第58話 属性
目が覚めた。
窓から差し込む朝日が眩しくて起きてしまった。
「ん……」
俺の右腕に柔らかくて暖かい塊がくっついている気がした。
布団をめくって確認したら、ぷるんくんがすやすや寝息を立てて寝ている。
安堵するように胸を撫で下ろした俺は、ぷるんくんの十字傷あたりを優しくなでなでしたのちベッドから降りた。
異世界でいろんな経験をしたとしても、俺の役割は変わらない。
「今日はいつものスティックパンにヨーグルト、サラダでいいか」
そう呟いて俺は早速朝食の準備に取り掛かる。
変わらない部屋。
だが、
隅っこに置かれている古い座布団が俺の成長を物語っている気がした。
そんなことを考えていると、
「ぷりゅ……」
ぷるんくんが目を覚めた。
窓から入っている光に照らされているぷるんくんは輝きを放っている。
「もうすぐご飯できるから待っててね」
「ぷりゅん」
X X X
ものすごい量の朝食を食べたぷるんくんと俺。
「うん……」
「ぷる……」
俺とぷるんくんは深刻そうな表情をしながらテーブルの上にある赤い物体を見つめている。
火の種。
俺は火の種を摘んで目を細めた
「本当にこんなので属性がつくのかな?」
実に胡乱な話ではある。
たまにニュースで属性を持ってない人に検証されてない薬とかを売りつけて属性を与えようとする犯罪集団が逮捕されたと聞いたことがある。
恣意的なやり方で属性を与えたという事例はない。
ごくたまに俺みたいな年で属性に目醒める人がいるが、その人は100%親が属性持ちである。
まあ、今そんなことを考えたところで時間の無駄だろう。
「ぷるんくん」
「ん?」
「俺、いくぞ」
「ぷるん!」
ぷるんくんはサムズアップして火の種を摘んでいる俺にエールを送ってくれた。
俺は火の種を口の中に入れてすかさずお水をうんくうんく飲む。
そして数秒が経つ。
「……別に何もな、うっ」
「ん?」
身体が熱い。
芯から熱い。
お腹から始まり、肢体、指先、胸、首、頭へと熱が伝わってきた。
「熱い……」
別に苦しいほどではないが、俺がこの謎の感覚に違和感を覚えていると、ぷるんくんが目力を込めて俺を見つめる。
よし!
耐えてみせるぞ!
と、俺が意気込んでいたら熱い感覚がなくなってしまった。
静まり返る部屋。
秒針が時を刻む音しか聞こえない。
「鑑定、使ってみるか」
そう言って早速俺は鑑定を使ってみた。
ーーーー
名前:臼倉大志
レベル:15
属性:火
HP:600/600
MP:300/300
スキル:鑑定、収納、テイム、ファイアボール
称号:最強スライムの支配者、……
ーーーー
「おおお……」
「ぷるう……」
「おおおおおおお……」
「ぷるううううう……」
「オオオオオオオオオオオ!!!!!!属性だあああああ!!!ファイアボールだあああ!!!」
「ぷるるるるるるるるるるるるうん!!!!!!!!!」
俺が発狂したように喜んでいると、ぷるんくんがぴょんぴょん跳ねて喜んでくれた。
「ぷるんくん、外出よう!」
「ぷるん!」
俺は早速ぷるんくんをママチャリの前かごに乗せて玉川上水の緑道を走った。
今向かっている場所は小平市が運営する小平体育館。
ここにはテイムしたモンスターを訓練させることができる施設が存在する。
もちろん属性魔法を自由に使うこともできるのだ。
家でファイアボールなんか試したら絶対火事になる。
だって俺の家木造だからな。
今日は平日だから人は少ない。
お金を払った俺はテニスコートくらいの大きさの個人用訓練場に入った。
「よし。ぷるんくん、ファイアボール使ってみるから、ちゃんとみてくれよな」
「ぷるん!」
ぷるんくんは『どんとこい!』と言わんばかりに手で自分の体を当てる。
俺は目を瞑った。
これまで属性を持ってなかった俺は、藁にも縋る思いでネットとかを漁りながら属性スキルを使える人たちの経験談を調べていたんだ。
スキルを使うときどんなイメージを浮かべるのか。
関連動画を見たときは、自分もなんだか属性持ちである気になってワクワクしていたもんだ。
視聴が終われば属性なしである現実を突きつけられた気がして涙が出そうになったが……
無駄だと思っていたあの時間は全てこの時のためにあるんだった。
本当……
人生生きてみるもんだな。
と感慨深げに息を吐いた俺は脳内でイメージする。
燃え盛る火。
そしてその火によって生まれる回路。
だんだんイメージが鮮明になってゆく。
俺はイメージを俺の右手に集中させた。
すると、右手に熱を感じる。
目を開けると
「火、火だ!」
俺は右手の上で浮かんでいる火を正面に向かって放つ。
「ファイアボール!!」
俺の叫びと共に放たれるファイアボール。
威力こそ弱いが、弱いモンスターならダメージは与えられるほどの威力だ。
興奮気味に目を大きく開けている俺。
ぷるんくんはそんな俺を満足げに見つめている。
ちょっと待ってよ。
俺、今いいアイディアを思いついた。
ファイアボールを応用すればもっと格好いいこともできたりもするはず。
そう考えた俺は収納ボックスからミスリルの剣を取り出した。
そして、
「ファイアボール……」
ミスリルの剣にファイボールをかける。
そしたらミスリルの剣は炎を纏う。
「やばい……めっちゃ格好いい……」
男のロマンというやつだ。
これがあればどんなモンスターでも一発でやっつけられそうだ。
異世界ハイエナより強いやつも全然怖くない!
俺は強いいいいい!!
俺がミスリルの剣を見て闘志を燃やしていると、ぷるんくんがドヤ顔をして俺を呼ぶ。
「ぷるん!」
「ん?」
「ぷるっ!!ぷるぷる!」
ぷるんくんは『かかってこいや!』と言わんばかりにちょいちょいと手招く。
ぷるんくんの手はいつしかミスリルになっていた。
「ぷ、ぷるんくん、もしかして相手してくれる?」
「ぷりゅん!」
「い、いや……でも、ぷるんくんに向かって攻撃とか俺、ぷるんくんのことが心配で……あ、」
一瞬ぷるんくんを心配した俺だったが、俺の心配がぷるんくんにとって取るに足りないことであることがよくわかった。
レベル15で属性覚えたての俺。
対してぷるんくんはレベル778で全属性持ち。
うん。
戦闘においてはぷるんくんは大人、俺は赤ちゃんレベルだろう。
誰が誰を心配するんだよ。
「ぷるんくん、行くよ」
「ん!」
俺は火を纏うミスリルの剣を握りしめ、ぷるんくんへとダッシュする。
そして、
カーン!
ミスリルとミスリルとがぶつかり合う音。
俺の一振りをぷるんくんは手で簡単に防いで見せる。
「っ!やっぱりぷるんくんは強い……でも俺だって」
強くなるんだ。
強くなって、ぷるんくんと会話ができる主人になるんだよ。
俺は剣を握っている手により一層力を入れて、剣を振る。
カーン!
もっと
カーン!カーン!
「よし!今だ!」
俺は思いっきり剣を叩きつけた。
が
「ぷるっ!」
「っ!」
ぷるんくんは俺の攻撃をするっと躱してジャンプをした。
一連の動きが早すぎるため、俺は対処ができずにいる。
中に浮かんだぷるんくんは俺の頭を狙ってミスリルの手に力を込める。
このままだと、ぷるんくんに一発殴られるかも……
うう、
これは……
怖くなった俺は目を瞑った。
すると、
ペチャ
「うん?」
てっきり攻められると思ったが、目を開けたら
「ぷりゅ」
ぷるんくんが俺の胸にペチャっと引っ付いていた。
ぷるんくんは頷く。
どうやら『我が主人、よく頑張った』と言っているようだ。
俺はぷるんくんの頭をなでなでした。
「やっぱりぷるんくんは強いんだな」
そう言って俺はぷるんくんを掴んで優しく地面にそっと下ろした。
「でも、訓練はまだまだああああ!!ファイアボール!」
俺は剣に更なる炎を纏わせ、ぷるんくんに向かって走る。
結果、俺はぷるんくんに一度も勝てなかった。
ぷるんくんは俺の隙をついて胸にペチャっと引っ付くことを繰り返す。
延べ15回もひっつかれてしまった。
「はあああ……ああ……これはしんどい……」
俺は地べたに横になっているが、ぷるんくんは全く疲れた様子がない。
息切れしている俺。
突然携帯が鳴った。
どうやら電話がかかってきたようだ。
俺はいそいそとポケットから携帯を取り出して電話に出る。
「もしもし……」
「臼倉!俺だ」
「オレオレ詐欺?」
「ちげーよ!俺の番号登録してねーのかよ」
俺は早速スマホの画面を見る。
「いや、してますよ。高原さん」
「あはは……それより臼倉、今日辰巳オヤジの料亭に行かないか」
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