第36話 絶望と希望

日本ダンジョン協会立川支部


「おお!それはよかったな!」

「はい!」

「ぷるん!」


 早速高原さんのところへ行き、秋月グループの専属探索者になったという旨を伝えた。


 ついでに、学校を辞めずに通うことになったこと、花凛と同じクラスであること、レッドドラゴンを買い取ってもらいお金をたくさんもらったことも伝えておいた。


 ちなみに彩音さんの癌の話はプライバシーに関わるからしてない。


「最近、お前の噂を聞きつけて情報提供を求める胡散臭い業者の連中が多くてな」

「そ、そうですか?」

「ああ。Bランクのダンジョンを討伐して、ダンジョンタラバガニを持ってきただろ?噂にならない方がおかしいって」

「いや、でもそれらしき人から声をかけられたことはなかったんですけど……」


 俺が当惑しながらいうと、

 

 高原さんは指の関節を鳴らしてとても怖い顔で言う。



「っ!!」


 こわ、


 怖い!


 禿頭に髭、そしてヤクザを思わせる顔つき。


 彼を見て、俺だけじゃなくて周りの探索者たちもびびっている。


 この人が敵じゃなくて本当によかった。


 と、心の中で感謝していたが、俺は早く話題を変える試みをした。


「それで、俺、新しい家を探してますよ!」

「家?」

「はい。今の家は狭くてボロボロなので、ぷるんくんがもっと快適な生活ができる広い部屋を探してます!」


 俺の話を聞いた高原さんは「ん?」と小首を傾げたのち心配そうに口を開く。


「臼倉、お前は未成年者だろ?しかも両親はお亡くなりになったし。後見人は大丈夫?」

「あ、後見人……」

「ああ。未成年者は一人で不動産の取引はできねーよ。連帯保証人とか、保証会社とか、色々しがらみが多くてね」

「……」


 昔のことを思い出した。


 親が亡くなってすぐ家は売却され、そのお金は親戚のおじさんが全部持って行った。


 おじさんの家はここから結構距離があるから、俺は必死になっておじさんに不動産契約書類にサインをお願いした。


 すると、おじさんは連帯保証人はなれないから保証会社を自分で探せとか、家賃は一番安いところにしろとか難癖をつけてきた。


 最初のうちはちゃんと仕送りをもらったから、おじさんの言葉に逆らうことはできなかったが、最近は仕送りがゼロだ。


 そんな人の許可をもらわないといけないなんて……


「ちょっと待ってくださいね」

「ああ」


 俺はスマホを取り出して、おじさんに電話をかける。


『おお、大志か!!』

「っ!はい……」


 スマホの受話口から凄まじい音と共におじさんの声が聞こえてきた。


 ジャラジャラ、ピコピコ、ガチャガチャ


「あの……俺、新しい部屋を探してますけど……」

『はあ!?引っ越しすんのか!?するなよ!俺に面倒かけんな!』

「……」

『ちなみに俺、金ないから仕送りできねー。だから電話かねんな!っくそ!この台出なすぎだろ!!客なめとんのか!!このパチンコは星一つの評判がお似合いだあああ!!』


 おじさんはそう言って、電話を切った。


「……」

 

 もし、俺がお金をいっぱい持っていることを知ったら、このおじさんは俺を放っておくわけがない。


 なんで俺は未成年者だろう。


 俺の両親のお金をピンハネするパチンカスを介さないとろくに契約もできないなんて……


 こんな理不尽ありかよ……


 俺は握り拳を作った。


「ぷりゅん?」

「……ぷるんくん」


 俺の隣にいたぷるんくんは手を生えさせ、俺の足を優しくなでなでする。


 どうやら慰めてくれているようだ。


 ぷるんくんにいい環境を与えると啖呵切っておいて、この有様。


 格好いい主人の姿を見せたかったけど……


 有能なぷるんくん。


 無能な主人。


 俺が唇を噛み締めていると、




!」




 高原さんが野太い声で言って、俺の右肩をガッツリ掴んできた。


「高原さん……」


 おじさんの声があまりにも大きかったから、通話内容はおそらく高原さんも聞いたはず。


 なのに、彼の表情は実に明るい。


「お前、秋月グループの専属探索者だろ?」

「は、はい……」

「社宅があるだろ!」

「しゃ、社宅?」

「ああ。法人名義で家を借りて、そこにお前が住めばいいだけの話だ」

「ほ、ほうじんめいぎ?」

「まあ、要するに会社が家を借りるわけさ。そうしたら、後見人のサインなんかいらんだろ?」

「おお……そんなやり方もあるんですね……」

「秋月グループなら、きっと臼倉が望む部屋を借りてくれるはずさ」

「そ、そうですか?」


 俺が恐る恐るとうと、高原さんは自分の胸を叩いてドヤ顔を浮かべて話す。


「俺が何年日本ダンジョン協会で働いたと思うんだ。それくらいの要求はしていいさ」

「おお……」


 なんか高原さんが眩しく見える。


 よく見ると、ハゲた頭が照明を反射させ俺の顔を写しているだけだった。


 俺は高原さんからいろんな助言をもらうことができた。


「本当にありがとうございました!」

「ああ。でも、ここはSランク以上の依頼が取り扱ってないからもうここは卒業だな。臼倉」

「あ、そうですね……でも、家から近いんで時間あればお邪魔しますよ!」

「気を使うんじゃねーよ。秋月グループの専属探索者として頑張りな」

「は、はい……そうですね」


 だとしたら、俺がここに行く理由がなくなるのか。


 俺がちょっと気落ちしていると、高原さんが口角を吊り上げる。


「時間があればな、こんなところに来るんじゃなくて、辰巳おやじの料亭に行って一緒にちょこっとやっちゃおうぜ」


 高原さんは酒を飲む仕草をして、俺に強烈な視線を向けてきた。


 格好いい……


 俺もこんな漢になりたい……


「はい!もちろんです!でも、俺未成年者だからお酒は飲めませんよ!あ、高原さん!」

「ん?」

「これをもらってください!美味しいやつなので!」


 俺は収納から最後の最上級ダンジョン松茸を取り出して、それを高原さんにプレゼントした。


X X X

  

 日本ダンジョン協会立川支部から出た俺。


 ぷるんくんを自転車の前かごに置くと、電話がかかってきた。


 こんな時間に一体誰だろうと思って、スマホを取り出すと


『秋月彩音』

 

 花凛の母から電話がかかってきた。


「もしもし」

『大志くん!昨日食べた松茸がすごいのよ!』

「え?」


 彩音さんは「美肌効果においてはどんな化粧品よりもいい」だの「どんなサプリよりも効く」だの、大上級ダンジョン松茸の素晴らしさを約10分にも渡って力説した。


『高値で買い取るから、余っているものはないかしら?』

「今はないですね。必要でしたらSSランクのダンジョンに行く時にいっぱい採ってきますから」

『あら、ありがとう。を持つというのはこういう気持ちかしら』

「ん?むこ?」

『なんでもないわ〜それより、何か困ることはない?』

 

 おお、これは都合がよすぎる。


 困ること。


 高原さんのお墨付きを得たから言ってもいいだろう。


 俺は彩音さんに事情を説明した。


 すると、


『もちろんいいのよ。秋月グループから信頼されている不動産業者を紹介するわ』

「あ、ありがとうございます!!」

『大志くんはとても特殊な子だから、人には言えない悩みをいっぱい抱えているでしょ?私にできることなら協力するわ』

「本当に……本当にありがとうございます……」

『業者の連絡先と住所はアインで送るわ』

「お、お願いします!」

『あと、花凛とも仲良くしてよね!』

「は、はい!」

『それじゃ!』


 電話を終えた俺。

 

 俺が感慨深気にしていると、早速彩音さんからメッセージが来た。


「こんなに早く送ってくれるなんて……今すぐでもいいか……ぷるんくん!」

「ぷるん!」

「今から不動産屋に行くぞ!!!」

「ぷる?」

「行くぞおおおお!!!」

 

 ぷるんくんは最初こそ小首を傾げたが、俺の勢いに乗っかる形で自転車の前かごからぴょんぴょん跳ねる。


 だが


 ぐうううううううううううう


「ぷりゅん……」


 ぷるんくんは落ち込んだ。

 

 お腹が空いたようだ。


「そうだな。まずは昼飯を食べに行くか!」


X X X


高原side


「ったく……放っておけないやつだ」


 高原は大志が去った後も、感慨深い表情で彼を思い出す。


「にしても、流れでもらっちまったけどな、これ……」


 高原は最上級ダンジョン松茸を見て戸惑う。


 彼は、キノコの匂いを嗅いだ。


「おお……スッゲーいい香り……匂いからして松茸で間違いなしだが、なんか違うよな。こっちの方がもっと豊かな香り……うん……今は丁度昼休みだし」


 そう言った後、高原は屋上へと移動する。


 そして、自分の属性である火でキノコの一部を千切ってそれを焼いたのち、早速口の中に入れる。


 すると


「っ!!!!!!!」


 目を丸くした彼は叫ぶ


!!!!!!!」




 


追記



松茸は炒めたり焼いて食べましょう

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