第45話 権限、そしてノルン
「異世界?」
「そう。アルジくんとちびっ子くんをダンジョンに留めておくことは危険よ。バランスが乱れちゃうの」
「バランス?」
話がいまいち見えてこないけど、ペルさんは俺を見つめてまた口を開ける。
「ダンジョンは元々この世界と異世界の衝突を防ぐ緩衝地帯として生まれたものなの。だから人間がこのダンジョンを攻略することは絶対できない」
「……そうですか」
「この世界に存在する全てのダンジョンのモンスターでちびっ子くんを凌ぐものはいないわ。アルジくんはそんなちびっ子くんの支配者になってしまった」
「つまり、名目上俺は全てのダンジョンを攻略してしまったということですか……」
「うん!そうなのおお」
ペルさんは何度も首を縦に振って首肯する。
世界中の名だたる企業や国々が力を合わせても攻略不可能なSSランクのダンジョンをレベル5のFランク探索者の俺が攻略したのは、なかなかおかしな話だ。
でも、俺が最強スライムであるぷるんくんをテイムしてしまったのも事実。
「だからね、本来アルジくんとちびっ子くんは死なないといけないの」
「そう……え!?し死ぬ!?」
引っ込み思案なペルさんの口から発せられた言葉は俺に衝撃を与えるにたるものだった。
俺とぷるんくんが死ぬ……
せっかくぷるんくんに再会できたのに……
また俺に悲劇が訪れてしまうのか。
涙が出ようとする。
ぷるんくんはというと、ペルさんをじっと見つめていた。
俺が悲しみながらペルさんを見ていると、彼女は目をカッと見開いて両手をぶんぶん振る。
「いやいやいや!アルジくんとちびっ子くんは死なないから!悲しまないでよおお……」
「そうですか……よかった」
「うう……アルジくんごめんよ。私の言い方が悪かった……」
ペルさんは両手で俺の肩を抑えて目をうるうるさせながら切なく俺を見つめてくる。
「い、いいえ!大丈夫ですよ。ねえ、ぷるんくん?」
「ぷるん!」
ドヤ顔のぷるんくんを見て、俺はペルさんの手を優しく解いてから胸を撫で下ろした。
「それでね……バランスを維持するために、二人には異世界に行ける権限を与えるね」
「俺たちが……異世界に!?」
「うん。全てはノルン様の思し召し」
「……そ、そのノルン様はとても優しい方ですね」
そう。
本来、死なないといけないなら俺とぷるんくんを殺してもいいのに、こうやって別の世界に行ける権利を与えるあたり、きっと優しい神様であるに違いない。
そう考えていると、ペルさんが柔らかな笑みを湛えて俺に言う。
「そうなのお。ノルン様は優しくて、ちびっ子くんとアルジくんをとても愛しているのおお」
彼女の言葉が俺の心を温める。
誰かに愛されていると聞くだけでも、どうしてこんなに気分が良くなるんだろう。
ひょっとして、ぷるんくんが俺と再会できたのも、ノルン様のおかげかもしれない。
俺がノルン様に思いを巡らしているtお、ふとある疑問が浮かんできた。
「ペルさん」
「なあにい?」
「ちなみに異世界ってどんなところですか?」
「んん……そうね」
ペルさんはしばし考え込む仕草を見せてから、柔らかい表情で言葉を紡ぐ。
「魔法が存在して……魔族とエルフ、獣人族といったいろんな種族が存在して……あと、王国と帝国とかもあって……んん……あと不思議な食材もいっぱいあると聞いたのおお。なんて説明すればいいのかわからないい……説明下手でごめんねえ……でも、アルジくんの能力とレベルを上げるために最も適したところだと思うのお」
ペルさんは落ち込んだ。
いや、説明しづらいのはある意味当たり前だ。
なぜなら、
彼女が言わんとする異世界と場所が俺が今考えている異世界と完全に合致する可能性があることに気がついたから。
俺は口角を釣り上げた。
そしてペルさんの両手を握り込んだ。
「っ!にゃ!」
「ペルさん!俺、異世界に行きたいです!」
「う、うん!わかった……じゃ、早速権限を与えてあげるねえ」
ペルさんはそう言って、俺から若干距離を取ったのち、俺の頭を指差して目を瞑った。
そして唱える。
「ダンジョンの女神・ノルン様、あなたの代理人である半神半人の私を介して、かのものに祝福を!」
すると、俺とぷるんくんの体が光り始めた。
「お、おおお……」
俺が戸惑っていると、目の前に文字が表示される。
ーーーー
スキル移転
ダンジョンの女神・ノルンがあなたにゲートスキルを移転しました。
効果:異世界と現実世界を行き来できるゲートを召喚することができる(ただし、ゲートを利用できる対象は限られている。詳細は鑑定で確認)
新たな称号を獲得しました。
称号名:03984502348539857209358928385928345902347t390485389475394876209376092376092374598237487358934590384590347502730958309461903752037283683027807309742374f9394058390453w0290384207b983902803……
ーーーー
称号名が意味をなさない数字とアルファベットとの羅列にすぎないのが気になるが、俺はペルさんとノルン様に感謝の言葉を伝えて、ぷるんくんと共に一旦家に帰った。
高揚した気分を抑えながら。
X X X
ペルside
大志とぷるんくんと別れの挨拶をしてからペルは神殿に入り、地べたで横になる。
「はあ……ちびっ子くんとアルジくん……もっと幸せになって欲しいなあ……うふふふ」
ペルは微笑んでいるが、やがて暗い表情をする。
「そんな二人にいっぱい迷惑かけてしまったね私……」
ため息をついて、天井をみるペル。
「やっぱり言葉って難しい」
と呟いたのち深々とため息をつく。
彼女は自分の両手を広げて見せる。
自分の手をぎゅっと握ったアルジくん。
彼のことを思い出すとなぜか心が落ち着く。
「ふふ、不思議な子」
彼女は頬を緩めた。
すると、
『そんなに気になるなら、一緒に異世界に行けばいいじゃないの?』
彼女の頭にとある女性の声が響き渡る。
「ぬあっ!ノルン様!?」
『どうせこの世界の全人類が力を合わせてもダンジョンは絶対攻略できないの。だから、気晴らしに大志とぷるんと一緒に遊んでこいよ』
「むむむむむむ無理です!私が行けば、あの二人は迷惑しちゃうう……」
『全く……そんなことないって!マイラブリーエンジェル二人をなんだと思ってるのかしら?』
「……」
『ったく……見守ってあげてよ。じゃないと私、受肉しちゃうぞ』
「そ、それだけはダメです!!そんなことされたら世界が滅んでしまいますから!!」
『じゃよろしく!』
「ノルン様!?」
もうノルンの声はペルの頭で響かない。
横になったまま口をぽかんと開けるペル。
やがて疲れ果てた表情をし、目をつぶる。
「こういう時は寝るに限る……ん……」
やっと主人を見つけたちびっ子くん。
あの子はぷるんくんにとって最高の主人だ。
なぜちびっ子くんが死に物狂いで強くなろうとしたのか、彼と話してよく分かった。
優しい主人の下で幸せになるのよ。
そんなことを思いながらペルは眠りに落ちる。
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