第35話 新たな目的

翌日


午前


「うわ……でっか……こんなの初めてみるな」

「あはは」


 秋月グループ所属の巨大なトラックが俺の家にやってきた。

 

 トランク運転手さんは俺がトラックの中にレッドドラゴンを置くところを見て、驚いているようだ。

 

「それじゃ、よろしくお願いします」

「ああ!任せとけ!俺がちゃんと安全に届けてやるさ!」


 トラック運転手さんはサムズアップしてトラックを走らせる。


 しばし待つと、携帯スマホが鳴った。


『秋月和彦』


 花凛の父からのようだ。


「秋月さん……おはようございます」

『ふむ、そうだな。お父さんはまだ早いか』

「ん?」

『いや、なんでもない。それより、俺の会社所属の運転手からレッドドラゴンの鱗をもらったと言う連絡をもあった。代金は今すぐ送ってやろう』

「ありがとうございます……」

『うん……送るのはいいけど、やっぱり臼倉くんのことが心配だ』

「え?」

『高校生の君に3億円が振り込まれるんだ。そのお金をもらっても、臼倉くんは今まで通りの精神状態を保てるのか』

「……」


 返事ができなかった。


『世の中には危ない人が多い。もし、お金のことで悩みがあるなら、いつでも俺に連絡していいから。躊躇う必要はない。俺は君の後ろ盾だ。そして、ゆくゆくは、おとお……えっへん!とにかくそういうわけだから』

「は、はい……すごく助かります」


 大企業の社長さんが俺の後ろ盾……


 本当に心強くて安心できる。


 確かに世の中には危ない人間は多い。


 葛西もそうだし、俺の親の数少ない遺産を独り占めしている親族もそうだ。


 花凛や高原さんみたいな人ばかりいるわけではないことを、俺はよく知っている。


『ちなみに今の買取代金は雑収入だ。確定申告の時に気をつけろ』

「え?確定申告?」

『ふん……まだ他のSSランクのアイテムは買い取ってないからな。君には収納があるだろ?』

「はい」

『じゃ、後日俺の会社に来てくれないか。他のSSランクのアイテムの買取以外に税務に関する情報を教えてやろう。臼倉くんは高校生だが、立派なエリート探索者でもある。その自覚を持て』

「そ、そうですね。俺、バイトじゃなくて探索者として金稼いでますから」

『ふむ。ところで、話は変えるけど……』

「え?」


 秋月さんは重みのある感じでため息をつく。


 スマホ越しでも、その重圧感がもれなく伝わってくる。


『臼倉くん、昨日も言っておいたけど、もし不埒な他社のヘッドハンターが声をかけてきたら、そいつらが掲げる条件とやらを絶対俺にいうんだぞ。絶対。ぜっっっったいな』

「い、いや……別に俺は他社の専属探索者になるつもりは……」


 どうやら秋月さんは俺が他社のところにスカウトされることを危惧しているようだ。


『ん……やっぱり彩音の言っていることは正しい』

「ん?彩音さん?」

『なんでもない。俺はこれから会議がある。また連絡するぞ』

「は、はい!お仕事頑張ってくださいね!」


 電話を切る俺。


 なんかドット疲れが押し寄せる気がする。


 ボロボロなアパートの前に立っている俺。


 周りを見渡すと、室外機の上に黄色い物体のようなかわいい生命体が日光浴を楽しんでいる。


 目を瞑っていて、若干ふにゃふにゃした状態のぷるんくん。


 気持ちよさそうだ。


 そういえば、ダンジョンは太陽の恩恵を受けられない場所だから全体的に薄暗い。


 明るくて暖かい場所が場所が好きだろう。


 でも、このアパートはな……


「……正直、このアパートもダンジョンみたいなもんだけどな」

  

 俺は倒れる寸前のボロボロな我が家を見て、ため息をついた。


 ここは両親が死んで、親族が財産を全部持って行って完全に取り残された俺が藁にも縋る思いで見つけたところだ。


 華月高校に近くて割と立地はいいのに、家賃がとても安い。


 俺にとってみれば悲しみの場所であり、救いの場所でもある。


 でも、ぷるんくんにとっては、とても狭くて窮屈な場所ではなかろうか。


 俺はぷるんくんの主人だ。


 ぷるんくんにより快適な環境を与え、幸せにする義務がある。


 俺に希望を与えてくれたぷるんくん。


 俺を解放してくれたぷるんくん。


 俺の人生を変えたぷるんくん。


 だから俺もぷるんくんに……


 そんなことを考えていたら、スマホが鳴った。


 早速確認してみえば、


ーーーー


件名:ご入金のお知らせ


入金日時:……


……


入金額:300,000,000円

送金元口座情報:秋月ホールディングス株式会社様

受取先口座情報:臼倉大志様


ーーーー



「3億……」


 正直実感が湧かない。


 ダンジョン協会から初めて報酬をもらった時はとても嬉しかった。


 でも、3億となると、これが本当にお金なのか、それともただの意味を成さないデータの塊に過ぎないのか、判別がつかない。


 いや、そんなふうに演技でもしないと、心臓が爆発してしまいそうだ。


 でも、

 

 このお金は俺だけのものではなく、俺とぷるんくんのものだと思うと気持ちが落ち着いてくる。


 俺は室外機で和んでいるぷるんくんのところへ行く。


「ぷるんくん」

「ぷるん?」

「出かけるか!」

「んんんんん!!!!」


 出かけるかと言った途端に、ぷるんくんは嬉しそうに室外機からぴょんぴょん跳ねた。


 そして、俺の胸にペチャっとひっつく。


 よし。まず高原さんのところへ行ってざっくり状況を説明したのち、




 新しい家を探そう。






追記


果たして家探しがうまくいくのでしょうか。


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