第74話 花凛と女神との約束
ノルンに言われた花凛は口を半開きにして驚く。
突然のことで彼女はキレ長の目をパチパチさせていた。
「あなたは顔もいいし、勉強もできる。それに両親は金持ちなの。つまりなんの不自由のない人生を生きているよ。大志ともっと深く関わることであなたに一体なんの得があるのかしら」
試すような視線。
ノルンの細められた目には花凛の姿がちゃんと映っている。
適当にはぐらかすとか、嘘を言ったら絶対この女神様は見抜く。
花凛はノルンを恐れながらも、握りこぶしを作り話す。
「別に損とか得とか、そういうのわかりません。でも、大志と離れるのは嫌……」
「なんで?」
「私、ママが癌でなくなることを受け入れたくなかったから、夢中になれる何かが欲しかったです。大志を助ける時に、私は辛い現実を忘れることが出来ました。自分の行いによってママがいつか治ると信じながら……でも、私は自分の正義感に心酔して大志を利用しただけです」
「……」
「でも、大志はそんな私を救ってくれました。私の家族を救ってくれました。何も持ってない大志が、一見なんでも持っている私を助けたんですよ。そのことを考えると、胸が……胸が……」
花凛は右手で自分の胸に乗せて切ない表情をする。
「そうよ。大志はそういう子よ。自分の体が燃え尽きることがあっても、大志はずっと同じことを繰り返すでしょう。ぷるんに対しても」
「はい。私もそう思います。だから……だから……」
「ん?」
「だから、そんな大志を馬鹿にする人は絶対許さない!!」
花凛は目を見開いて叫んだ。
「え?」
「大志を嘲笑う人は……」
花凛はノルンに近づく。
そして、色彩のない目をしてノルンの胸ぐらを掴んで口を開いた。
「私がぶっ殺します」
「っ!」
「好きな男のそばいにいたい。自分にとって一番格好いい人と一緒にいたい。それだけじゃダメですか?私を葛西くんのようなクズと同じ扱いしないでください。それに、大志を放置すると、きっと変な女が絡んできますよ。それは絶対あってはならない。もしものことがあれば、死んだ方がマシです」
「……」
花凛のヤンデレっぷりに流石のノルンも呆然としている。
だけど、ノルンは花凛の目を真っ直ぐ見つめている。
花凛の瞳の奥に隠れている何かを必死に探るように、ノルンは花凛の目を穴が開くほど見つめ続けていた。
数秒が経っても、この構図は尚も続く。
「……花凛、女神である私をぶっ殺す気?」
「あ、」
ノルンの話に、花凛の目の色が戻った。
花凛は早速手を離し、土下座した。
「ももも申し訳ありません!私、女神様になんてことを……」
「……」
ノルンは土下座している花凛を一瞥したのち自分の胸をさすりながら言う。
「まあ、やり方はめちゃくちゃだけど、気持ちは伝わったかな」
これまで試すような表情だったノルンの顔は幾分か穏やかだ。
「うう……すみません」
「花凛。私と約束しよう」
「や、約束?」
「うん」
頭を上げた花凛を見て、ノルンは手を伸ばした。
すると、花凛のステータスが表示される。
ーーーー
名前:秋月花凛
レベル:33
属性:無属性
HP:500/500
MP:2,300/2,300
スキル:精神集中、記憶保存
称号:なし
ーーーー
「え?ノルン様、これって私のステータス?ってことは鑑定!?」
「ふん、精神系の無属性か。悪くないわね。んじゃ花凛にはこれを与えてあげる」
というと、ノルンの手から光が生じ、花凛を包んだ。
そして、ステータスのところに新たな文字が表示される。
『23492j0ffgu48t9wgu9wufw0-0320-r2992w8d2883という称号を取得しました』
『sdfc33ji9というスキルを取得しました』
「え?何これ?全然読めない……」
「花凛、あなたには異世界の文字が理解できるスキルを与えてあげたわ」
「異世界の文字!?」
「そう。大志とぷるんは異世界の字が読めないから不便じゃん??」
「っ!?てことは!?」
「ふふ、スキルの他に称号も与えたよ。『異世界の旅人』ってね。これがあれば異世界に行ける」
「お、おおおお……」
「んで、約束の話をしようか?」
「や、約束……」
花凛は興奮したような息を荒げて期待に満ちた目をする。
「大志と一緒に旅をしながら、異世界のことを記録してちょうだい。地理、国、魔法、モンスターなど……地球に住む人族が読んで理解できる資料を作って欲しい。大変な作業になると思うけど、いつか必要になってくるはずだから」
「……」
「できるよね?」
「そ、それは……おっしゃる通り結構大掛かりな作業になると思うので……」
言いあぐねる花凛に、ノルンは小悪魔っぽく言う。
「出来ないと、さっき与えたスキルと称号、取り上げるわよ」
「します!!しますよ!!出来ないとは一言も言ってないし!!」
花凛は激おこぷんぷん丸である。
そんな彼女をみて、ノルンはクスッと笑う。
「本当に花凛は面白い子ね」」
「んもう!からかわないでください……」
花凛は困り顔でノルンをチラチラ見つめる。
「ふふ、そういうことだから、大志のことをよろしくね。あとぷるんも」
「は、はい!」
「私はずっとぷるんと大志を見てきたの。私はあの二人が本当に幸せになってほしい」
「それは私の同じです!」
「ふふ、それじゃまた会おうね」
「え?あ、はい!ありがとうございます!」
ノルンは優しく手を振った。
花凛も釣られる形で立ち上がり頭を下げたのち笑顔で手を振った。
なかなか変わった女神様だ。
そんな女神様の胸ぐらを掴んだ自分も相当アレだけど。
頭がだんだん真っ白になっていく。
やがて、意識が鮮やかになっていき、先生の声が聞こえる。
「秋月、秋月」
秋月は目を覚めた。
「秋月、この英文、読んでくれ」
先生に言われた花凛。
彼女は嬉々としながら力強く立ち上がり、ガッツポーズを取って
「オーイエ!!!!!!!!」
「「「っ!?」」」
先生含むクラスのみんなが戸惑う。
X X X
大志side
「ぷるんくん!どうだ!?めっちゃ早いだろ!?」
「ぷるるるるるん!!!!」
「俺、格好いいだろ!?」
「ぷるるるるるるるるるん!!!!」
「あははは!もっと早く飛ばすよおお!!」
「んんんん!!」
納車が終わったので、俺はぷるんくんと早速ドライブ中である。
中古ではあるけど、乗り心地は最高だ。
ヘルメットを被ってガソリンタンクに座っているぷるんくんも気分がいいらしい。
今は舗装道路を走っているが異世界に行けば荒野とか山道とかを走ることになるんだろう。
今のうちに日本でしっかりバイクに慣れておこう。
高原さんと山下さんの思い出がいっぱい詰まったバイク。
これからは俺の相棒だ。
俺はぷるんくんとドライブを楽しんだのち、家に戻った。
「本当に楽しかったな」
部屋に入った俺は余韻に使ったように頬を緩めた。
「ん……」
ぷるんくんはベッドに座ったまま窓の方をじっと見ている。
「ぷるんくん?」
やがてぷるんくんは落ち込んだ表情をする。
「んんん……」
「どうした??」
お腹は鳴ってない。
何か悩みでも抱えているのだろうか。
最近の悩み。
すんなりと出てくる。
「ペルさん、花凛のことちゃんとノルン様に言ってくれたかな」
「ぷる!ぷるぷる!」
ぷるんくんは激しく首を横に振った。
ペルさん……
俺がげんなりしていると、ぷるんくんは
「っ!」
体をひくつかせてからジャンプをし、ベッドから降りた。
そして玄関の方へ移動する。
「うん??」
俺も釣られる形でついて行けば、ぷるんくんは体をぷるんぷるんさせながら何かを期待する表情を浮かべる。
「んんんん……んんんん……」
玄関ドアの向こうから足音が聞こえてきた。
その足音は俺の家の玄関ドアの前で止まる。
ぷるんくんの反応。
そして、目の前に映るシルエット。
俺は迷いなくドアを開けた。
すると、そこには
「花凛」
「はあ……はい……大志……大志……たいしいいいいいいい!!!!!!」
「う、うわっ!」
花凛は息を弾ませながら俺に飛びついてきた。
なので俺たちは倒れ、俺が下で、花凛が上になってしまった。
「私!!!!!異世界に行けるよ!!ノルン様に認められたのおおおお!!!!!!!」
「ま、まじか!!」
「うん!スキルと称号を授けてくれたの!!!!」
「え?」
俺は花凛の柔らかい胸に押しつぶされながらも鑑定を使ってみる。
ーーーー
名前:秋月花凛
レベル:33
属性:無属性
HP:500/500
MP:2,300/2,300
スキル:精神集中、記憶保存、sdfc33ji9
称号:23492j0ffgu48t9wgu9wufw0-0320-r2992w8d2883
ーーーー
おお……
わけわからん文字が混ざっているあたり、どうやら本当のようだ。
俺は花凛の背中に腕を回しながら言う。
「よかったな!花凛!」
「うん!あとパパとママの許可さえもらえれば問題ないよ!」
「あ、ああ……そうだな」
うん。
花凛の両親を説得か。
人生山あり谷ありである。
(二人の姿を見て微笑みを浮かべるぷるんくん)
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