってしまう。害にしかならない異能を持って生まれようものなら下手したら殺されてしまう。
異能一つで大きな格差が出来てしまうヤバい世界。もし俺が強い異能を持って生まれたならば喜んでそんな世界を受け入れただろうが、実際には『威圧』というショッボイ能力。これでは前世のようにまた負け組人生を送る事になってしまう。
それで良いのかって? 良い訳ないだろ!
折角やり直すチャンスが来たんだ。それも人生に一度どころか人生何周しても訪れないようなラノベ的展開!!
やってやる。俺はこの世界で成り上がってやるぞー!!!
▽▽▽
私には子どもが一人居ます。数ヶ月前に生まれた愛しい我が子。これからもこの子と、荒宮流星と一緒に幸せな家庭を築いていこう。……そう決意していたのに。
あれは、流星が生まれて三週間ほど経ったの事でした。
私は晩ごはんを作る為に一旦流星をベビーベッドの上で寝かせ、そのまま台所へと行きました。
「〜♪」
鼻歌交じりに晩ごはんの支度をして、もう少しで作り終えそうという時にそれは起こりました。
「っ!?」
悪寒、背筋が凍りつくような恐怖心。それが突然襲いかかったのです。
何が起こっているのか、何が起きようとしているのか、そんな事を考えるよりも先に体は動きました。
「り、流星!」
私が怯えて縮こまるより先に動けたのは、ひとえに流星の身を案じたからでした。なぜなら悪寒を感じた場所は、流星が寝ている部屋だったのだから。
「流星! だいじょうっ!?」
私は包丁を片手に決死の覚悟で部屋に入り、目を疑いました。
部屋には誰もいなかった。いや、一人いた。そしてこの恐怖の大本もその部屋にいた一人から感じる物でした。
「りゅう、せい?」
荒宮流星、私の愛しい我が子。それがこの悪寒の発生源でした。
なぜ私は流星に怯えてるのか、なぜこんなに小さな赤ん坊を怖がっているのか、
なぜ……私は愛しい我が子に包丁を向けようとしているのか。
この時の私は錯乱していて、一刻も早くこの悪寒を消そうと必死でした。その為には息子を殺す必要があり……今でも震えが止まりませんが、あの時の私はその事に躊躇いが無かったんです。
けれど、それが間違いなのだとすぐに気付けた。
「あう?」
「っ! り、りゅうせい」
「う〜あうあう」
そこに居たのはいつもの愛しい我が子の姿だけでした。その姿にさっきまでの恐怖なんて微塵も感じられず、さっきのは夢なんじゃとさえ思わされました。
「そ、そうよね、あり得ないわよね。……流星ごめんね、怖かったよね」
「うい」
あまり泣かない子だけど、殺されそうな事に気付いたのか少し怖がっていた。
私は流星をあやそうと抱っこする。まだ少し手が震えてるけど、それを必死に押し留めて、私は流星の頭を撫でる。
どうか、どうかあの姿を見せないでと、懇願するように私はあやした。
……それ以来、私が再び流星を恐怖するなんて事はなくなりました。あの時の現象がなんだったのかは分かりません。どうせ信じられない話ですし、周りには相談していません。
とにかく私は、あの出来事を忘れようと必死です。
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