第71話 謝罪
西山先輩。
サッカー部のキャプテンを務めている人だ。
優しい性格で背も大きくてイケメンで運動もできて女子たちにもモテまくり。
嫌だな。
俺と住む次元が違いすぎるし、いつも檜舞台に立ってスポットライトを浴びるような完璧超人が俺なんかに一体なんの用だろう。
前回、決闘試合で負けたことを根に持っているとか。
俺が負けること前提で友達もいっぱい呼んでんだもんな。
大恥をかいたことで、俺に報復したいだろう。
そして……
この先輩は花凛に気がある。
以前、花凛にちょっかい出してたな。
俺の周りには敵だらけだ。
俺が少しでも目立つ様なことをすれば、腹を立てて潰そうとする。
だが、
敵がいれば味方もいるわけで
「ぷる」
ぷるんくんは敵意をむき出しにして西山先輩を睨んでいる。
「なんの用ですか」
俺の問いに西山先輩はやるせない表情を浮かべながら
頭を下げて
「申し訳ない!僕の無礼を許してくれ!」
「え?」
「ん?」
呪いの言葉を吐かれると思ったが、謝罪の言葉を言われた。
完全に想定外。
「西山先輩……臼倉くんに頭下げてるよ……」
「ありえね……」
「どう言うこと?」
廊下を歩く人々は足を止めて俺たちを見つめている。
「これは一体……」
こんなに大勢の前で謝れること自体がなかったので対応に困る。
西山先輩は頭を上げて戸惑う俺の表情を見ては、
「ちょっと裏庭に来てくれないか。我ながら君への配慮が足りなかった」
裏庭
「あの……西山先輩、そろそろ授業始まるんですけど、大丈夫ですか?」
「……授業のことも大事だけど、それより今は君に謝罪することと僕の気持ちを伝えることの方が大事だ。今伝えないときっと後悔すると思うからな」
「……」
「花凛ちゃんにはすっかり嫌われちゃってね、君の連絡先も教えてくれなくて……」
西山先輩は、顔を顰めて目を逸らした。
だが、彼は俺をまた見つめ直して頭を下げる。
「すまない。僕は君の事をなにも分かってないのに、勝手に勘違いして、君を貶す言葉を言って、君と花凛ちゃんに多大な迷惑をかけてしまった……」
「……」
無言のまま立ち尽くしている俺を見て、西山先輩は随分と言いたくない様な表情をしてまた口を開く。
「君をみんなの前で笑いものにして、花凛ちゃんを奪おうとしたんだ。やっぱり許せないか……」
西山先輩は深々とため息をつく。
「いや……謝られると思ってなかったんで」
「なに?」
「悪いことをしても自分より立場が下な相手に対しては絶対謝らない。みんなそんなもんだと思ってたんですけど……ほら、西山先輩はなんでも持ってますし、だから俺なんか気にも止めてなかったのかと……」
「そうか……臼倉くんはそういうふうに思っていたのか……」
西山先輩は暗い表情をして、また俺から目を逸らした。
ぷるんくんは西山先輩の顔を穴が開くほど見つめている。
「耳に痛い言葉だ。確かに僕も昔はそんな感じだったから」
「……」
「自分より格下の人は同情する。でも、その人が自分より優位に立とうとしたらそれは絶対認めない。貶して、嘘をついて、悪巧みをしてその人を蹴落とす。嫌な人間だ」
まあ、葛西の場合は同情すらしてなかったよな。
「あれは同情じゃない。ただ単に自分より下だとレッテルを貼り付けて自分はいい人だと自己満足すること以外の何者でもない。僕は君に嫉妬したんだ。花凛が君に見せる態度をみてな。同情する相手に嫉妬するのはあり得ないだろ」
「……」
「でもさ、スライムくんに一発喰らった時気付いたんだ。勝手に下だとか、上だとか決めつけるのは、本当に愚かなことだということに……」
「そうですか」
「だから嫌だったんだ。こんな醜い自分を認めることが。それで罪滅ぼしと思って、学校で君を悪く言う奴にはこっ酷く注意してきた。でもさ、これってダブルスタンダードだよな。自分は散々悪い事してきたのに……今更……それに大事なのは臼倉くんの気持ちなのに、僕は自分の気持ちばかり考えて勝手に行動して……こんなのは罪滅ぼしにならない」
西山先輩は苦しそうに目を瞑って俯く。
俺は一つ教わった。
世の中には自分の非を決して認めない人もいれば、こうやって自分が犯した罪に対して罪悪感を覚える人もいると。
学校で1番イケてる人が、学校で1番イケてない俺に頭を下げたのだ。
なかなかできないことだ。
そんな人に対して昔のことを蒸し返して責め立てるのは無粋なものだ。
むしろ嬉しい。
「いいですよ先輩。むしろちゃんと言ってくれて嬉しいです」
「え」
「これからもよろしくお願いします!」
「……」
俺が明るく笑って答えると、彼はまたやるせない表情を浮かべる。
「君は優しんだな」
優しいか。
無論、優しさはとても大事だ。
だけど、時にはスパイシーも必要だ。
「西山先輩」
「ん?」
「花凛にちょっかい出さないでください。花凛は僕にとって家族同然の子です。困らせたら許しませんよ」
「……分かった。ていうか、そもそも僕に入り込む余地はなかったから」
「え?」
後ろに行くにつれて声が小さくなったので、俺が視線で続きを促すと、先輩は吹っ切れたようにドヤ顔を浮かべる。
「臼倉くん!」
「はい!」
「学校にはいつまでいるつもり?」
「えっと、学食で昼飯食べるんで、それまでにはいるつもりですけど」
「だったらさ、僕が昼ごはん奢るよ。スライムくんの分もな!」
「まマジですか!?」
「ぷるん?」
ぷるんくんの名前が出た途端にぷるんくんは俺を見上げてきた。
「ああ!もちろん!なんでも買ってやるさ。気分がスッキリした。やはり君に会ってよかった」
「あの……この子は結構大食いだからめっちゃ金いるんですけど。気をつかわなくていいですよ。自分で払いますので」
「ううん。お願い。奢らせて」
「……」
西山先輩はとても優しい面持ちで話してくれている。
ただでさえイケメンだから、男でも惚れてしまいそうだ。
やだな。
天は二物を与えないと言っているけど、イケメンで他人い謝れる器も持ってて、ご飯まで奢ってくれる。
やっぱり世の中は不公平だ。
でも、嫌いじゃない。
そんなことを思っていると、ぷるんくんが俺の足を突いてきた。
「?」
下を向けると、ぷるんくんは頷いてくれた。
昼
学食
「ぷるぷる!!!んんん!!ぷる!んんんん!!!」
「……」
「ぷるううううううう!!!んんんんん!!!!!ぷるうういううう!!!!んんんんんん!!!!!」
「……」
堆く積まれる皿、あり得ない程の量を食べるぷるんくん。
西山先輩はこの凄まじい光景を見て諦念めいた表情で何やら呟く。
「今月のお小遣い……全部無くなった」
やがてぷるんくんは料理を全部食べた。
そして
ぐううううううううううう!!
「んんん……」
ぷるんくんはお腹を鳴らせて落ち込んだ。
「ままま、また食べる気か……」
西山さんは真っ青な表情で体をぶるぶる震わせる。
「あの……西山先輩、追加の分は俺が払うんで……」
「い、いや!!男に二言はない!いっぱい食べて!……バイトで貯めたお金も使う羽目になるなんて……」
「ん?なんか言いましたか?」
「何でもない!あはは!スライムくんの分の料理頼んでくる!」
「あの西山先輩」
「ん?」
立ちあがろうとする西山さんは俺を見る。
俺はぷるんくんを両手で持ち上げて西山さんに突き出した。
「この子はぷるんくんですよ!」
「ぷるっ!」
ぷるんくんはちっこい手を生えさせ、あちこち動かす。
どうやら『私つよおおお』と言っているようだ。
ちっこい生き物がが忙しなく動く姿は可愛い。
でもぷるんくん、西山先輩をわずか数秒でぶっ飛ばして気絶させたよな。
「ぷるんくん、僕は西山晴翔だよ。よろしくね」
彼はそう言って券売機のところへ向かう。
後ろ姿もイケメンだ。
「大志」
俺の隣で静かにご飯を食べていた花凛が俺の脇腹を突く。
「花凛」
花凛は不機嫌のようだ。
「ごめんね。西山先輩、どうしても奢りたいと言って譲らないものだから」
「ふん……」
花凛は目を細めて食券を買う西山先輩をきっと睨む。
花凛、怖いよ。
もうちょっと優しい視線を向けてよ。
追記
次回はペルさんの可愛い姿が見れるかも。
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