第52話 宴、そして約束
と思ったが、
「ぷるん様!これをどうぞ!」
「ぜひこれを!」
「これも食べてください!」
「少ないんですけど、私の分も……」
猫族の人々はそれぞれ食材をぷるんくんに献上した。
「ぷるるる」
献上されたのは食用草、肉、パン、いちじくのような果物、干した木の実などなど……
普段とは違うメニューを見てぷるんくんは戸惑うが、やがて与えられたものを見て涎を垂らした。
「んん……んんん」
物欲しそうに俺を見つめるぷるんくん。
「食べてもいいよ」
と、俺が言った途端に
「ぷるるるるん!!!」
ぷるんくんは食材に覆いかぶさるようにして体内に食材を入れ吸収し始める。
「ぷるぷる!んんん!!ぷるぷるぷる!!んんんん!!」
ぷるんくんは喜びながら食事を始める。
「おおお……ぷるん様が喜んでるぞ!もっともってこい!」
「私たちに水を与えて下さったぷるん様、いっぱい食べてくださいね!」
「ぷるん様、ちょっと待ってください!持ってきますので!」
猫族の方々は忙しなく動いて追加の食材をぷるんくんに献上した。
それを嬉しそうに食べるぷるんくん。
そんな場面がひたすら繰り返された。
「……」
俺は不安になった。
ぷるんくんは大食いだ。
そろそろ止めに入った方がいいと思うが、猫族の人たちがあまりにも熱心だったため、入り込む余地がない。
やがて、
「ぷるん様……こ、これで全部……です」
「もっと欲しいなら、採ってきますので……」
「うう……ぷるん様、私たちのことは気にせずいっぱい食べてください」
「ぷるん様はガイア様が遣わした天使……故に俺たちが飢えることはあっても、ぷるん様が飢えることはあってはなりません……」
猫族は笑っているけど、泣いている。
俺の隣でこの光景を見ていたネコナと族長、ネコナの父は驚愕していた。
この村の人々が持っている食材を全部食べ尽くしてしまったぷるんくん。
そしたら、
ぐううう
ネコナのお腹が鳴った。
「あっ、これは……その……もうすぐ昼ごはん食べる時間だから……でも大丈夫にゃん!雨によってできた水たまりの水を飲めばなんとかなるにゃん!」
ネコナはあははと明るい表情で俺に言った。
やめてその笑顔……
見てるこっちが悲しくなるぜ……
やっぱり止めに入るべきだったか。
優柔不断な俺が情けない。
いや。
これはむしろ好都合だ。
俺の出番だ。
俺はネコナの頭を撫でたのち、ぷるんくんのいるところへ歩く。
雨脚も弱まったので、俺の歩く音は余計鮮明に聞こえた。
猫族のみんなが俺に視線を向けており、ぷるんくんは俺の足にやっていては暗い表情をする。
ぐううううううう……
ぷるんくん、あれだけ食べたのにまた食べる気か……
『天の恵み』ってそんなにエネルギーを使うんかい。
お腹がなるぷるんくんを見て、猫族の人たちは口をぽかんと開けていた。
だけど、俺は
笑う。
大量のお買い物をしたのってこの時のためだったか。
俺は早速収納ボックスを開いて、豚肉、牛肉、野菜、肉のタレ、塩胡椒、大量の炭火、BBQ道具、使い切りタイプの皿などを取り出した。
「な、なんだ?これは……」
「一度も見たことのないものがいっぱい……」
「食材?」
「タイシ様、収納を使っておられたぞ!」
戸惑う猫族たち。
俺はドヤ顔を浮かべて大声で言った
「皆さん!バーベキューをやりましょう!!」
「「「バーベキュー??」」」
「ぷるん!?」
X X X
「な、なんだこれは」
「美味しい……」
「こんなに美味しいの初めて食べるかも……」
「タイシ様……本当に美味しすぎます……」
「はあ……タイシしゃま……」
「この謎の液体につけて食べるとより旨味が増す……一体何でできている液体なんだろう……」
「肉だけじゃない。この謎の野菜たちもとても美味しい……」
「どちらもここで採れたものではない。他の大陸のものかな?んぐんぐ……美味しい……」
俺とぷるんくんが焼いた肉と野菜などを食した彼ら彼女らは涙を浮かべて喜んでくれた。
まあ、ここにいる人って大体50人くらいだから俺一人のスピードじゃとてもじゃないが追いつかないので、ぷるんくんに火を吹いてもらった。
ぷるんくんが火を吹くたびにこんがりと焼き上がる肉と野菜。
猫族たちは使い切りタイプの皿を手に、美味しくそれを食していた。
そんな中、ネコナが興奮したように俺の前で熱弁を振るう。
「タイシお兄ちゃん……美味しいにゃん!!本当に美味しいにゃん!!おいしすぎるにゃん!!」
「よかったね!ネコナちゃんいっぱい食べてね!」
「うん!ありがとにゃん!」
と言ってネコナちゃんが両親の元へ戻ると、彼女の両親は感動したように俺を見てひたすら顔を縦に振っている。
どうやら、リンさんとネコナの父もBBQを気に入ってくれたようだ。
火を吹き終えたぷるんくんは物欲しそうに俺を見つめている。
「んんん……」
「あ、そういえばぷるんくんお腹すいたんだよな?」
「ぷりゅん!」
俺は満足そうに食べている猫族の人たちを見て安堵したのち、火バサミを一つを手に取り、四角い霜降り牛肉をそれでつまんでぷるんくんの口に差し出した。
「さ、美味しいところだよ」
「ぷ、ぷりゅっ!」
ぷるんくんは早速俺の火ばさみに飛び込んで肉を吸収する。
「んんんん!!」
ぷるんくんは手を生えさせ、ほっぺたを摩りながら目を『^^』にする。
そして、今度はこんがりと焼けた大きな豚バラを見て、目を輝かせていた。
俺はその大きな豚バラに塩を胡椒を塗して、またぷるんくんに差し出した。
「ぷりゅっ!」
ぷるんくんはまた一気にそれを食べ、消化した。
「んんんん!!!」
体を震わせてまた目を『^^』にするぷるんくん。
なんか面白いかも。
菓子パン以外はこうやって直接ぷるんくんにご飯を食べさせるのはあまりなかったもんな。
ぷるんくんも俺が直接食べさせるのをとても楽しみにしている。
よし!
頑張るぞ!!
俺がぷるんくんに助けられながら肉を焼いたり、ぷるんくんにあげたり、猫族の方々にあげたりすることを繰り返していく。
そして気がつけば食事が終わっていた。
「美味しかった!」
「タイシ様、こんなに美味しい料理を振る舞って下さりありがとうございました!」
「みんな!踊るぞい!!」
「今日は奇跡が起きた!宴の始まりだああああ!!」
猫族の人たちは興奮が収まりきれずに踊り出す。
「おお……すごい」
俺は丸くして踊っている猫族たちに目を見やる。
族長であるジェフさんも最初こそ踊ったが腰が痛いらしく、隅っこで踊りをドヤ顔で見守っている。
ぷるんくんもそんな彼ら彼女らに紛れ込んでぴょんぴょん跳ねながら踊り出した。
「ぷるっ!ぷるぷる!」
おお、ぷるんくんも踊りたいんだね。
雨雲によって暗い周りをバーベーキュ道具の中に入っている炭火が優しく照らす。
「ふふ、ぷるんくん、本当に喜んでいる」
と微笑む俺は、スマホを取り出して猫族と共に踊っているぷるんくんの姿を撮り始めた。
すると、
「タイシ様、お疲れ様です」
「あ、はい。ありがとうございます」
ネコナの父だ。
「えっと、名前教えてもらえませんか?」
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。俺の名前はレンです」
「レンさんですね」
「はい」
レンさんはまるで父のように優しく微笑んだ。
とても強そうに見えるが、不思議と怖くはない。
彼は踊っている人々を見て口を開いた。
「まるで昔に戻ったような気がします」
「昔?」
「はい。昔のここ・エルドラードはまさしく楽園でした。綺麗な川、その川に住むお魚、果てしなく広がる密林、そしてそこで生息する様々な美味しいモンスターと甘い木の実。豊富な地下資源。500人を超える仲間たち。」
「……」
「でも、燃えるミミズが現れてからは……1000年間守ってきたこのエルドラードはご覧のように地獄と化しました。今生きている猫族は53人……」
彼は悔しそうに握り拳を作る。
だが、やがて吹っ切れたように息を吐いてから口を開く。
「もうあなたに会うのは今日で最後になるかもしれません」
「え?」
突拍子のないことを言われ、思わず上ずった声が出てしまった。
だが、俺は彼を見つめ視線で続きを促した。
すると、彼は悲壮感漂う声音で言った。
「燃えるミミズが勢力を伸ばしてきました。このままだと数少ない狩場も唯一の水源地もなくなるんでしょう。だから明日、燃えるミミズを追い払いに行きます。本来、一週間後に追い払うつもりだったんですが、燃えるミミズの動きが早くなってしまい……」
彼は一瞬唇を噛み締めるが、また穏やかな笑みを讃える。
すごい。
もし、俺なら怖気ついて匙を投げる羽目になると思うが、レンさんは違う。
苦しみを味わいながらみんなのために自分の感情を押し殺して平静を装っている。
もし自分が弱い姿を見せれば他の猫族が動揺する。
それを彼は遺伝子レベルで理解しているのだ。
素晴らしい男だ。
と、俺が関心していると、レンさんはまた口を開く。
「あなたは天使じゃない。ですよね?」
「は、はい!そ、そうです」
「申し訳ない。我が一族は人族に対して良くない感情を抱いています。だからこういう体にしないと、きっと問題が起きたはずです。族長もそれをよく理解しています」
「なるほど……」
天使というのは俺が被害を被らないようにするための口実だったってわけか。
「でもあなたは他の人族とは違う何かを持っている。その何かは人族を敵対する俺たちをも引き寄せる働きをする」
「何か……」
レンさんは申し訳なさそうに若干俯いて言う。
「すみません。初めてお会いしたのに、知ったかぶりをして……」
「いいえ。大丈夫です」
「助けてくれた報酬はたっぷり払いましょう。ネコナを救い、ネコナとの約束を守ってくださり、本当にありがとうございます」
レンさんは丁重に俺に頭を下げた。
本当にレンさんはいい父だ。
俺は心が苦しくなった。
なぜだろう。
理由がわからない。
この苦しみをぶっ飛ばすべく俺は目を大きく開けて口を開く。
「レンさん」
「はい」
「燃えるミミズの討伐、俺とぷるんくんも参加させてください」
「は、はい!?」
「俺、まだネコナちゃんとの約束、果たせてないので」
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