第59話 高原さん
訓練を終えた俺とぷるんくんはお腹が空いたため、いつものラーメン屋さんへ行き、豚骨ラーメンを頼んだ。
「ぷるうううう……んんん!!」
美味しそうに食べるぷるんくんの隣にいる俺も猛烈な勢いで豚骨ラーメンを食べていく。
そんな俺たちを見て、後ろ髪をガシガシしながらやれやれと言わんばかりに店長は言う。
「やれやれ……今日はスライムだけじゃなくて主人にもたっぷりサービスしないとな」
体を動かしたことで、普段よりお腹が空いてしまった。
実は昨日ハイエナを倒す際に筋肉を使い、今も若干の筋肉痛がある。
かてて加えて今日も体を動かした。
明日になれば絶対痛くなると思う。
ただ、これは俺が強くなるために必要不可欠なことだ。
スキルの練習もそうだが、肉体を鍛えること大事だ。
俺は心の中で決心し、口を開く。
「おかわりをください!」
俺がいうと、隣で大食い大会に使われる巨大な皿に入っているラーメンを食べ尽くしたぷるんくんも言う。
「ぷる!ぷるぷるん!」
「はいよ。今すぐ作ってあげるから」
X X X
たらふく食べたあとは運動がてらぷるんくんを自転車の前かごに乗せて散歩。
玉川上水のせせらぎを聞きながら俺たちは果てしなく伸びるこの緑道をゆっくり走っていた。
ぷるんくんは目をパチパチさせて興味深げに周りの景色を見ている。
いつもの風景のはずなのにぷるんくんは周りを念入りに見ている。
どうやらぷるんくんは好奇心旺盛のようだ。
これからは新しい場所に行く回数が増えるはず。
ぷるんくんにはもっといろんな場所へ行き、様々な経験をして欲しい。
そう思っていると、隣の舗装道路にバスが走っている様子が視界に入った。
「ん……移動手段か。大事だよな」
「ぷる?」
俺の呟きにぷるんくんがハテナマークを浮かべて俺を見つめてきた。
そう。
移動手段はとても大事だ。
昨日異世界でそれを思い知った。
だけど、俺は自転車以外は乗ったことがない。
この昭和嗅がするママチャリを異世界に持ち込んだとしても、舗装されてない道で使えるはずもなくすぐタイヤがパンクするか自転車自体が壊れてしまいかねない。
マウンテンバイクを買ったとしてもあの広々とした荒野だと俺の体力が持たない。
どうしたものかと悩んでいる俺。
そんな俺を不思議な表情で見つめるぷるんくん。
俺は悩みを抱えたままひたすら自転車を走らせた。
数時間も異世界での移動手段のことを考えながら走った。
そして気がつくと俺たちは日本ダンジョン協会立川支部についていた。
ここにくるのは久しぶりだ。
上級マナ草やダンジョンタラバガニの依頼などでだいぶ世話になった場所である。
依頼だけじゃない。
ここには高原さんがいる。
俺を助けてくれるお兄さん。
俺は駐輪場に自転車を止め、ぷるんくんを俺の頭に乗せたまま建物の中へと入る。
そしたら、やけに頭が輝いている禿頭のお兄さんが……
めっちゃ怒っている。
髪を染めた不良っぽい少年に対して激怒しているのだ。
「ダメに決まってんだろ!!」
「「ひいいいいい!!」」
「わかったなら出ていけ!!」
「「す、すみませんでしたああああ!」」
不良っぽい二人は震えながら飛び出した。
何を言われたんだろう。
てか、高原さんマジで怖い……
見た目だけで言えば、完全に組長オーラ出しているんだもんな。
そんなことを思っていると、高原さんとばったり目があった。
「お、臼倉!来たか」
「はは、はい……こんにちは」
と言って、俺は高原さんのいるカウンターへやってきた。
「ったく……最近のチンビラどもの無茶振りにはまるぜ」
「何があったんですか?」
「Dランクなりたての不良ども二人がAランクモンスターの討伐依頼を受けたいと威張っててな」
「おお……」
「女の子に自慢するとか、SNSにあげるとか本当しょーもないこと言いやがってカットなって怒鳴りつけやった。ランクが上がって上機嫌なのは知ってるけどよ、自分はなんでも出来る人間だと思い込む連中が多いんだよな。特にあんな不良どもは尚更」
「あはは……大変ですね高原さん」
「ちっとは臼倉を見習って欲しいもんだ」
「い、いや……俺ってそんな偉い人じゃありません!」
と、俺が両手をぶんぶん振って言ったら、高原さんが安堵したように息をついてから言う。
「相変わらずだな。臼倉」
「え?」
「やっぱりすごいやつだ。お前は」
「……」
彼が向けてくる優しい視線に俺の緊張は一瞬にしてなくなってしまう。
「スライムくんも久しぶりだ。ちゃんと主人を守っているのか?」
と、高原さんが問うとぷるんくんがドヤ顔をし、手を生えさせボディビルダーばりに両腕を上げて力を入れてみせる。
「ぷるううううん!!」
「おお、自信に満ちた顔、気に入ったぜ!今日は辰巳オヤジが美味しい料理をいっぱい振る舞ってくれるからよ!」
「ん!?」
ぷるんくんが辰巳オヤジと美味しい料理という単語に敏感に反応する。
そんなぷるんくんを見て、高原さんがドヤ顔を浮かべる。
「ダンジョントラフグは美味しいぞ。ほっぺたが落っこちそうになる程にな」
「ぷりゅ……」
ぷるんくんは涎を垂らし始める。
なので、俺はぷるんくんを頭から下ろして腕を使って抱える。
高原さんはお構いなしに語り出す。
「もちもちした歯ごたえ、噛めば噛むほど口の中へ広がる甘味と旨味……」
「ぷるるる……」
「刺身として食べるのもいいけどよ、ダンジョントラフグの身とアラで作るふぐちり鍋も別格だよな。 ふぐは加熱するとプリプリとした食感になって刺身とは違う風味で楽しめる。海で取れるフグは身が小さいけど、ダンジョンに生息するダンジョントラフグは大きさもさることながら、味も一品だぜ。ああ……今日給料入ったからちょこっと飲んじゃおっかな。うへへへ」
熱弁を振るいながら酒を飲む仕草をみせる高原さんに、ぷるんくんの口からは大量の涎が出てくる。
「んんんん!んんんんんん!!んんんん!!」
ぷるんくんは身震いしながら俺を上目遣いしてくる。
ぷるんくんの目はとても輝いている。
小さな両手をかわいく振っており、『主人いい、私、フグ食べていいい?』と必死に言っているようだ。
高原さん……ぷるんくんに期待持たせ過ぎでは。
てか高原さん、料理に関する語彙が豊富すぎる。
俺さえも期待してしまいそうだ。
俺はぷるんくんに言う。
「ダンジョントラフグ、いっぱい食べようね」
というと、
「ぷるるるるん!!」
ぷるんくんは目を『^^』にして、俺の胸にペチャっと引っ付いたのち、俺の顔をすりすりする。
俺はそんなぷるんくんの頭をなでなでしてあげた。
ダンジョンだろうが異世界だろうが、まず健啖家であるぷるんくんに美味しいものを食べさせる。
そして……
「あの……高原さん」
「ん?」
「いいえ。食事の時に話しますね」
「お、おう。わかったぜ」
信頼のおけるお兄さんに、悩み相談をしてみよう。
10分後、仕事を終えた高原さんと俺とぷるんくんは銀座の料亭、辰巳へと向かった。
追記
星2000超えますように(๑╹ω╹๑ )
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