第57話 ぷるんくんにとっての『守る』

「タイシお兄ちゃん!絶対またここにくるのにゃん!」

「タイシ様、あなた方の行く末にガイア様のご加護があらんことを」


 猫族の全員が名残惜しそうに俺を見つめながら手を振っている。


 族長とネコナの言葉を聞いて俺は頷いてから返答する。


「では行ってきます!」

「ぷるん!」


 俺とぷるんくんの言葉を聞いた猫族は安堵したように胸を撫で下ろし、笑顔で俺たちを送ってくれた。


 水と食材の一部を分けてあげたから当分は問題ないだろう。


 俺たちは歩き始める。


「はあ……」


 この二日で本当にいろんなことがあった。


 ペルさんが言っていたように、ここは俺が成長する上で必要な場所だ。


 日本では最弱モンスターも怖くて倒せなかった俺だが、ここでの俺はちゃんと戦うことができた。

 

 俺は自分のレベルを確認すべく、鑑定を使ってみる。


ーーーー


名前:臼倉大志

レベル:15

属性:なし

HP:600/600

MP:300/300

スキル:鑑定、収納、テイム

称号:最強スライムの支配者、……


ーーーー


「上がってるぞ……昨日はレベル6だったのに……」

「ん!」

 

 俺が感心していると、地面を這うぷるんくんが手を生えさせ、サムズアップしてくれた。


 ミスリルの剣を使っての戦闘。


 それだけで俺はあっという間にレベル15になった。


 だとしたら、ぷるんくんが俺にくれた火の種を使って、俺に火属性を付与させればもっとレベルアップしやすくなる。


 俺は握り拳を作り、気合を入れた。


「よし!この調子ならレベル153も夢じゃないぞ!」


 レベル153になればぷるん語を理解できるようになる。


 ぷるんくんといっぱい会話したり美味しいものを食べたりする光景。


 そして笑顔を浮かべ幸せそうにしているぷるんくんを見て、俺も喜ぶ光景。


 想像するだけでも口角が吊り上がってきた。


 ぷるんくんはどんな過去を持っているんだろう。


 まあ、今はそんなこと考えても誰も教えてくれない。


 今は人の住む街へ行き、いろんな情報を聞くのがいい。


 族長に強くなるにはどうすればいいか訊ねてみた。


 そしたら、エルドラドには燃えるミミズの登場により強いモンスターは姿をくらましたと言って、人族の住む国へ行き、クエストを受けた方がいいと言ってくれた。


 しかしここから人族の住む国は結構離れているらしい。


 だけど大丈夫。


 荒野を歩く俺。


 なんか格好よくないか。


 こんな旅人のような感じも悪くないと思う。

 

 特殊部隊所属だったイギリス人がやっていたサバイバル番組とか超好きだった。


 だからこの広々としている自然を堪能しながら歩こうではないか。


 そう思った俺はぷるんくんに言う。


「ぷるんくん!」

「ん?」

「ぷるんぴたをお願い!」

「ぷるん!」


 ぷるんくんはジャンプをし、俺の胸にピタッと引っ付いた。


 よし。


 収納ボックスには燃えるミミズの肉を含むいろんな食材がある。


 そして


「ぷりゅん……」


 冷たくなったぷるんぴた。


 ぷるんくんは俺を見つめている。


 なんか俺の顔に変なものでもついているのだろうか、気になって俺はぷるんくんに話しかける。


「ぷるんくん?どうした?」

「ん……」

 

 だけど、ぷるんくんは答えることなく微かに笑うのみだった。


 まあ、笑っているし、別にいいか。


「よし!ぷるんくん!行くぞ!!」

「ぷるるん!!」


 と意気込んでから俺はまた歩き始める。


 スマホの時計は午後3時を差していた。


 俺はいつまでもどこまでも歩けるぞ!!


 力が漲ってくるうううう!!!!


 3時間後


「ああ……はあ……これは無理。歩くのしんどい……」

「……」


 ぷるんくんが困ったような表情で俺を見上げてきた。


 いくらぷるんぴたがあっても体力自体がないんじゃ仕方がない。


「移動手段を考えた方がいいかもな……とりあえず家に帰ろうか」


 と言って、俺はぷるんくんを抱えながらゲートを使って中に入った。


 嗅ぎ慣れた匂い。


 見慣れたワンルーム。


 ベッドとテーブルに机、キッチン。

  

 そして、


「んん……んんん……」


 俺の腕で身を揺らし何かを訴えているぷるんくん。


「ぷるんくん?」

「んんん!ぷるんんん!!」


 ぷるんくんは俺の腕から降りで隅っこへ行き物欲しそうに俺を見上げてきた。


 あ、もしかして、

 

 俺は早速収納ボックスから古い座布団を取り出してぷるんくんのいるところに置いた。

  

 すると、ぷるんくんはジャンプをして座布団に見事着地


「んんん……んんんん」


 ぷるんくんはその座布団に顔を埋めている。


 そんな光景を見て、俺は申し訳ない気持ちになった。


「そういえば俺はぷるんくんにろくなクッションも買ってあげたなったな」


 と言ってため息混じりに後ろ髪をかく俺。


 すると、


 ぐううううううううう!!!!


 ぷるんくんのお腹が鳴った。


「ぷりゅん……」


 急に落ち込むぷるんくん。


 そろそろ夕食を食べる頃合いだ。


 だけど俺は今とても疲れている。


 今にもベッドに飛び込みたいくらいにはくたくただ。


 休みたい気持ちでいっぱいだが、そうもいかない。


 だって、


 俺はぷるんくんの主人だ。


 ぷるんくんに美味しい料理をいっぱい食べさせて幸せにしないといけないんだ!!

 

 俺のためにエルドラドで頑張ってくれたぷるんくん。

 

 よし!


「ぷるんくん!今から料理作るから待っててな!」

「ぷるるるるるんん!!!!!!!!」


 ぷるんくんは興奮したように身震いしながら目を輝かせる。


 ああ……こんなにかわいいぷるんくんのためなら、俺は頑張れる。


 おおおおお……


 おおおおおおお……


 オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!


 猫族の戦士たちに倣い、俺も心の中で雄叫びをあげてみる。


「ぷ、ぷりゅっ!?」


 ぷるんくんはそんな俺を見て若干引いている様子である。


 今日のメニューは焼きそばだああああああ!!!


 寸胴鍋で作る焼きそばあああああ!!!


「おおおおおおお!!!」


 キャベツはざく切り、しめじはほぐし、にんじんは短冊切り。


 そして、滋養強壮に効く燃えるミミズ肉をぶつ切りいい!!


 あとは寸胴鍋に油をたっぷり入れて燃えるミミズ肉を投入!!


 まじえまじえだああああ!!


 あとはもやしを含む野菜を入れてしんなりしたら取り出す!


 それから大量の麺と水を入れてほぐすほぐす!!


 解した麺にさっき炒めておいた野菜と肉を入れ中濃ソースをたっぷり入れる。


 まじえまじえ!!

 

 この全ての工程がでっかい寸胴鍋で行われることを忘れてはならないいいい!!


 出来上がりだ!!

 

 俺が寸胴鍋に入っている焼きそばをぷるんくん専用のステンレスのボウルに盛るとぷるんくんが涎を垂らした。


「んんんん!んんんんん!!」

「ぷるんくん!いっぱい食べてな!」

「ぷるるるん!」

 

 返事をしたぷるんくんは早速焼きそばを吸い上げていく。


「ぷるううううううう……んんんんん!!ぷるううううううう……んんんんん!!」


 俺とぷるんくんは凄まじい勢いで燃えるミミズ肉入りの焼きそばを食べていく。


 食後はぷるんくんの水スキルを使いあっという間に皿洗い完了!


 あとは炭酸入りの入浴剤をたっぷり入れた湯船にぷるんくんとどっぷり浸かったあと、


「はああ……やっと寝れる……」


 風呂を済ませた俺は寝巻きを着るなり、早速ベッドに飛び込んだ。


 そして


 ペチャ


 ぷるんくんが俺のお腹に飛び込んできた。


「ぷるんくん、座布団はいい?」

「うるっ!」


 どうやら、ぷるんくんは座布団より俺のお腹の方が好きらしい。


「ふふ、おやすみ。ぷるんくん」


 そう告げて、俺は重くなった瞼に抗う術もなく眠りにつく。




ぷるんくんside


 ぷるんくんは寝息を立てている大志を見つめている。


 雁是がんぜない彼の寝顔を見てぷるんくんは今日起きた出来事を思い出した。


『ぷるんくん、心配するな。安心してスキルに集中してくれ。俺が……ぷるんくんを守る!』


 守る


 守る……


「ぷる……」

 

 ぷるんくんは目を潤ませた。


『俺が守ってあげるよ!!ちゃんと捕まって!!』


 6年前に小さな大志が発したセリフ。


 弱々な自分を抱えながらキングブァッファローから必死に逃げていた時に発したセリフ。


 ぷるんくんは大志のお腹から胸へと移動し、自分の柔らかい体を大志の頬に優しくすりすりする。


「んんんんん……」


 しばしすりすりタイムが続いた。


 やがてぷるんくんは大志に布団を被せた。


 それからぷるんくんは布団の中に潜り、大志の体温を感じながら眠る。


 窓から入ってくる街路灯と月光とが混じった微かな光が二人を密かに照らした。




追記


しばらく日本での生活が続くかも。


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