第33話 二人の訪問

翌日


昼過ぎ


「やばいやばいやばいやばい……」


 俺は頭を抱えている。

 

 ぷるんくんはそんな俺を見て、小首を傾げていた。


 昨日は彩音さんの勢いに押された形で今日の夜に会う約束をした。


 もっと伸ばしてもよかったものの、いきなりすぎたので上ずった声で「明日はいかがですか!?」と叫んだ。


 我ながら情けない。


 向こうは病気を治してくれたことで、俺のことがもっと知りたいことと、感謝の気持ちを伝えたいと言ってくれたが、もう感謝なんかしなくていいと思うんだよな……


 花凛に恩返しがしたくてやっただけのことだし……


 とりあえず、こうやって部屋でビビっていても何も解決しない。


 大企業の社長とその奥さんがこんなボロボロなところに来られるんだ。


 おもてなしをしないといけない。


 くるのは午後5時だから夕食は食べてないはずだ。


 お金なら十分あるんだ。

 

 きちんとお金の管理をしながら生活したおかげで、150万円はある!


 だから最上級の食材を買ってそれで料理をしてだな!


 いや待て、俺は単なる高校生だろ。


 大人相手に高校生がお金を使うのもおかしな話だ。


「うう……どうすりゃいいんだ……お客がくるのは初めてだから……」


 と、ため息まじりに言ってみると、ぷるんくんが視界に入った。


「ぷるんくん……」

「んん」


 ぷるんくんは困っている俺を見て、笑ってくれた。

  

 ああ……癒される。


 気持ちが落ち着くと、なんかが閃いた。


「あ、そういえば」


 俺は収納スキルを使った。


 そして、現れた収納ボックスに鑑定を使う。


ーーーー


収納ボックスリスト


ダンジョンアイテム


レッドドラゴンの鱗(最上級)

キングバッファローのツノ(最上級)

キングバッファローのリブロース(最上級)

最上級マナ草:5本

最上級ダンジョン松茸:3本


その他


ヨーグルト:120個

スティック状のパン:200袋

アウトドア一式


などなど


ーーーー


「ん……キングバッファローのリブロースと最上級ダンジョン松茸を使ったステーキ一択だなこれ」


 俺は納得顔でうんうんした。

 

 下準備しましょうか。


X X X


 時間が経ち、午後5時になった。


 下から車の音が聞こえたからおそらく来たのだろう。


 外からノックする音が聞こえたから、俺は早速ドアを開けた。


 すると、


「臼倉くん……」

「大志くん、久しぶりね」


「……」


 俺は圧倒されてしまった。


 二人の漂わせるオーラがあまりにも神々しくて俺は言葉を失った。


 スーツ姿の花凛の父は前回見た時みたいに疲れた様子はなく威厳が溢れている。


 髪の色は紺色で吊り目。


 顔自体は非常に整っており、男の俺でも惚れてしまいそうだ。

 

 もし、俺が年を取るなら、この人のようになりたいと願ってしまう。

 

 そして、


 彩音さん。


 彼女は複雑な模様が散りばめられている黒いロングスカートにニットというシンプルな服装だ。


 けど、まるでモデルのように美しく、どう見ても20代のようにしか見えない。


 あの死ぬ寸前のやつれ果てていた彩音さんは今やどこにも存在しない。


 艶のある長い亜麻色の髪を靡かせ、大きな垂れ目と整った顔、そして女性として実に恵まれた体。


 女神そのものだが、包容力がありそうな柔らかい印象だ。


 俺の隣にいるぷるんくんは、目をパチパチさせて二人と俺を不思議そうに交互に見ている。


「な、中へどうぞ……」


 俺はいそいそと二人を中に入れた。


 ここワンルームだから大人が二人もいるとなると結構狭く見えちゃうな。

 

 お茶を出した後、俺と二人は向かい合うようにテーブルに座り、ぷるんくんは俺の肩にペチャっとくっついて二人を見つめている。

 

 彩音さんが笑みを湛えて口を開いた。


「大志くん」

「は、はい……」

「アイン開いてね。手土産を送ったの」

「て、手土産ですか……」


 俺は恐る恐る携帯を確認すると、何かが届いていた。


『秋月彩音様があなたに多丸おおまるで使用できるフルーツセット(特大)のギフト券100枚をプレゼントしました』


「多丸で使える特大サイズのフルーツセットのギフト券100枚!?!?」


 多丸は高級百貨店だ。


 実物の画像見たらどう考えても一枚あたり一万円は軽く超えそうなビジュアルなんだけどよ。


 ぷるんくんはフルーツセットのイメージをみてよだれを垂らしている。


 俺が体をブルブル震わせながら二人を見ていると彩音さんが口を開く。


「娘から話は聞いているわよ。ぷるんちゃんは大食いだって。100枚では足りないかしら?」

「た、たります!!でも、こんなにいっぱいもらっちゃっていいのか……」


 俺は頭を下げて、二人に感謝の気持ちを伝えた。


 そういえば、ぷるんくんにはまだ果物はほとんど食わせてないんだった。

 

 あるとしたら、この前買ってあげたいちごケーキくらいかな。


「いいわよ。これはほんの気持ち程度なの。大志くんが私にしてくれたことと比べたら、とても小さいものだから」

「……」

「本当にありがとう。大志くんのおかげで、私は元気を取り戻すことができたわ。ずっと大志くんの顔が見てみたかったの。私に……私たちを救ってくれた祝福の子の顔を……」

「お、俺は当然のことをしたまでです……感謝されるようなことはしてません」


 と、俺がいうと花凛の父が納得いかない顔で言う。


「それは違う。臼倉くんには感謝しかない。崩壊寸前の俺たちに本当の幸せをもたらしてくれた。命を与えてくれた。この恩は一生かけて返しても返しきれるものではない」


 花凛の父が頭を下げてきた。


 いや、大企業社長に頭下げられたら余計に緊張してしまう。


 俺は両手をぶんぶん振って捲し立てるようにいう。


「あ、頭を上げてください!別に返さなくてもいいですよ!むしろ、返すべきは俺でしたから!!」


「「ん?」」


 二人は俺の言葉が理解できなかったらしく小首を傾げて俺に続きを促す。


「俺、ずっといじめられっ子で……弱くて、親もいなくて、貧乏で……でも、花凛はずっと俺を助けてくれました。こんな俺なんかに優しい言葉をかけて勇気づけてくれました」

「「……」」

「なので、俺はどうしても花凛に恩返しがしたかったです。ちょうどそのとき、彩音さんが癌を患っていることを知って……」

「そうか……つまり、俺の娘に優しくしてもらえただけで……」

「あなた……」

「ああ」


 二人は感動したように見つめ合っている。

 

 彩音さんに至っては目を潤ませていた。


 俺は肩にくっついているぷるんくんを両手で押さえ、二人に見せつけるように両手を伸ばした。


「でも、ぷるんくんがいなければ、俺が彩音さんを助けることはできなかったはずです。俺は弱いんで……でも、ぷるんくんは強いですよ!!」

「ぷるん!」


 俺がドヤ顔でいうと、俺の心を察したぷるんくんが、二人に向かってドヤ顔を決めこむ。


 二人はぷるんくんと俺を見てクスッと笑ってくれた。


 うち、彩音さんが口を開く。


「大志くんはとても純粋な子ね。あなたは決して弱い子じゃないの。誰よりも強い子なの」

「え?」

「きっとぷるんちゃんも、大志くんのそういういいところを知っている思うわ」

 

 彩音さんはドヤ顔をしているぷるんくんに目配せする。


 すると、


 ぷるんくんはにっこり笑って


「んんんんんん!!!」


 喜びながら俺の胸に引っ付いて俺の顎に自分の体を擦ってきてた。

 

 俺がぷるんくんを撫でながら落ち着かせていると、彩音さんは俺の顔をじっと見ていた。


 気のせいかもしれないけど、彼女は一瞬悲しむ表情を浮かべた。


 その表情は、俺の心のどこかを強く刺激するようで、本能的に彼女を見ないようにした。


 俺は話題を変えるべく、口を開く。


「そ、そろそろご飯にしませんか?」


 すると、花凛の父が言う。


「臼倉くんのためにレストランを予約しておいたが」

「え?本当ですか?いや……それはちょっと……」

「ん?どうしたかね?」

「今日は俺が二人にキングバッファロー肉のステーキを作って差し上げる予定だったんですが……」


 俺が困ったようにいうと、二人は一瞬「ん?」と小首を傾げたのち、


 物凄く驚いた様子で机を叩いて俺を見つめてきた。


「「!?!?!?!?」」


「は、はい……」


「臼倉くん……キングバッファローとはあのSSランクのモンスターの中でもかなり強いあのモンスターのことか!?」


 深刻そうな顔で問うてくる花凛の父に俺は遠慮深げに頷く。


 二人は固まってしまった。




 

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