第47話 ダンジョンダーク鷲の唐揚げ、そして異世界
大志の部屋の中
今日のメーニューはダンジョンダーク鷲を使った唐揚げ定食だ。
以前レッドドラゴンの唐揚げを作ったことがあるけど、異なる肉でどれほど味に違いがあるのか試したいんだよな。
キングブァッファローは基本牛肉の味に似ているから、前回花凛とすき焼きを食べた分、今日はダンジョンダーク鷲で行こう。
「よし!ぷるんくん、一口サイズにカットよろしく!」
「ぷるん!」
俺が収納ボックスからダンジョンダーク鷲を出した途端にぷるんくんが手を生えさせ、超音波カッティングを使って切りまくる。
「ぷる!ぷるぷる!ぷるる!ぷるっ!」
かわいい見た目なのに勇敢な姿で肉を切ってゆくぷるんくん。
そこには百戦錬磨を彷彿とさせる貫禄がある。
あっという間に作業を終えたぷるんくん。
やっぱりすごい量だ。
「お疲れさま。ぷるんくんは花凛と一緒に待ててね!」
「んんん……」
ぷるんくんは俺の言葉を聞いても、下がることなく俺をずっと見つめている。
この反応の意味。
ペルさんのおかげで知ることができた。
俺はぷるんくんを優しく撫でながら言う。
「いいよ。あとは俺一人でできるから。ありがとうね」
「ん!」
ぷるんくんは目を『^^』にしてから花凛のいるテーブルへと移動する。
「よし!頑張ってみるか!」
いつも俺を助けてくれる花凛とぷるんくんのために美味しい唐揚げを作るぞおおおお!!
おおおおお!!!!
おおおおおおおおおおおおおお!!!!
「ぷ、ぷるんくん、大志がすごい表情してる……」
「ぷるん!!!」
「え!?ぷるんくんも大志を見て同じくすごい顔してる!?」
後ろで花凛が何か言っている気がするけど、俺は料理に専念する。
まずはお米だ。
炊飯ボタンを押してから、大量のおろしにんにく、おろししょうが、酒、醤油、ごま油を入れた大きなビニール袋にぷるんくんが切ってくれたダンジョンダーク鷲の肉を投入。
そして
まじえまじえ……
30分間寝かせるんだけど、その間に味噌汁とサラダなどの準備も忘れない。
そして寝かせ終わった肉に大量の卵を投入。
まじえまじえ……
そして寸胴鍋にまた大量の油を敷いて熱してから肉を投入。
ジュワーっとした音とともにいい香りがこの辺りに充満する。
「よし。もうひと頑張りだ」
夢中になって料理に取り掛かる俺。
(夢中になって大志を見ている花凛)
美味しいダンジョンダーク鷲の唐揚げ定食の出来上がりだ。
「「いただきます!」」
「ぷるるん!」
最初に食べたのはぷるんくん。
ぷるんくんはステンレス製の大きなボウルに飛び込んで、こんもり入った唐揚げを吸収し始める。
「ん!!ぷるぷる!んん!!ぷる!」
ぷるんくんはとても満足そうに唐揚げを食べていく。
「ぷるんくん、レモン汁を入れると酸味が増してもっと美味しくなるよ」
そう言って俺はぷるんくんを一旦持ち上げて半分に切ったレモンをかけたのち、ぷるんくんを戻してあげた。
すると、ぷるんくんがまた食事を開始する。
「んんんんん!!!んん!!んん!んんん!!!」
目を『><』にしながら凄まじい勢いで唐揚げを食べるぷるんくん。
ああ、癒される……
この40センチほどのかわいい半透明な物体が動いている感じ、とてもいい……
なんかレッドドラゴンの時より反応がいい気がする。
ダンジョンダーク鷲はレッドドラゴンよりレベルが上だからな。
しかもダンジョンダーク鷲は美味しくなるという呪いまでかけられた。
味が気になる。
そう思っていると、今度は花凛がレモン汁をかけて唐揚げを一口食む。
「っ!」
花凛の体は一瞬固まる。
だが、やがて表情が和らいで目を瞑り自分のほっぺたを触りながら
「美味しいいいいいいいいいい」
俺の料理であんなに感動する花凛って見ててこっちまでほっこりする。
花凛は目を見開いて俺に早口で言う。
「何!?この肉!?美味しい!美味しすぎる!外はパリッと仕上がってて、中はジューシー!これって何肉のなの!?」
目を光らせて身を乗り出し、至近距離で俺を見つめる花凛。
び、びっくりした。
「あ、ああ……SSランクのダンジョンに生息するダンジョンダーク鷲の肉だよ。ダンジョンダーク鷲は裏切り者だから肉が美味しくなる呪いにかけられたんだ」
「そ、そう!?美味しくなるのが呪いなんて、なんかおかしい!!でも美味しい!」
「気に入ってもらえて嬉しいよ。んじゃ、俺も食べてみようかな?」
と言って、俺も箸で唐揚げをつまみ、口の中に入れる。
「っ!!お、美味しいいいいい!!!!」
昨日はSSランクのダンジョンにいて緊張したせいで味の方をじっくり感じることはできなかったが、こうやって自分の家で食べるダンジョンダーク鷲の肉は本当に最高だった。
俺たちはまるで亡霊に取り憑かれたように唐揚げを貪っていった。
「はあ……美味しかったわ……」
「ぷるう……」
「そうだな……」
食後、テーブルを囲う形で座って満足そうな表情でくつろいでいる俺たち。
だが休むわけにもいくまい。
俺は早速花凛からもらった大量のデザートを箱から取り出して、それをテーブルに置く。
すると、ぷるんくんが目を光らせて俺とデザートを交互に見てきた。
「んんん!!んんん!!」
どうやら『主人、これ食べていい?』と必死に問いかけているようだ。
「ふふ、食べていいよ。どうぞ」
「ぷりゅりゅりゅりゅん!!!!」
デザートも美味しく食べていくぷるんくんの姿を見て、俺がにっこり笑っていると、花凛が咳払いをして口を開く。
「あ、あの……大志」
「ん?」
「その……家もいいけど、これからはいろんなところでいっぱい遊ぼうね……なんなら明日も一緒に遊びたいな……遊園地とかショッピングとか……その……明日土曜日だし」
そういう花凛の頬には朱がさしている。
明日か。
こんな美少女と一緒に遊べるなんて……
きっと華月高校の人たちが知ったら偉いことになるんだろうな。
でも、
俺には……
「ごめん、明日は予定があるんだ」
「予定?」
「うん……」
「またダンジョンに行くの?」
「ううん……これからはちょっと忙しくなるかも」
「え?」
花凛は目を丸くして口を半開きにする。
果たして異世界のことを花凛に言っていいのか迷ってしまう。
言ったとしても花凛は信じてくれるのだろうか。
言ってしまえば花凛を巻き込んでしまうのではないのか。
花凛に迷惑をかけてしまうかもしれないという気持ち、花凛との距離の取り方がわからない俺が情けないという気持ち。
そんな不安が渦巻く。
俺は気まずそうにしていると、花凛が心配そうに言う。
「何か悩みでもある?」
「それは……」
俺が暗い表情をした。
ごまかすこともできるが、花凛相手だとそんな薄っぺらいのは嫌だ。
言いあぐねる俺。
いつしか食べることをやめ、俺を見つめるぷるんくん。
そして、
いつの間にか立ち上がって、俺を後ろから抱きしめてくれる花凛。
「花凛……」
「言ってみて。大志が悩んでいること全部。私にいっぱいぶつけていいから」
柔らかい彼女の体は俺の心を蝕む不安を徐々に無くしてくれた。
この前もそうだが、花凛のこういう姿を見ると本当に天使だと思ってしまう。
正義感が強くて気が強くて積極的なお嬢様だけど、
彼女の言葉は俺の心の暗いところを照らしてくれる。
迷惑をかけるかもしれないというのは単なる俺の妄想にすぎるのではなかろうか。
言わずに悩むより、言ってから悩んだ方がいいだろう。
「うん……いう」
俺は花凛に全てを打ち明けた。
ぷるんくんが最強のモンスターであること、強くなって上級テイムスキルを取得しないといけないこと、ペルさんのこと、ノルン様のこと、異世界のこと。
花凛はちゃんと俺の目を見て話を聞き入ってくれた。
「なるほど……そういう悩みがあったのね……」
「こんな話、ぶっ飛びすぎて信じられないよね?」
「ううん。大志はいつもぶっ飛びすぎることばかりするからね」
「あはは……」
「私は信じる」
「……信じてくれるんだ」
「うん。だって、信じないわけないもん」
「なんで?」
「……ずっと大志を見てきたから」
「……」
そんなこと言われると、ちょっと恥ずかしいんですけど……
俺は話題を逸らすべくいそいそと口を動かした。
「と、とにかく!この話は内緒にしてくれると助かる!」
「う、うん!当たり前じゃん!誰もに言わないわよ!」
「二人だけの秘密だな」
「っ!そ、そう……二人だけの秘密ね」
花凛はどこか嬉しそうに自分の胸に手をそっと置く。
「その異世界で大志が見て感じたこと、ここにきたら私に話してくれる?」
「ああ。もちろんだよ」
「めっちゃ楽しみ!」
花凛はサムズアップして俺に明るい笑顔を向ける。
本音を語り合える人の存在。
その大切さがどれほど素晴らしいか俺はここで悟ることができた。
だが、花凛の顔はどこか寂しげだ。
俺は無意識のうちにぷるんくんを見る。
ぷるんくんはデザートを食べている。
そして、また花凛を見て
「あ、花凛、あげたいものがあるんだ」
俺は昨日採った最上級ダンジョン松茸を花凛に渡した。
X X X
翌日
俺はぷるんくんと異世界に来ている。
朝ごはんを済ませ制服に着替えた俺は、緊張した面持ちで異世界へと繋がるゲートを召喚した。
ぷるんくんと一緒に入った。
一体どんな風景が広がるんだろう。
駆け出し冒険者の街?
モンスター溢れる森の中?
王都の繁華街?
考え得る場所は多い。
だが、
「なんだこりゃ……」
「ぷる……」
俺たちがいる場所は
果てしなく広がる砂漠のような荒野だった。
追記
これから本格的に始まるって感じですね。
花凛の出番もいっぱいありますので期待してください!
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