第48話 レベルアップ、ぷるんぴた

「……」

「……」


 炎天下の下で俺たちはただただ佇んでいる。


 きっと目眩く素敵な異世界が繰り広げられるとばかり思っていたけど、この何もない荒野は一体……

 

 方向とか地図がないからどこに向かって歩けばいいのかも分からない。


 スマホを取り出しても圏外で当然ネットは繋がらない。


「なんってこった……」


 と、言ってみるものの熱い日差しは俺たちを照らし続けるだけだった。


 ぷるんくんも周りを見渡して戸惑っている。


 こういう時は主人である俺がちゃんとしていないとダメだ。


 頼りになる主人としての姿を見せるぞ!


 俺は当惑するぷるんくんに話しかける。


「ぷるんくん」

「ん?」

「スライム大砲を地面に放って高く飛べるか?」

「んん……ん!!」


 ぷるんくんは一瞬考えるそぶりを見せたのち、目を『^^』にして首肯する。


「よし!高く飛んで下を見下ろして人が住んでいそうな集落とかあるか確認してくれる?」

「ぷるん!」


 ぷるんくんはドヤがを浮かべてまた頷いた。


 どうやら『任せて!主人!』と言っているようだ。


 ぷるんくんは俺に防御膜と殺身成仁をかけてから俺と離れたところに行き、地面を見つめる。


 そして息を深く吸ってはジャンプをした。


!!!」


 ぷるんくんが気合いを入れる音と共に、お口から光る何かが放たれて地面と衝突する。

 

 その反動でぷるんくんはものすごいスピードで空を飛ぶ。


 もう視界に入らないほどぷるんくんは高く飛んだ。


 数十秒が経過した。


 一体どこまで飛んだんだろうと疑問に思っているその時に空から40センチほどの黄色い物体が見えてきた。


「おお、ぷるんくんが落ちてる……」


 落ちる……

 

 落ちる……


 俺がちゃんとぷるんくんを捕まえないとな。


 見事にぷるんくんをキャッチして主人として威厳を示せて見せる!


 見とけよ!


 そう意気込んだけど、


 俺は両手を上げてぷるんくんが落ちそうなところへ移動した。


 が、


 ペチャ!


 ぷるんくんは俺の手じゃなく頭に着地した。


「っ……」

 

 柔らかすぎる感触が俺の顔に伝わる。


 俺はぷるんくんを片手で引っぺがした。


 そして気まずそうにぷるんくんから目を逸らす。

 

 うん……

 

 恥ずかしい。


 ぷるんくんはそんな俺を見て、体を揺らして何かを説明しようとする。


「ぷる……ぷるん……ぷるぷる」

「ん?どうしたの?」


 ぷるんぷるんと体を動かすぷるんくんは手を生えさせ、ある方向を指し示す。


「ぷるんくん、そこに何かある?」

「ぷる!」

「よし!よくやった!」


 俺はぷるんくんを両手で抑えて揉み揉みしてあげた。


「んんんん……」


 ぷるんくんは目を瞑って俺の揉み揉みを感じている。


 俺はぷるんくんを下ろして言う。


「んじゃ、早速行こうか!」

「ぷりゅん!」


 ぷるんくんは若干ジャンプして返事してくれた。


 それからというもの俺たちはひたすら歩いている。


 ぷるんくんはというと、とても元気そうだ。


 まあ、ぷるんくんは全ての属性を持っているしな。


 特に水属性は熱さに強いと聞く。

 

 それに引き換え俺は属性を持っていないため、額からは大粒の汗が頬を伝い、地面に落ちている。


「あちい……」


 と言って俺は早速、収納ボックスから500mlの天然水のペットボトルを取り出して蓋を開けた。


 そして、んくんくと一気飲み。


「ぷあ!!美味しい!」


 熱い場所での冷たい水は身に沁みるものがある。


 ぷるんくんはそんな俺を見て微笑んでいた。


「ぷるんくんも飲む?冷たいよ」


 と、俺がまた収納ボックスに手を突っ込み1Lの天然水を取り出してちらつかせると、ぷるんくんは頭を左右に振って体をぷるんと一回振る。


 そしてぷるんくんはジャンプをして俺の胸に引っ付いた。


「ぷるんくん?え?冷たい……」


 ぷるんくんの体が冷たい。

 

 気持ちいい。


 めっちゃ気持ちいい……


 まるで大きな大福っぽいアイスを抱いているような気がする。


 ぷるんくん、温度調整もできるのか。


 はあ……


 最高。


 俺はぷるんくんを抱きしめながら言う。


「ありがとな。ぷるんくん」

「んんん!」


 ぷるんくんは俺の頬に自分の体を擦ってくる。


 幸せ……


 よし!


 これからはぷるんぴたを頼りに進もうではないか。


 俺はぷるんぴたを抱えた状態でまた歩き始める。

 

 1時間後


 枯れ果てた草木と骸骨が延々と続くこの荒野を歩く俺はマンネリしてきた。


「はあ……ぷるんくん、ちょっと休もうか?」

「ぷる……」

「ぷるんくん?」


 ぷるんぴたは急に体を震わせる。


 これは喜びによる震えではない。


 何かを警戒する時の震えだ。


 俺はぷるんくんが視線を向けているところに目を見やる。


 そしたら遠いところに大きな枯れ木が見えており、ハイエナっぽいモンスターがその木を取り囲んでいた。


 枯れ木の真ん中には何かが倒れている。

 

 俺は驚愕した。


「子供!?」


 そう。


 子供が倒れている。


 子供の横には大きな桶のようなものが置かれており、ハイエナのようなモンスターはその子を見て涎を垂らしながら近づいていた。


 そして、


 モンスターは子供を襲う。


「ぷるんくん!」

「ぷるっ!」


 ぷるんくんは俺の気持ちを察したらしく、俺から離れて早速子供のいるところへ走る。


 ハイエナのような動物たちはぷるんくんの存在に気づいたらしく襲うことをやめ、ぷるんくんを見て警戒し始める。


「ぷるっ!ぷるっ!ぷるぷるぷるっ!!」


 ぷるんくんはそんなハイエナのようなモンスターに向かってスライム弾丸を放つ。


「キエ!」

「キャフ!」

「ヒイイ!」

「フイ!」


 見事頭に当たったモンスターどもはそれぞれ断末魔を上げて倒れていった。


 だが、


「ひいいいん!」


 一匹のモンスターが木の後ろから現れて、逃げ出す。


 どうやらぷるんくんの強さにおじけついたらしい。

 

「あんな子供を食べようとしてたなんて……」


 怒りが込み上げてきた。

 

 集団で弱いものをいじめるのは俺が絶対許さない。

 

 絶対だ。


 絶対。


 俺は足元に転がっている石を拾った。


 そして、それを足速に逃げるモンスター目掛けて思いっきり投げる。


 すると、俺が投げた石はモンスターの頭に的確に当たって、そのままモンスターはあえなく倒れる。


 それと同時に、


 俺の体が光りだした。


「何!?」


 この感覚。


 間違いない。


 俺は早速自分を鑑定してみる。


ーーーー


名前:臼倉大志

レベル:6

属性:なし

HP:250/250

MP:150/150

スキル:鑑定、収納、テイム

称号:最強スライムの支配者、……


ーーーー


「レベルが上がった!?」


 さっきのハイエナっぽいモンスターをやっつけたことで経験値が上がりレベルアップしたということか。


 俺が見る限り他のモンスターはいないようだ。


 一瞬の出来事に俺が呆気に取られていると、ぷるんくんは


「ぷるっ〜ぷるぷる〜」


 警戒モードを解除したぷるんくんは踊りながら喜んでくれている。


「おお……すごい……って、そんなことより」


 俺は踊っているぷるんくんを持ち上げて大きな枯れ木の下にいる子供のところへ行く。

 

 そこには


「……ああ」


 傷だらけのやつれ果てた女の子が横になってうめき声を上げている。


 一つ不思議なのは、女の子の頭には耳みたいなものがついており、お尻のところには尻尾のようなものがついている。


「水……水が……水……のみたい……うっ」


 顔面蒼白になって発する女の子のか細い声に俺は早速収納ボックスから500mlのペットボトルを取り出した。



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