第51話 天使

 俺の隣にいるネコナをの除く全ての猫族たちがぷるんくんに平伏しており、感動のあまりに涙を流している。


「これは奇跡よ……」

「ああ……水を得るためにどれほどの犠牲を払ったことか……」

「嬉しすぎる……あまりにも嬉しすぎて……」


 と、口々に雨が降ったことについて感想を述べる中、武装をした猫族十数人が現れた。


 武装した彼らはいそいそとぷるんくんのいる方へ走ってきており、びっくり仰天する。


 そんな彼らの様子を見ているネコナ。


 彼女は澄み渡る目を一層輝かせて感動している様子を見せながら武装した男のうち最も強そうな男を指差して言う。

 

「お父様だにゃん……」


 ネコナの父か。

 

 百戦錬磨の英雄っぽいオーラ出している。

 

 只者ではなかろう。


 そう思っていると、平伏していたものが立ち上がりネコナの父に耳打ちした。


 すると、目を丸くした彼はぷるんくんに平伏したのち、立ち上がって俺たちの方へやってきた。


「ネコナ……無事で本当によかった」

「お父様……」


 ネコナの父はネコナを優しく抱きしめてあげた。


 すると、ネコナは泣き始める。


「お父様……ごめんにゃさい……勝手に出かけて……本当にごめんにゃさいにゃん……うええええ!!」


 ネコナは父のお腹に頭を擦り始める。


 そして、腫れ上がった目を俺に向けて語る。


「タイシお兄ちゃん……約束を守ってくれて……ありがとにゃん……本当にありがとうにゃん!!!」

「あはは……ぷるんくんのおかげだよ」

「うん!タイシお兄ちゃんとぷるんくんのおかげだにゃん!!」


 ネコナは目を輝かせながら俺を見上げてきた。


 そして、紺色の髪をした彼の父も俺を見つめてくる。


 顔には古傷が刻まれており、体は筋肉質で顔と同じくところどころ古傷がある。


 そして、睨むだけで虫なんか軽く殺せそうな目から放たれる視線は俺に向けられている。


 だけど、


 彼は微笑んでいた。


 そして


「本当にありがとうございます」


 そう言って、俺に頭を下げた。


 簡潔な言葉だが、十分すぎる言葉。


 遠いところからはネコナの母であるリンさんが涙を拭っている姿が見える。


 微笑ましい光景だ。


 一瞬悲しくなったが、感情を抑えた俺はドヤ顔を浮かべる。


 そして頷いてからネコナに言った。


「ネコナちゃん!よかったね!」

「……」


 ネコナはそんな俺をじーっと見つめた。


 そして、笑顔を浮かべて


「うん!最高にいいにゃん!!」


 と、俺とネコナ、ネコナの父で和んでいると、俺の足に柔らかい感触が伝わってきた。


「ぷるん!」


いつしかやってきたぷるんくんも俺を見上げていた。


 眉毛っぽい『\ /』の下にお目目。


 左目の横にある十字傷。


 そんなぷるんくんは期待に満ちた目で俺を見ている。


 猫族にめっちゃ見られてるけど、そんなのは関係ない。


 俺はぷるんくんの主人だ。


「ぷりゅ……」


 俺はぷるんくんを見て両手を広げた。


 そしたらぷるんくんが体をぷるんぷるん揺らしながらジャンプした。


 ペチャ

 

 ぷるんくんは俺の胸にペチャっと引っ付いた。


 俺はそんなぷるんくんをぎゅっと抱きしめて頬ずりする。


「ぷるんくん!よくやった!本当にえらいよ!ぷるんくんが俺の相棒で本当によかった!」

「んんんん!!ぷるるるん!!んんん!!」


 ぷるんくんは大喜びで体をブルブル震わせる。


 ああ、柔らかい……気持ちいい……


 俺は人目を気にせずに揉み揉みを堪能した。


 ひとしきりぷるんくんを褒めたのち、俺がぷるんくんを下ろすと、


「「……」」


 猫族の人たちはぼーっとなって不思議そうに俺たちを見つめる。

 

 すると、族長であるジェフさんが俺たちの方へやってきて、感銘を受けたように話す。


「初めて見た時から思ったのですが、やはりタイシ様とぷるん様は只者じゃない……」


 と、思わせぶりなことを言ったのち、渋い顔でシリアスな雰囲気を作る。


「この二方は、我らの始祖・ガイヤー様が遣わした天使なのじゃあああああ!!!!!!!!」


「「「天使!?!?!?」」」

 

 え?


 今なんと


「そうじゃ!このとても純粋な顔をしたタイシ様と強い魔法を扱えるぷるん様は間違いなく天使なのじゃ!」


「え、えっと……そ、それはちょっと違うといいますか……」


 と、俺が反論しようとするが、猫族の方々が目を輝かせてあっという間に俺たちの周りに集まってきた。


 戸惑う俺とぷるんくん。


 そんな俺たちにネコナの父が耳打ちした。


「タイシ様、大丈夫です。今はこのままの方がいい」

 

 彼の低い声は不思議と俺の声を落ち着かせた。


 彼は俺にとても真面目な表情を向けている。


 まるで俺を安心させるような……


 俺を天使としてみるような目ではなかった。


 まるで父さんを思わせる表情だった。


 ネコナも俺を優しく見守ってくれた。

  

「ぷるん様!!本当にありがとうございます!」

「ああ、天使様……神々しい……」

「こんな恵みの雨を降らせて下さって本当にありがとよ……」

「生きてみるもんだな……」


 猫族たちが次から次へと感謝の言葉を言う。


 まあ、猫族は人族をとても嫌っているみたいだったからちょっと心配したけど、こんな感じだと一応問題はなさそうだ。


 と考えながら俺が無意識のうちにぷるんくんをみていたら、


「ぷりゅん……」


 ぷるんくんが急にとても落ち込んでいた。


 そして


 ぐうううううううううううううう!!!!!!!!!!


 ぷるんくんの体から凄まじい音が出る。


 まあ、これまでずっと歩いたり、モンスターと戦っていり、ぷるんぴたを使ったり、『天の恵み』を発動させたりと、ぷるんくんはとても頑張ってくれた。


 雨が降ってもぷるんくんが出した音は遠いところまで響き渡り、猫族の人々は動揺し始める。


「ぷるん様が何か喋った!!」

「きっと私たちが想像もできないような深い事をおっしゃったに違いないわ!」

「ぷるん様の威厳のあるお言葉……理解できないのが悔しい」

「タイシ様!通訳をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「一体ぷるん様は何をおっしゃったのですか!?」

「私、知りたいです!きっと私たちにとって意味のあるお言葉に違いないわ」


 猫族の人たちは期待に満ち溢れる視線を俺に向けてきた。


「……」


 目があまりにも輝いているので、合わせるのがしんどい。


 みんなから注目される俺。


 俺は苦笑いをして言う。






「ぷるんくんはお腹がすいたって言ってます……」







「「「えええええええ!?!?!?!?!?!?!」」」



 そろそろ料理を始めようか。




 

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