第43話 二つの料理。そして……
俺たちは前回訪れたことのある神殿にやってきた。
俺は収納ボックスからダンジョンダーク鷲とキングブァッファローを取り出して、高性能ガスコンロを含む調理道具の数々を出してからぷるんくんにお願いする。
「ぷるんくん!ダンジョンダーク鷲とキングブァッファローの肉を切るの手伝って!両方とも、もも肉がいるよ。キングブァッファロー肉は前回と同じサイズに、ダンジョンダーク鷲はフライパンで焼かないといけないから同じ薄さに切ってくれる?」
「ぷるるん!」
いつもより上機嫌なぷるんく。
ぷるんくんは手を生えさせた。
そして超音波カッティングを使う。
ぷるんくんは鮮やかな動きでダンジョンダーク鷲とキングブァッファロー肉を捌いてゆく。
あんな巨大なサイズのモンスター、俺が捌くとなると一体どれくらいかかるんだろう。
ぷるんくんのおかげで時間がだいぶ節約された。
肉を切り終えたぷるんくんは、目を輝かせて俺を見上げてくる。
「よし、よくやった。あとは俺がするから待ててね」
「んん!んん!」
だが、ぷるんくんは後ろに下がることなく、ずっと俺を見つめてきた。
何か俺に伝えたいことでもあるのだろうか。
でも俺、ぷるん語わからないもんな。
「ん?どうした?」
俺が問うと、後ろでずっと俺たちを観察していたペルさんが震える声で言う。
「もっと……他に手伝うことないかって」
後ろを振り向くと、ペルさんが自分の両人差し指を擦り合わせている。
やっぱり、この人はぷるんくんと会話ができるのか。
これは非常にありがたい。
「あ、そういうことだったんですね!通訳してくれてありがとうございます!」
俺はお礼を言って、ぷるんくんを撫で撫でする。
「ぷるんくん、もう大丈夫だよ。あとは俺に任せて!」
「ぷりゅっ!」
ぷるんくんはドヤ顔を見せたのち、ペルさんのところへ行く。
「よし!今度こそいい姿を!」
俺は腕を捲った。
新たに買った寸胴鍋で大量のお米を入れて炊いたらシチュー作りに取り掛かる。
作り方は前回と同様。
玉ねぎはくし形に切り、皮を向いたじゃがいもは大きめの一口大に切り、にんじんも適当に切っておく。ブロッコリーは食べやすいように分ける。
肉に塩と胡椒を丸ごと入れて下味をつけるのも忘れない。
容器に入っている塩と胡椒が使い切りタイプと化す光景はいまだに慣れない。
あとは寸胴鍋にバターを敷いてキングバッファロー肉を強火で焼く。
それからあらかじめ切っておいた玉ねぎとニンニクを加え、白ワインと水を入れ蓋をして煮込む。
煮込む間に照り焼きチキンの準備だ。
照り焼きチキンの作り方はシチューよりは簡単だ。
塩コショウで下味をつけたら、ソースを作る。
しょうゆ、みりん、酒、砂糖を入れれば問題なし!
あとはぷるんくんが切ってくれたダンジョンダーク鷲のもも肉に片栗粉を塗して、油を入れたフライパンで皮が下になるように焼く。
あとは頃合いを見てひっくり返してソースを入れればオッケーだ。
「こんなものか」
シチューが入っている寸胴鍋とフライパン、米が入っている寸胴鍋を見て、俺は満足げに頷いた。
無意識のうちに後ろを振り向くと、
「んんん……んんんんん」
「ちゅる……」
ぷるんくんとペルさんが涎を垂らしながら物欲しそうに俺を見つめていた。
期待している二人を見ていると、やる気が漲ってくる。
花凛の両親の時もそうだし、ぷるんくんの時もそうだけど、やっぱり誰かのために料理を作る行為はとても楽しい。
一人で作って一人で食べるより断然楽しい。
「よし、ラストスパート行くぞ!」
俺は目力を込めて料理に全神経を集中させた。
その結果、
めっちゃ美味しいキングブァッファロー肉のシチューとダンジョンダーク鷲の照り焼きが出来上がった。
料理の数々を神殿の階段に持ち込むと、二人とも何かに取り憑かれたように階段にやってくる。
「さあ、いっぱい食べてくださいね!ぷるんくんも!」
「ぷるるるるるるん!!!」
「ううう……」
俺はシチューをぷるんくん専用のステンレス製の大きなボウルに入れてそれを渡し、照り焼きは別の皿に移して渡した。
ぷるんくんは興奮したように体をブルブルと震わせたのち、早速照り焼きに食いつく。
照り焼きはぷるんくんの体で消えてゆく。
それと同時に
「んんんんんんんんん!!!!!!!!」
ぷるんくんが大いに喜んだ。
興奮状態のぷるんくんは神殿周りをぐるぐる回り始める。
気に入ってくれたようだ。
俺が安堵のため息をつくと、ぷるんくんがいきなり力強くジャンプした。
そして、俺の頭めがけて落ちてゆく。
やがて、
ペチャ
俺の頭にとても柔らかい感覚が伝わってきた。
「んんんんん!!」
ぷるんくんが自分の体で俺の頬を擦りまくってゆく。
気持ちいい……
柔らかい……
俺はぷるんくん成分を堪能したのち、ぷるんくんを引っぺがしてステンレス製のボウルの隣にそっと置く。
「シチューもいっぱい食べてね」
「ぷるん!」
ぷるんくんは満足そうに頷く。
そんな俺たちを見てペルさんは
「はあ……ちびっ子くんがあんなに幸せそうにしてるなんて、本当によかった……本当によかった……ちゅる」
涎を垂らしながら感動している。
いや、感動するかよだれ垂らすかどっちかにしてください。
と突っ込みたくなったけど、俺は微笑んで彼女に言う。
「ペルさんもどうぞ!」
と、俺がペルさん用の皿にシチューを入れて渡すと、いきなりペルさんが目を潤ませる。
「うう……やっとキングブァッファロー肉のシチューが食べらりゅうう……しちゅうう……」
彼女はスプーンでシチューを掬い、それを口の中に入れた。
「っ!」
ペルさんは目を大きく見開いた。
そして、目を瞑っては、自分のほっぺたをさすり
「おおお……おおおおおお……おおおおいいしいいいいいいい……んん!想像以上に美味しいよおおおお」
ペルさんはとても幸せそうに咀嚼をしている。
「ぷる!ぷるぷる!んんんん!!!!ぷるっ!んんん!!」
「もっと食べる!」
二人は目を輝かせて食事のスピードをあげる。
「俺も食べようか」
誰もが恐るSSランクのダンジョン。
その奥深いところで俺とぷるんくんとペルさんの咀嚼音が響き渡る。
不思議だ。
つよつよモンスターが蔓延るダンジョンのはずなのに、全然怖くない。
俺たちは食べるのに夢中で話すことも忘れたままひたすら咀嚼を繰り返した。
「美味しかった……こんなに美味しいものは初めて食べるうう」
「ぷる……」
二人はとても満足そうに階段で寛いでいる。
ぷるんくんの水魔法であっというまに皿洗いを終えた俺は調理道具を収納ボックスに入れた。
にしても本当に気持ちよく寛いでいるなあの二人。
二人を見ていると、多少無理をして2種類のメイン料理を作ってよかったと思えてくる。
「気に入ってもらえて何よりです」
俺がペルさんに言うと、彼女はハッと目を見開いて急に俺に頭を下げてきた。
「ご、ごめんね!キングブァッファロー肉のシチューが食べたいとか無茶言って……」
「いいえ!大丈夫ですよ。ペルさんが美味しく食べる姿を見てたら、なんか俺まで嬉しくなって……あはは」
そう。
内気で引っ込み思案でコミュ障のペルさんがあんなに満足をしたんだ。
嬉しくないわけがないだろ。
俺がぎこちなく笑うと、ペルさんが頬を緩ませて小声で言う。
「ふふふ、やっぱり優しいのね」
「え?今なんて?」
「なんでもないの」
彼女は最初に見た時より、だいぶ表情が柔らかい。
俺はそんな彼女に訊ねてみることにした。
「あの、ペルさん」
「ん?」
「ぷるんくんとは知り合いですか?」
「ん……そうね」
ペルさんは天井を見て、何かを考える仕草を見せる。
しばし経つと、彼女は俺を見つめて真面目な表情を見せた。
「ちびっ子くんは私が認めた唯一のモンスター」
含みのある言い方に俺は固唾を飲んだ。
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