第69話 可愛い大志
「うええ……」
「ううっ」
俺たちが真っ青な顔で吐きそうにしていると、ペルさんは不安そうに視線を左右にやりながら
「どどどどうしよう……」
戸惑うペルさんにぷるんくんがちっこい両手を生えさせ激しく振りながら何かをペルさんに伝えている。
「ぷるっ!ぷるぷる!ぷるるん!ぷるるるるるん!んんん!」
「そ、そんな手があったのね!よおおし!」
ぷるんくんに言われたペルさんは何かを思い出したらしく、俺たちを見て指を鳴らした。
そしたら
「うえええ……やばいこれ……あれ?もう大丈夫……花凛は?」
「わ、私も平気を。吐く寸前だったのに……」
一体何をしたんだろう。
きっとペルさんの仕業だ。
鑑定を使ってみる。
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ーーーー
やっぱり見れないか。
「状態異常の解除を使ったのおお……」
「状態異常の解除……なるほど」
乗り物酔いも中毒のように状態異常に属するということか。
ゲームだと乗り物酔いすることはあまり見かけないから不思議な感じだ。
そんなことを思っていると、ぷるんくんがジャンプして俺の頭の上に登ってきた。
そしてちっこい手を高く突き上げて
「ぷるん!!」
それと共に
ぐううううううううううう
「んんん……」
最初こそ格好つけたぷるんくんはお腹がなったことで、急にしゅんと落ち込んだ。
そうだな。
まずは神戸牛だ。
「よし!せっかく神戸まできたし、心ゆくまで神戸牛を堪能するぞ!!!」
「そうね!私もいっぱい食べるわよ!」
「神戸牛うううう……」
X X X
神戸牛ステーキ専門店
「こ、これが……神戸牛……」
「ペルさん、いっぱい食べてください!ぷるんくんも花凛もね!」
目の前に出された神戸牛を見て、ペルさんは大変感動した様子である。
俺の作戦を成功させるためにはペルさんにたらふく食べてもらわなければなるまい。
ペルさんはフォークでステーキをブッ刺して口の中に入れる。
「もぐもぐ……ふっ!?こ、ここここれは……美味しい……おおおおおいしいいいい……んん……美味しい……おおおお美味しいいいい……」
「いや、ペルさん……一回言っても全然伝わりますから」
俺がドン引きしながら言っても、ペルさんは全然聞いちゃいない。
「うんんん……ずっと食べてみたかった……美味しい……」
「ペルさん、泣く必要あるんですか?」
今度は花凛が苦笑いをしながら問うてきた。
ペルさんの隣に座っているぷるんくんはペルさんの腕を叩きながら悟ったような顔で頷いている。
なんだよこの光景……
スライムがダンジョンを司る女神の代理人を慰めている。
なかなかシュールだな。
ペルさんはSSランクのダンジョンの神殿でずっと一人だったのではなかろうか。
ぼっちだって言ってたたし。
俺もずっと一人だったから。
今のペルさんはとても幸せそうな。
俺が笑っていると、ぷるんくんの分を店員が持ってきた。
「スライム様の分、出来上がりです!」
「ぷるっ!」」
どうみても圧倒的な肉の山が乗っている皿を持ってくる店員。
そのすごいビジュアルに他の客もびっくり仰天。
「す、すげ……あんな量を全部食べる気が?」
「てか、神戸牛をあんなにたくさん……もしかしてお金持ちだったり」
「女子二人めっちゃ可愛くない?」
みたいな声が聞こえてくる中、ぷるんくんは皿に飛び込んで神戸牛ステーキを吸収し始める。
「ぷるぷる!ぷるん!!ぷるる!!!ぷるっ!んんんんんんんんんん!!!!ぷるぷる!!!んんんんんん!!!」
ぷるんくんもぷるんぷるんしながら大満足中だ。
「よし!俺も食べるか!」
「私もね!」
俺と花凛も食べ始める。
「美味しいいいいいい……人族はこんなに甘いものを食べるのか……私、結構長く生きてきたのに、今までこんなうまいものも知らずにいたなんてえ……やっぱり私は神殿で引きこもった方がいいのおお」
いや、ペルさん……最後ちょっとおかしくありませんか。
「ぷるぷる!!んんん!!ぷる!んんんん!!」
「前回も美味しかったけど、やっぱり本場で食べるべきだわ!」
「ああ!食べるぜ!」
俺たちは頭を空っぽにして食べまくった。
(板前と他の客は目を丸くして四人をみている)
食後はお会計。
大卒の新入社員の年収の半分に当たる金額だった。
料理人たち、神戸牛の在庫を確保するために、めっちゃ忙しなく動いたな。
ちなみに代金は全部俺が払った。
花凛が文句を言いながら自分が払うって言っていたけどな。
花凛、マジでいい子すぎる。
まあ、ここで一番大事なのは俺がペルさんに奢ったということだ。
レジの人、お会計金額をみて驚愕してたな。
外へ出た俺たち。
「しあわしぇ……」
「ぷる……」
「お腹いっぱいだわ……」
4人仲良く並んで(花凛、俺、ぷるんくん、ペルさん)三宮のセンター街を歩く俺たち。
俺は目を瞑って息を吸ったのち、目を開けてペルさんを指差した。
「ペルさん!」
「ふ、ふえ!?な、にゃに!?」
「食べましたよね?」
「え?」
「俺に奢られましたよね?」
「そそそ、そうだよ……ありがとおお……」
「じゃ、俺のいうこと一つ聞いてもらいますよ!」
「え、ええ!?!?主人くんのいうこと!?」
「はい!」
「……主人くんは、いい、一体、私に何を求めているかしら……」
ペルさんが急に目を潤ませて俺から距離を取る。
ぷるんくんと花凛は俺たちのやりとりを興味深げに静観しているようだ。
俺はドヤ顔を浮かべて口を開く。
「花凛も異世界に行けるようにノルン様に頼んで欲しいです!!」
「「え?」」
「ぷるっ!?」
俺の言葉に、憂鬱な表情だったペルさんは驚いたように目を見開いており、花凛もぷるんくんも互いを見つめあって目をパチパチさせる。
「ほ、ほら……ゲートに入れる対象は俺と特別な関係にある或いはなる予定の存在の中でノルン様が認めたもののみですけど、花凛と俺は……と、特別というか……」
「大志……」
花凛は最初は恥ずかしがりながらも頬を緩めて自分の肩で俺の肩をぶつける。
ペルさんはそんな俺たちをみて、真面目な表情を浮かべ納得したように頷く。
「ちびっ子くん」
「ぷるん?」
「ふふ」
「んんんんんん……ぷるん!!」
ペルさんの微笑みにぷるんくんは目を潤ませて元気よく答える。
一体、あの表情にはなんの意味が含まれているのだろう。
一つわかることは、今ぷるんくんが俺を見上げてうんうんと頷いていること。
一体ぷるんくんは何に感動しているのだろう。
ぷるんくんの過去に一体何があったんだろう。
「主人くん」
「は、はい」
「その優しさをずっと守って欲しい」
「優しさ……」
「ノルン様に言ってみるう!」
「本当ですか!?あ、ありがとうございます!花凛!よかった!」
「大志……うん。よかった!!本当によかった!!ペルさん。よろしくお願いします!」
花凛はペルさんに対して丁寧に頭を下げた。
ペルさんはそんな花凛を見て、優しく微笑んだ。
それから俺たちは再びペルさんの背中に乗って東京に戻った。
またゲロ吐きそうになったが、ペルさんが治してくれた。
酔った俺たちを治すときのペルさんはいつものペコペコのペルさんだったな。
だけど、さっきのペルさんの表情。
やっぱり神様の代理人って感じがした。
でも、ノルン様のことじゃないとペルさんは基本コミュ障である。
ペルさんは神殿に戻って、花凛は家に帰った。
そして、俺はいつもの自転車に乗ってぷるんくんと一緒にボロボロなアパートへと向かっている。
なんだか今日は本当にいろんなことがあった。
俺らしからぬこともいっぱいやった。
花凛にもっと遊ぼうと誘ったり、花凛のためにペルさんにお願いしたり。
俺らしからぬこと。
俺らしからぬことって一体なんだ。
そうやって、自分を分類しジャンルをつけるのに一体なんの意味があるのだろうか。
今はぷるんくんに格好いい主人としての姿を見せたい。
俺は頼りになる男であることを花凛にいっぱいアピールしたい。
それだけが俺の目指す道。
X X X
花凛side
エレベータ
エレベータの中で花凛は今日の出来事を思い出した。
『時間大丈夫ならもうちょっと遊ばない?』
『い、いや……ペルさん。俺と花凛、まだ付き合ってないんですけど!』
『花凛も異世界に行けるようにノルン様に頼んで欲しいです!!』
花凛の頬は若干ピンク色になる。
「なによ……ずっと頼りなくて、暗くて、弱かったのに……」
花凛は自分の黒いスカートをぎゅっと握り込んで唇を動かす。
「最近は格好いいところばっかり見せちゃって……」
花凛はモジモジしながら必死に感情を抑えつつ言う。
「私もいっぱい頑張ろう……でも今度は自分のためだけじゃなくて……」
花凛は感情を抑えることができず口角を吊り上げた。
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