第72話 バイクと頼み事
翌日
バイク屋の前
俺は今バイク屋にきている。
もちろん俺の横にぷるんくんがついている。
昨日の夜、高原さんに電話をかけてバイクの業者を紹介してもらった。
なので、朝ごはんを済ませてから俺とぷるんくんはバイク屋にやってきたわけである。
メーカー直径のバイク屋ではなく、いろんなバイクが入り乱れる普通の町のバイク屋だ。
金はいっぱい持っている。
だけど、自転車オンリーだったから、やはり緊張してしまう。
偏見だと思うが、こんなところに入る高校生って不良どもが多いんだろう。
気を確かにして入ろうではないか。
止まっている俺を心配そうに見つめるぷるんくんに俺は悲壮感漂う声音で言う。
「行くぞ!ぷるんくん!」
「ぷるん!」
ドアを開けたら
「いらっしゃませ!!」
「っ!」
「ぷる!?」
ボディービルダーばりに発達した筋肉を持つ、禿頭の男がタンクトッポ姿で野太い声を出した。
めっちゃ強そう……
あの腕、俺の太ももなんかより断然大きいと思うけど……
俺がビビっていると、ぷるんくんが目を見開いて、店の人の前にやってきた。
「あれ?スライム?」
「ぷる!ぷるぷる!!ぷるん!ぷるぷる!!」
ぷるんくんは何かを訴えているようだが、店の人は小首を傾げながらぷるんぷるんしているぷるんくんを右手で持ち上げた。
「ぷるるるん!!ぷる!ぷるん!!」
「ほお……左目の横に傷跡があるスライム……あ、さては剛一兄貴の知り合いか!」
「ぷるん!」
「は、はい!」
「なるほどなるほど。臼倉くんだよな。バイク買うんだろ?あはは!」
「は、はい!」
「俺は山下裕人だ。兄貴からの頼みだ。ゆっくりしていってな。どんなバイクを探しているんだ?」
山下さんは微笑みかけてくれた。
最初に彼を見た時はあまりにも筋肉がデカすぎて思わず怯んでしまったが、高原さんの知り合いであることがわかった瞬間、緊張が解けてしまった。
なので、俺は自信満々に答える。
「未舗装道路や荒地を走っても壊れない丈夫なバイクが欲しいです!」
「ほお、だったらオフロードバイクになるのか。こっちきな」
山下さんはタコがいっぱいついている手でちょいちょいと俺を手招く。
それにしてもバイクって本当にいろんな種類があるんだな。
山下さんにざっくり教えてもらった種類だけでも覚える自信がない。
高性能で速く、曲がりやすいスポーツバイク。
アメリカンスタイルのクルーザーバイク。
エンジンやメカニズムを露出したネイキッドバイク。
そして、舗装されていないような山道などでも運転できるオフロードバイク。
オフロードバイクと言ってもいろんな種類があって、判断に困る。
あと、俺の一存で決めるのも無粋というものだ。
そう。
こういう時こそ、ぷるんくんの意見を聞くべきた。
ぷるんくんと旅をするための新たな相棒になるわけだし。
俺はぷるんくんを右手で持ち上げて、ドヤ顔を浮かべる。
「ぷるんくん!」
「ぷる!?」
「ぷるんくんにとって乗り心地のいいバイクを選んでくれ!」
「ん!ぷるん!」
ぷるんくんは俺の手から落ちて、ジャンプをし、バイクのガソリンタンクに着地した。
「ぷるん……ぷるっ!」
気に食わないようだ。
そして新たなバイクのガソリンタンクへ。
てか、ぷるんくんの席はガソリンタンクか。
まあ、大きさ的にちょうどいいし。
「んんん……ぷるん!!」
今のバイクも気に入らないのか。
「……臼倉くん、スライムにバイク選ばせてもいいのか?初めてみるぞ。こんなの」
「大丈夫です!」
「あ、ああ……」
続けてぷるんくんはバイクのガソリンタンクへジャンプしては吟味するように身を揺らし、他のバイクへまたジャンプする。
しばしたつと、
「ぷるっ!!んんんんんんんんんん!!!」
ぷるんくんがすみっこにあるバイクにジャンプして、そのバイクが非常に気にいったように体を擦り付ける。
「おお、ぷるんくん!そのバイクが気に入ったのか?」
「ぷるん!ぷるぷるるん!!」
ぷるんくんはぴょんぴょん跳ねながら目を『^^』にした。
「あ、あのバイクは……」
山下さんは暗い表情をする。
「山下さん?」
「あれは中古だ……亡くなった友の……」
「え?」
山下さんは一瞬目をうるっとしたのち、哀愁に浸るような表情で語り出す。
「やつは俺と剛一兄貴の幼馴染だ。貧乏で臆病者で弱っちいやつだから、俺と剛一兄貴がやつを勇気づけようと金を集めて購入したのがあれだ」
「そ、そうですか……」
「本当に楽しかったな。3人で日本全国を回って……でも、あいつは病気で死んだ」
「……」
「君のスライムはだいぶ気に入ってるみたいだし、欲しいなら持っていけ。パーツの交換代だけ払ってくれればいいから」
「い、いいえ!!そんな……大切な思い出が詰まったバイクを俺なんかが……」
「んんんんんん!!ぷるん!!!」
ぷるんくんは山下さんと高原さんの亡き友のバイクに体を猛烈な勢いで擦る。
「病院でやつは言った。このバイクは昔の自分のような人を見つけたらプレゼントしてその人を勇気づけてくださいって」
「そんなことを……」
「俺は剛一兄貴から君の話を聞いた。これも何かの縁だ。パーツ代もいい。亡くなったあいつのことを思い出すと金を取る気にもなんない」
「い、いや!おおおお代はちゃんと払いますので!!」
「あはは!その慌てよう。やっぱり似てる。剛一兄貴が気にかける理由、わかるかも」
山下さんは禿頭を光らせて在りし日に想いを馳せるように頬を緩める。
なるほど。
貧乏で臆病者で弱っちいやつ。
俺だけじゃないんだ。
俺は口角を吊り上げてぷるんくんの方へ近づく。
「ぷるんくん」
「ぷるるん!」
「このバイクにしような」
「んんんんんん!!ぷるん!!」
ぷるんくんは喜びながら俺の胸にペチャっと引っ付く。
俺がそんなぷるんくんをなでなでしていると、ぷるんくんが何かを発見したらしく、目を丸くしてある方向に視線を向けてきた。
ヘルメットがいっぱい並んでいる棚である。
色とりどりのヘルメットの組み合わせは人の目を引くほど目立つ。
「そういえば、ヘルメットも買わないとな」
と言って、俺はヘルメットの方へ行く。
「被ってみていいから好きそうなもの選んでみな」
「はい!」
俺はざっくりヘルメットを流し見する。
そして、
黒いヘルメットを取ってぷるんくんを手のひらに乗せてぷるんくんにそれを被せた。
「ぷる!?」
「おお、ぷるんくん!なかなか似合うな!シールドを下ろせばバッチリ!」
ヘルメットの中に入っているぷるんくんはハテナと小首をかしげる。
「自分のじゃなくてスライムのヘルメットを見てたのかよ」
山下さんがげんなりした表情で俺を見てくる。
「じゃ、ヘルメットは二つ必要か?」
彼の問いに俺は答える。
「いいえ。三つ必要です」
X X X
ペルセポネside
「……」
魔力の塊が神殿の内部は微かに照らし、夢幻的な雰囲気を醸し出す。
広々とした神殿の真ん中に横になっている女性がいる。
彼女は長い紫色の髪の持ち主で黒いドレスを身に纏っているツノが二本生えた美女だ。
そんな彼女は涙ぐんで頭を抱えていた。
「どどどどどどどうしよう……ノルン様に頼み事するの初めだからどう話したらいいかわからにゃい……花凛さんのこと、ノルン様にちゃんと言ってあげるって約束したのにいい……二週間経っても一言も言い出せない私が惨めだわ……私に友達とか無理かな……こんな性格だし。やっぱり私はここで引きこもった方が性に合……」
憂鬱になっているペルセポネに待ったをかける存在の声がペルセポネの頭の中で響き渡る。
『ペルセポネ!!!!!!!!』
「ぬああああ!!ののののののノルンしゃま!?」
『焦ったいの!!私、ペルセポネが頼んでくるのずっと待てたのに!ずっとソワソワして全く言ってくれないじゃん!ああもう!我慢できない!』
「ももも申し訳ございましぇん!」
『別に頼んだとしても怒らないわよ』
「うう……」
『キングブァッファローのシチューと神戸牛の時はちゃんと大志に頼めたじゃん!そのノリでいいのに……』
「キングブァッファローのシチュー……神戸牛……ジュル」
『なあああに涎垂らしてるのよ!』
「しゅ、しゅみません!」
『口を拭いてから言おうね』
「は、はい!」
『まあ、いいわ。花凛がどういう女の子なのか私がこれから試すから』
「お手柔らかにお願いします!」
『ふふ、どうなんだろうね』
追記
寝坊したので遅れちゃった。
すみません
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