第64話 トラウマの克服
今の俺は一人だ。
ぷるんくんがいた時は葛西を簡単に倒すことができたわけだが、今の俺は……
昔と同じだ。
「……」
自転車を止めた俺が動揺していると、葛西がよがりながら言う。
「やっぱりお前一人か!!その顔、俺にビビりまくる時に浮かべる顔だな。やっぱりお前はその顔がお似合いだ」
葛西の言葉に隣の二人も同調する。
「あはは!こいつビビってるぜ。陰キャみたいな見た目して、本当にこいつが翔太に勝ったの?」
「あり得ない。こんな弱すぎるクソが」
葛西の友達は俺を見て嘲笑う。
いやだ。
この感じ。
昔を思い出してしまいそうだ。
華月高校の連中も、葛西に同調してあんな笑い方をしたんだった。
そして、
葛西のバイク。
あれは、
俺の金をぶんどって買ったものだ。
自分のお金で買えよ。
お前、お金持ちの両親持ってるだろ。
俺はお前のせいで、家賃とガス、水道光熱代を数ヶ月も滞納したんだよ。
振り返ってみると、本当に腑が煮えくりかえる。
だけど、今の俺は一人だ。
足が震えてくる。
「俺がこんな奴に負けるわけねーだろ!!あのクソスライムがきったないやり方で俺を嵌めただけだ。あんなキモいスライムなんか、俺が蹴り飛ばしたら一発で死ぬ!!」
なんだと……
「ぷるんくんを悪くいうな!ぷるんくんはクソじゃないし、キモくもないんだ!無様に泡まで吹いて負けたくせに。何偉そうしてるんだ!」
俺の言葉に葛西は気狂いのように頭を抱えたのち叫ぶ。
「黙れ!!!!」
そして、自分のバイクに乗って、全力で飛ばし
俺を撥ねた。
「な!」
俺は電柱に飛ばされ、突き刺さるようにぶつかる。
「「っ!」」
葛西の友達二人は目を丸くし、葛西と俺を交互に見る。
「い、いや、翔太……これはちょっと」
「これはやりすぎというか」
葛西のやつ、完全にイカれやがってる。
これは、高原さんか秋月さんに連絡を……
そう思って、俺がズボンからスマホを取り出すと、
「させるか!!」
怒り狂った葛西が俺の手てからスマホを奪い、それを叩きつけて踏んづける。
スマホは
完全に壊れてしまった。
「ああ……だめ……このスマホは……」
所詮一人ぼっちの陰キャのスマホの中には大したものは入ってない。
だけど、
ぷるんくんの写真があるんだ。
俺が作った料理を美味しく食べるぷるんくん。
ダンジョンタラバガニを咥えているぷるんくん。
小金井公園で花を咥えている可愛いぷるんくん。
猫族と一緒に踊っているぷるんくん。
ぷるんくんとの思い出がいっぱい詰まった俺のスマホを……やつは踏み躙った。
やつは横になっている俺の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「属性を返せ!!!魔力も返せ!!!俺がどれだけ辛い思いをしているかわかってんのかよ!!」
「……」
「早く返せ!!返せ!!!!!じゃないと、本当に潰してやる!!!」
なんで……
なんでだよ。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
どうして……
俺の中で何かがキレた気がした。
「お前は、謝罪すると死ぬ病気でも罹ってるのか!?」
俺は葛西を思いっきり蹴り上げた。
「っ!」
葛西は飛ばされた。
俺は早速立ち上がり、倒れている葛西に指差して言った。
「これまで俺をいじめたこと、ぷるんくんに無礼な態度を取ったことを素直に謝れば、呪いを解いてやると言ってるだろ!そんなに謝るのが悔しいのか……そんなに、そんなに俺とぷるんくんに頭を下げて自分の非を認めることが嫌か!?」
俺の問いに、葛西は
「クソスライムがないと何もできない出来損ないが!!!属性と魔力を返せええ!!」
彼はまた気狂いのように叫んできた。
なので、俺は
呪いを解除してやった。
「……呪いを解除してやったぞ。もうスキルが使えるようになったはずだ」
「え?あ、本当だ……あははは……あははははは!!!!」
葛西は涎を垂らしながら喜ぶ。
それから、俺に向けて
「さあ、イジメの時がやってきたぜ。お前を一生イジメ抜いてやる。サンダーボルト!!!!」
葛西の指の先から電気が流れ、俺の方へ飛んできた。
俺はその攻撃を避ける。
俺は異世界で異世界ハイエナと戦ったことがある。
奴らはすばしこくて狡猾だった。
俺はそいつらを倒してきたんだ。
俺は葛西にずっといじめられてきたため、やつの攻撃パターンや力は把握済みだ。
俺が呪いを解除してあげた理由。
それは
やつが能力を使っても、今の俺には絶対勝てない自信があるからだ!!
もちろん死神の恐怖を使えばやつを瞬殺できるが、そんなやり方だと、俺は成長できない。
俺は口を開く。
「そう……世間一般的にいうと俺は出来損ないかもしれない。俺にぷるんくんがいないと、俺は虚しい存在以外の何者でもない。臆病で属性なしで、親も死んで、貧乏で根暗で……」
「クッソ!当たれ!!サンダーボルト!!」
俺は葛西のサンダーボルトを避けつつ彼に近づく。
「でもな……でもな……」
俺は収納ボックスからぷるんくんからもらったミスリルの剣を取り出して、そこにファイアボールをかける。
そしたらミスリルの剣は火と纏うようになった。
「な、なんだこれは!?く、くるな!!」
俺は葛西の頭の方へ向けて全力で剣を振った。
「ぷるんくんはこんな俺を主人だと認めてくれたんだああああ!!!!」
炎をまとったミスリルの剣の平べったいところに葛西の頬が強く当たる。
「ブアアア!!」
葛西は飛ばされた。
俺はすかさず葛西のところへいき、剣を葛西の顔の真横に突き刺した。
「ひいい!!」
「俺とぷるんくんは互いに欠けているところを補い合っているんだ。つまり俺とぷるんくんは一心同体。だからさ……」
俺はやつを睨んでいう。
「俺を侮辱するならぷるんくんはお前を許さない。そして!もし、お前がぷるんくんを侮辱するなら……葛西翔太!お前を……俺は絶対許さない!!!!あと、俺をいじめるな!!!この金髪チンピラがああああああ!!!お前なんかに人を虐める権利はない!!!」
「っ!!」
やつは目を丸くして驚く。
気のせいかも知れないが、やつは身震いしているように見える。
「人を虐めて泣かせて知らんふりをする犯罪者には血涙を流すほどの苦しみを味わってもらう。俺とぷるんくんに頭を下げて謝罪するまでスキルは一生使えないと思え。一年なんかじゃない。一生だ。お前が死ぬまでお前はスキルが使えない」
そう言って、俺は奴に再び呪いをかけた。
「ああ……」
やつは恐怖するように口を半開きにして体をビクッと痙攣させる。
それから俺は剣を抜いて、周りにいる二人に向ける。
「お前らもやるのか!?」
「い、いや……やらない」
「お、お前……以外とやるんだな」
ガタイのいい子と刺青入れまくりの痩せた子は後退りながら両手をあげた。
奴らに戦意がないこと確認した俺は壊れたスマホを拾い、自転車に乗って走る。
ボロボロになった服。
壊れたスマホ。
喪失感が俺の心の中で渦巻く。
だけど、
それを上回る達成感が俺を喜ばせる。
ぷるんくんにの防御膜があるとはいえ、俺は葛西を自分の手で始末することが出来た。
これは俺が成長した証でもある。
この成長はぷるんくんによってもたらされたものだ。
ぷるんくんがいないと俺はこんなふうに行動出来なかったはずだ。
俺にトラウマを植え付けた葛西翔太。
ぷるんくんのお陰でいじめから解放された。
だが、それは根本的な解決には繋がらなかった。
なぜなら、俺がずっとヤツにやられっぱなしだったという辛い記憶が残っているから。
だけど今日、俺は葛西を自分の手で倒す事が出来た。
やつをビビらせる事ができた。
もう俺にとっての葛西は
トラウマを植え付けた怖い存在ではなく
単なる声だけでかい弱すぎる金髪チンピラだ。
やっと俺は本当の意味での開放感を味わう事ができた。
お前は俺の金をぶんどって購入したバイクでも乗りながら不良ごっこでもやれば良い。
俺はダンジョンでモンスターを倒して億を稼ぎ、異世界でレベルを上げまくるから。
そして、とても烏滸がましい欲望かもしれないけど、
いつか花凛と……
そんな夢を抱きながら、俺は空を見上げる。
空にはX字の雲が浮かんでいる。
俺はそれを見てぷるんくんを思い出した。
「ぷるんくん、俺、行くから。今度は……ちゃんと行くから!!約束、守るから!!!」
俺は涙を堪えたままフルスピードで花凛の家へ向かう。
まだ俺は弱い。
故にこれからぷるんくんに守られることが事が多くなるなろう。
ただ、
俺はぷるんくんの前で格好いい主人でいたい。
今のように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます