第50話 雨

 俺がネコナとぷるんぴたを抱えて1時間ほど歩いたら、集落が見えてきた。


 竪穴式住居が並んでおり、猫耳をしている人々の姿が見える。


 柵によって居住地区は囲まれていて、門番数人が見張っている。


 だけど、門番は元気がなく目には生気が宿ってない。


 そんな彼らと俺は目がばったりあった。


 門番らは凄まじいスピードで俺たちの方へ走ってくる。


 精悍な顔つきの門番二人が俺を見て警戒するが、背中に乗っているネコナを発見して驚愕する。


「「ネコナ様!?」」


「……」


 ネコナはバツが悪そうに目を逸らした。


 すると


「貴様は一体誰だ!?」

「人族……ネコナ様に一体何を……」

 

 彼らはイカ耳にして俺を問い詰めた。


 しかし、ネコナが目力を込めて語気を強める。


「タイシは悪い人族じゃないにゃん!モンスターたちに襲われた私を救ってくれた命の恩人だにゃん!そんな無礼極まりない態度をタイシに向けるのは私が絶対許さないにゃあああん!!しゃあああ!!!」


 俺におんぶされているネコナは彼ら同様イカ耳をして警告するように言う。


「「……」」


 彼らは戸惑うように黙りこくる。


 やがて門番二人は何かを決心したように頷いたのち、跪いて口を開く。


「……すまぬ」

「俺たちの無礼な態度を許してくれ……」


 謝る二人の門番に俺は口を開いた。


「い、いいえ……俺は大丈夫なんで……」


 と、俺が言うと、門番のうち一人が俺に言う。


「君はここで待っていてくれ。族長に報告してくるから。ネコナ様、どうぞこちらへ」

「……わかったにゃん。タイシ、ぷるんくん、すぐ戻ってくるから」


 ネコナは俺の背中から降りてぎこちない歩き方で門番二人のところへといく。


 門番二人はそんなネコナを支える。

 

 やがて門番の一人がネコナを抱えて居住地区の中に入った。


 にしてもネコナ様か。


 彼女はもしかして偉い人だったりするのだろうか。

 

 いつしかぷるんぴたは俺の胸から離れ、地面に着地した。


 ぷるんくんの姿を残りの門番一人が不思議そうに見つめる。


 そして10分ほどの時間が過ぎると、


 向こうからさっきの門番とネコナに似た大人の美人と老人が早足でやってきた。

 

 猫耳の美人が俺とぷるんくんを見るや否や涙を流しながら口を開いた。


「タイシ様、ネコナから話は聞きました。私の娘を救って下さって本当にありがとうございまいた……」


 どうやらネコナの母のようだ。


 やつれているが全体的に品がある彼女を見て俺は微笑みをかけた。


「娘さんが無事で良かったです」


 ぷるんくんもネコナの母を見て微笑んだ。


 すると、猫耳の老人が俺を見て話す。


「おお、あなたは他の人族とは違ってとても善良な目をしておりますな……タイシ様の使い魔のスライムも只者じゃない雰囲気を出しとる」


 老人はとても不思議そうに俺を見つめてきた。


「善良かどうかわかりませんけど、疑いが晴れたみたいで良かった……」


 俺が安堵のため息をついていると、老人は丁寧に頭を下げていう。


「私の名前はジェフ。ここにいる猫族の族長です」


 彼の挨拶にネコナの母も頭を下げていう。


「わ、私の名前はリンと申します!族長の娘です」


 なるほど。


 偉い人たちだった。


 二人に頭を下げられたことで、俺も頭を下げる。


「俺は大志と申します!」


 というと、今度はぷるんくんも頭を下げた。


「ぷるん!ぷるぷる!」


 と、ぷるん語を喋るぷるんくんを見て一言添える。


「この子は相棒のぷるんくんです。強くて可愛いですよ」


 と、言って頭を上げると、族長のジェフさんと母のリンさんは微笑む。


 そしてジェフさんが口を開いた。


「中で話でもしていかれませんか」


 族長は微笑む。 


 小皺と白髪が表情とよく調和して族長としての威厳と優しさを感じさせた。


X X X

 

 俺とぷるんくんは族長であるジェフさんの家に案内された。


 少数民族の伝統家屋を思わせる内装に嘆息を漏らしていると、耳の生えたお婆さんがお茶を出してくれた。


 だが、コップに入っている水の量がとても少ない。


 お婆さんは申し訳なさそうに顔を俯かせて立ち去る。


「申し訳ない。こんな少ない量しかお出しできなくて」

  

 ジェフさんは頭を下げる。


 ぷるんくんは自分の分のお茶を見たのち、手を伸ばして一気に水を吸収した。


 水を汲むために命を張ったネコナ、やつれていた人々、そして少な過ぎるお茶。

 

 やはりここは……


「ここは一体いつから水不足になったんですか?」


 俺が問うと、ジェフさんはため息をついてから口を開いた。


「3年前からでしょうかね。燃えるミミズが現れたのって」

「燃えるミミズ?」

「魔境に生息する上位モンスターですが、なぜか一匹がここに紛れ込んで、干ばつをもたらしました」

「その燃えるミミズって存在がいるだけで雨が降らなくなるんですか?」

「はい。燃えるミミズはとても強力な火属性持ちです。なので、これまで勇敢な我々の戦士たちが戦いを挑んでましたが……」


 と、一旦切ってジェフさんは顔を歪ませる。


 どうやらいい結果を得るのはできなかったのだろう。


 場合によっては命を失ったのかもしれない。


「す、すみません!俺が変な質問をしたばかりに!」

「タイシ様が気にするようなことではありません。それより、私の孫娘を救ってくれたことで、お礼をしなないと……」


 と言ってジェフさんは立ち上がろうとする。


 だが、


「っ!」

 

 よろめいて倒れようとする。

 

 俺は素早くジェフの肩を支える。


「大丈夫ですか!?」

「すみませんの……猫族の長たるものがこの体たらく……恥ずかしい限りです」

「いいえ、そんな……それに、お礼なんて……まだ俺はネコナちゃんとの約束を守ってないから……」

「約束……お水をいっぱいあげるという……」

「はい!」

「孫娘がとんだ迷惑をかけてしまい申し訳ない……そんな実現不可能な約束を迫った孫娘にはこっぴどく注意をしますので」

「いや、ネコナちゃんを責めないであげてください!」

 

 と言って、俺は族長を地面に座らせた。


 そして、


 俺はぷるんくんを両手で押さえて族長に見せつける。


「ぷるんくんなら!ここに大量の水をもたらすことができますよ!!」

「へ?」


「ぷるん!」


 ぷるんくんはドヤ顔を見せ、手を生えさせてサムズアップした。


「な、なにをおっしゃって……」


 戸惑う族長。


 ネコナとの約束を果たそう。


「ちょっと出かけてきますね」


 と言って、俺はぷるんくんを抱えて外を出た。


 枯れ果てた地。


 歩く女性たちと子供は元気がない。


「タイシお兄ちゃん!!!」


 そんな中、ネコナがぎこちない歩き方で俺の方へ駆け寄る。


 俺はネコナを支えながら言った。


「ネコナちゃん、無理しちゃダメだよ」

「でも……」


 ネコナは俺を切なく見つめてきた。


 彼女が何を欲するのかは知っている。


 いっぱいの水をあげる。 


 いつしか地面から俺を見上げているぷるんくんに俺は優しく声をかける。


「ぷるんくん」

「ぷるん!」

「お願いできるか」

「ぷるるるるん!!!」


 ぷるんくんは勢いよくぴょんぴょん跳ねながら答えてくれた。


 それからぷるんくんは動かずに目を瞑った。


「ぷる……」


 すると、ぷるんくんの体が青く光る。


「ぷるるるるる……ぷるるるるる……」


 ぷるんくんの声に釣られる形で、周りの人々もぷるんくんを見つめた。


 しばし光ったまま瞑想をするぷるんくん。


 そして


「ぷるうううう!!!!!!!」


 ぷるんくんは大きな声を出して、空向かって明るい青い光を打ち上げた。


 青い光は空中で爆発した。


 しばしたつと、その光は灰色に変わり、雲のような形なる。


 見渡す限りの雨雲。


 やがて


 雨が落ちてきた。


「あ、雨……」


 ネコナは目を丸くして驚く。


 雨脚は


 だんだん強くなり


 土砂降りになる。


「あ、雨だあああ!!!」

「すごい!!!」

「3年ぶりの雨だああああ!!!!」

「嬉しい……嬉しすぎる……」

「わあああああ!!!」

「やっほおおおおお!!!」


 周りの人々は大人子供関係なく大喜びである。


 俺は結構驚いた。

 

 ぷるんくんは水属性も持っているから、皿洗いを手伝った時のように水を放つ程度で済むと思ったが、こんな広い範囲に雨を降らせるとは思いもしなかった。


 俺は早速鑑定を使ってみる。


ーーーー


スキル名:天からの恵み

説明:水属性を極めたものしか扱えない最上級スキル。雨を降らせることができる。レベルが上がれば上がるほど広い範囲に降らせることができる。


ーーーー



「すごい……あのスライムが降らせたのよ!」

「間違いないわ!あのスライムには雨の神・フラカン様の魂が宿っているに違いないわ!」

「みんなひれ伏せ!」


 いつしか、周りにいる猫族たちはぷるんくんを取り囲って平伏した。


 そして、いつの間にか外に出た族長とその関係者らもぷるんくんを見てから平伏す。


「ぷりゅん?」


 ぷるんくんはそんな人たちを一瞥したのち、俺を見て小首を傾げた。





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