第44話 異世界

「認めたって、どういうことですか?」

「そうね……ちびっ子くんと私は40日間戦った」

「た、戦った!?」

「うん。それで、ちびっ子くんの強さを認めて、称号を与えた」


 そんな……


 ペルさんとぷるんくんって最初は敵同士だったのか?


「あの戦いは、ノルン様の預言によって実現されたの」

「預言?」

「詳しくは、ノルン様の預言と、ちびっ子くんの意思ね」


 何を言っているのかさっぱりわからない。


 今まで八百万の神とかお化けとかあまり信じなかったけど、彼女の表情を見ていると、嘘をついているようには見えない。


 俺が知りたいこと。


 それは、


「一体、ぷるんくんに何があったんですか?」


 ぷるんくんの過去。


 この人ならきっとわかる気がする。


 俺が真面目な表情で言うと、ペルさんが困り顔でブルブル体を震えさえる。


「そ、それは……言えにゃい」

「な、なんでですか?」

「……ノルン様はそれを望んでおられない」

「……そうですか」


 俺は落ち込んだ。


 ぷるんくんがどんな過去を辿ってきたのか、やっとその糸口が見えてくるのかと思ったけどな。


 やっぱり、現実はそううまくいかないものだ。


「あああ、アルジくん……元気出してえええ」


 しゅんとしている俺に、ペルさんが人差し指を俺の肩に乗せて慰めるそぶりを見せる。


 人差し指だけ乗せているあたり、やっぱりペルさんらしい。


 まあ、仕方ないことだ。


「大丈夫ですよ」


 俺はペルさんの指をそっと払い退けて笑顔を向けた。


 すると、ペルさんが感動したように目を潤ませる。


「優しいアルジくんが落ち込んで、また元気を出す姿……とても尊いよおお……ん、じゃ私がいいことを教える」

「いいことですか?」

「うん」


 ペルさんは目力を込めて俺を見つめてきた。


「アルジくんのレベルが上がって、高級テイムスキルを覚えたら、ちびっ子くんの言葉が理解できるようになるう」

「え?い、い、い、今なんと?」

「ちびっ子くんの言葉が理解できるようになるう」


 胸が高鳴る。


 力が漲ってくる。

 

 あの、ぷるんぷるんしているぷるんくんの言葉が理解できるようになるんだと?


「ほおおおんんとうですか!!?」


 俺は興奮したあまりに、ペルさんの両肩を押さえて揺らしまくった。


「ああるううじいいくん……」

「あ、ご、ごめんなさい!つい」

「いいのお」

「それで、その高級テイムスキルはどうしたら覚えられるんですか?」


 ペルさんを離した俺は、期待に満ちた眼差しを向ける。


「それはね、レベルが153になったら取得できるのお」

「153……」


 うん……

 

 Dランクのダンジョンを無双できる葛西のレベルが30。


 つまり、俺にはめちゃくちゃハードルが高いと言えよう。


 試しに俺は自分を鑑定してみる。


ーーーー


名前:臼倉大志

レベル:5

属性:なし

HP:200/200

MP:100/100

スキル:鑑定、収納、テイム

称号:最強スライムの支配するもの


ーーーー


「……」


 ぷるんくんと再会した時と比べて何も変わってねーだろ……


 俺は跪いて絶望に打ちひしがれている。


「ぷるんくんとあんなにモンスターを倒したのにレベル全然上がってないじゃん……」


 また俺は落ち込んでしまった。


 まあ、いくらつよつよモンスターをぷるんくんが倒しても体に全く変化が起きない時点で薄々気付いてはいたがな。


「アルジくん!!また落ち込んだ!?えいっ!」


 ペルさんは今度は人差し指じゃなくて、右手で俺の肩を抑える。


「ん?」

「アルジくん!レベルが上がらないのは当然よ!」

「なんでですか?」

「アルジくんとちびっ子くんのレベルに開きがありすぎるから、調整されちゃうの」

「調整……」

「テイマーは自分と同じ強さのモンスターしかテイムできないから。その場合はテイムされたモンスターが敵を倒すと、テイマーにも経験値が貯まるの」

「……そうですね」

「でも、アルジくんは最強スライムのちびっ子くんをテイムしたのお。つまり、アルジくんが戦闘に加わるかぷるんくん並みにレベルを上げないと、調整されて経験値が貯まらないのおお」

「……なるほど」


 ゲームとかだと、強い従魔を持っているかつよつよパーティーに入るだけで、経験値がガッポガッポうははだ。


 だけど現実はこれだもんな。


 まあ、ぷるんくんが倒したモンスターの経験値を俺がもらうのもなんかチートな気がするし、うん……悲しいけど納得するしかない。


 俺が苦笑いをしながらうんうんと頷いていると、ペルさんが言う。


「ちびっ子くんと一緒なら153まですぐだと思うよおお」

「そ、そうですか……」

「うん。アルジくんのやる気次第。

「……わかりました」

 

 153まで上げないとダメか。


 弱いものが強いものを支配することによる反動とも言うべきだろう。


 でも、ぷるんくんの言葉を理解するためなら……


 そして、6年前に交わした約束を守るためなら……


 俺は握り拳を作った。


「はい!俺、頑張ります!!早くレベル153になってもっとぷるんくんにふさわしい主人になりますから!!」

「ぷりゅりゅ……」


 これまでずっと黙って俺たちの会話を聞いていたぷるんくんが目を潤ませて、俺を見上げている。

 

 ペルさんは感動したように親指を立てて口を開く。


「今でも十分立派よおお。ぷるんくんもそう言ってるしい」


 薄暗い神殿の外にいる俺たち。


 近くには水が流れており、神聖な雰囲気を出しているが、今ここは暖かい雰囲気に包まれている。


「あ、そういえばアルジくん」

「はい!」

「あなたに伝えたいことがあるのお」

「伝えたいことですか?」

「うん」


 ペルさんは急にまた真面目な面持ちになり、口を動かした。


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