第46話 買い物と花凛


翌日


「ん……」


 目が覚めた。


 昨日はいろんなことがあった。


 彩音さんから依頼を受けて、SSランクのダンジョンに行ったらペルさんに出会い、そこで異世界という存在を知った。


 そして、俺のレベルが150になったらぷるんくんの言葉が理解できる事実もペルさんに教えてもらった。


 あと、ペルさんは、異世界は俺の能力とレベルを上げるために最も適したところだと言ってくれた。


 もういくしかないだろ。


 ペルさんがぷるんくんと普通に会話しているところを見て、とても羨ましかった。


 俺とぷるんくんが普通に会話できる日が来れば……


 どんなに幸せだろう。


 その未来。


 俺の目指すべき道だ。


 起きたばかりなのになぜか頭が冴えてくる。

 

 なんでもできそうな気がする。


 俺は力強く目を開けた。


 そしたら朝を告げ知らせる日差しが窓越しにこの古びた部屋を照らす。


 宙に舞う埃は美しく光っており、まどろみを誘発しそうだが、俺の気分は高揚したままだ。


 そんな俺の脇腹に柔らかくて温かい感触が感じられる。


「ぷる」


 ぷるんくんだ。


 いつもは俺が先に起きるが、今日はぷるんくんが目を開けて俺を見つめている。


 日差しに照らされるぷるんくんの体。


 表面は柔らかく光沢がある。

 

 最初に見た時よりぷるんくんの体は元気そうだ。


 柔らかく黄色い体。


 そして、目の横にある十字傷。


 俺はその傷を優しくなでなでする。


 すると


「んんんん」

 

 気持ちよさそうに目を『^^』にして俺のなでなでを楽しむぷるんくん。


「おはようぷるんくん」


 しばしなでなでしてから俺はベットから降りて、ドヤ顔をしてビシッと人差し指をたてて窓へ向ける。


「ぷるんくん!」

「っ!ぷるっ!」

「今日も忙しくなる!これから俺たちは異世界に行くわけだから、いっぱい買い物をするぞ!!」

「ぷるるん!」


 大声で言う俺に合わせるためか、ぷるんくんも緊張した面持ちで俺がいうたびにリアクションをしてくれる。


 なぜか反応してくれるぷるんくんを見ていると、心が高鳴る。


 よし!


 ちょっと背伸びしてみよう。


 陽キャでmbtiがeから始まる人たちがやりそうなセリフを言ってみよう。


 俺は厨二病っぽくポーズを取り、ぷるんくんに言う。



 今の俺、格好良かったかな。

 

 と口角を吊り上げていると、ぷるんくんは力んで俺を見る。


 そして


 !!!


 お腹を鳴らせた。


 その音を聞いて俺は我に返った。


「やっぱり何やるにしてもご飯は大事だよな」

「ぷるん!」

「ちょっと待てて。すぐご飯作ってあげるから」


 やっぱりらしくないことはしちゃダメか。

 

 でも楽しかった。


 ぷるんくんに大量のサラダとご飯、味噌汁、卵焼き、ベーコンを食べさせた。


「ぷるう……」


 食事を終えたぷるんくんがテーブルの上で満足そうに目を瞑って体をブルブルさせている。


 皿洗いを終えた俺は、ぷるんくんと一緒に和んでいた。


 今は午前8時。


 出かけてもスーパーはまだ営業をやってない。


 そういえば、ノルン様からゲートスキルをもらった時に、利用できる対象は限られていると書いてあった気がする。


「確かに鑑定を使えばスキルの詳細が見れるんだったよな」


 と言って、俺は早速ゲートを鑑定を使って分析してみることにした。


ーーーー


ゲート


説明:異世界と現実世界を行き来できるゲートを召喚することができる。一日に朝、夜と2回しか使用できない。ゲートに入れる対象は臼倉大志と特別な関係にある或いはなる予定の存在の中でノルンが認めたもののみ。


ーーーー


「ん……なんかスキルの説明に私情が感じらるのは俺だけだろうか」


 俺は苦笑いをした。


 まあ、これはノルン様なりの配慮かもしれない。


 ていうか、特別な関係って一体なんなんだろう。


 俺とぷるんくんの関係も特別かな?


 そんなことを考えていると、スマホが鳴る。


「ん?」


 俺は早速ベッドにあるスマホを握って画面を確認する。


「花凛からか」


『秋月花凛:大志、おはよう〜』


 俺は微笑んで早速返事をする。


『臼倉大志:おはよう』


 すると早速、また返答がきた。


『今日、学校終わったらまた遊びに行っていい?』


「……」


 一回限りではなく、また来てくれるのか。


『これからいっぱい一緒に遊ぼうね。もっと仲良しになろうね』


 以前、彼女が発した優しい言葉を思い出して俺は頬を緩めた。


 今日はぷるんくんと買い物をする予定だけど、放課後くらいになったら特に予定はない。


 それに、昨日採っておいた最上級ダンジョン松茸を彩音さんに渡さないといけないし(ペルさんのことが気になりすぎて3本しか採ってないけどな)。


 俺は返事をする。


『放課後ならいいよ』


 すると、二秒後にまた返事が返ってきた。


『ぷるんくんが好きそうなデザートとかある?』


 デザートか。


 そういえば、ぷるんくんは甘いものが好きだった気がする。


 弱々なぷるんくんの時は、俺があげた菓子パンを嬉しそうに食べていたし、いちごケーキもな。


『甘い系なら基本オッケーだと思うよ』


 と返すとまたすぐ返ってくる。


『わかった!17時30分くらいにまたお邪魔するね』


 17時30分か。


 ちょうど夕飯を食べる時間帯だ。


 この前は最上級和牛を使ったすき焼きを作ってあげたけど、今日はダンジョン産のモンスターの肉を使った料理を振る舞ってやろう。


 キングブァッファロー肉とダンジョンダーク鷲の肉がまだ残っている。


 俺は嬉しい気持ちを文字で表すことにした。


『夕飯うちで食べていけよな』


X X X

 

 朝の涼しい風。


 心が落ち着く玉川上水のせせらぎ、緑道を歩く人たちなどなど。


 昔はこの光景を見てもなんとも思わなかったが、今の俺は若干の興奮と気持ちよさを感じている。


 新たな目標が出来た。

 

 それに、その目標を達成するためのお金はいっぱいある。


 レッドドラゴンを秋月グループに買い取ってもらったから、3億もあるんだ。


 それに、


 俺にはぷるんくんがいる。


「ぷる……」


 ぷるんくんはまたもや玉川上水の風景を観察している。


 いっぱい見といてね。

 

 スーパーに到着した俺たち。


 ゲートを使えば異世界と現実世界を行き来できる。


 でも、いちいち今日の分だけを買うのも時間の無駄だし、大量に買っておいた方が得策だろう。


 俺はぷるんくんをカートに乗せて買い物を始める。


 いわゆる爆買いだ。

 

 カップラーメン、レトルト食品、菓子パン、豚肉、牛肉、調味料、菓子、野菜、お水などなど……


 まるでゾンビ映画に出る主人公のように俺は異世界に行く明日に備えていっぱ備蓄用の食品を買い始める。


 だけど、マナーは大事だ。


 品切れにならない程度に買っておいて、収納で保管した後、他のスーパーでまた買い物。


 昼になったら、いつも通っているラーメン屋さんで食事。


「いつもありがとよ!今日は君の分もスライムくんの分もチャーシュー3倍だああ!!」

「ありがとうございます!」

「なになに、いいってことよ。君のおかげでうちの店も大繁盛だ。これくらいのことはするさ。いっぱい食っときな!スライムくんも!」


 店主のおじさんはサムズアップしてぷるんくんと俺に熱い視線を向けてくる。

 

 ぷるんくんも店主のおじさんに熱々視線を向けたのち、大食いチャレンジの器に入っている豚骨ラーメンに顔を突っ込んで、食べ始める。


 麺とスープがぷるんくんの中に入り、やがて吸収される。



!!!!」


 ぷるんくんは身震いしながら目を『^^』にする。


「あははは!毎度のことながらスライムくんの反応面白いな。作り甲斐があるってもんだ!おかわりもあるから、もっと食べていいぞ!」


「ぷるううううう……んんん!!!ぷるうううううう……んんんんんん!!!」


 麺を吸っては喜び、スープを吸っては嬉しがるぷるんくん。


 そんなぷるんくんを見て、俺は笑みまじりに言う。


「俺も食べようか」


 食事が終わり、また買い物を再開。


 するとあっという間に16時30分になっていた。


 欲しいものを大体買えたので、俺はぷるんくんを自転車の前かごに置いて家へと向かう。

 

 玉川上水の両側には学校が終わって帰宅中の生徒たちで溢れかえっていた。


 男同士で盛り上がっている子もいれば、笑いさざめく女子たちもいる。

 

 そして、カップルと思しき高校生男女の姿も。


 羨ましい気持ちはないと言ったら嘘になるが、俺にも大切な人たちがいる。


 この関係を大事にしていこうと思って、俺はスピードをあげた。


 倒れる寸前のボロボロのアパート。


 家に着いた俺は一つ不思議な点を発見することができた。


 黒い車。


 俺が自転車を止めて降りると、その車から華月高校の制服を着た美少女が降りてきた。


 彼女は俺を見て、


「大志いいいいいい!!!!!ぷるんくううううん!!!」


 そう叫んで笑顔のまま走ってくる。


「花凛……」

「ごめんね、予定より早くきて……」

「い、いいよ!それより中入ろうね」


 確かに30分も早くきて驚いてはいるけどな。


「えっと……大志、手土産を持ってきたの……」

「ん?手土産?」


 花凛は照れるように身を捩らせたのち、黒い車に目配せする。


 すると、黒い車のトランクが開いた。


 そこからは、高級ブランドのケーキや、ドーナツといったスイーツが入っている箱が目白押しだ。


「ぷるんくんが好きそうなデザート全部買ってきたの!!」


 手をブンブン振って目を『><』にして言う花凛。


「これ全部、もらっちゃっていい!?」

「もちろんよ!ぷるんくん、喜んでくれるかな?うう……」

「いや、なんで急に落ち込んでんの!?」


 いきなり頭を抱える花凛。


 俺は無意識のうちにぷるんくんを見る。


 花凛が不安がる必要はなさそうだな。


 俺は胸を撫で下ろして、花凛に話しかける。


「花凛」

「う、うん?」

「トランクを見て」

「うん……え!?ぷるんくん!?」


 ぷるんくんは涎を垂らしながらデザートの数々を見ている。


「んんんん……んんんん……」


 俺はそんなぷるんくんに話しかける。


「ぷるんくん、花凛が買ってくれたデザートだよ」

「んんん……」


 俺の言葉を聞いたぷるんくんが花凛のとこへやってくる。


 そして、



「ぷるん!」


 

 花凛に向かってにっこり微笑んだ。



「はああ……ぷるんきゅん……」


 花凛はとても感動したように身震いした。




追記



次回、異世界行きます。


星と♡お願いします!


 

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