第30話 近づく距離、だが

食堂の前


 ぷるんくんを抱えて食堂にやっていた。


「えっと、秋月さんはどこ……あ、」


 俺は数多くの男女からすぐ秋月さんの姿を見つけることができた。


 やっぱり秋月さんは綺麗だから目立つよな。

 

 秋月さんは女友達二人と談話を交わしていた。

 

 そして、通り過ぎる男子たちは秋月さんグループをチラチラみている。


 秋月さんは俺の視線に気がついたか、俺の方を見て笑顔で手をブンブン振ってきた。


 秋月さんの友達二人も釣られる形で俺を見ては優しく微笑んだ。


 友達二人は秋月さんに手を振って先に食堂の中へ入る。


 どうやら気を使ってくれているようだ。


 俺は緊張しながら秋月さんの方へ近づく。


「臼倉くん!ちゃんと学園長先生と話できた?」

「ああ。活動報告書を提出しながら学校通うことにしたんだ」

「よかったね!ぷるんくんもお疲れ様!」


 と、秋月さんは流れるようにぷるんくんを撫でようとする。


 だが、


「ぷる……」


 ぷるんくんは秋月さんのなでなでを拒んで、俺の背中に隠れて秋月さんを見つめてきた。


 決して敵意がある顔ではない。


 どうやら他の人たちとの接し方がわからないようだ。


「あ、ぷるんくん……ごめんね。触るの嫌だった?」


 ちょっと落ち込む秋月さん。


 俺はぷるんくんをなでなでしながら口を開いた。


「多分慣れてないと思うよ。秋月さんを嫌ったりするわけじゃないからね」

「そ、そう。よかった!」


 秋月さんは大きな胸を撫で下ろし、安堵のため息をついた。


「それじゃ、食券買いに行くわよ!」


 本当に秋月さんは元気がいいな。


 彼女のこういうところを見習いたい。


 券売機へ行く俺たち。


 食堂に行ったことはほとんどない。


 理由は二つ。


 いじめられっ子の俺に食堂はなかなかハードルが高い。


 あと、値段高いよな。


 だから俺は弁当やら、50%引きのおにぎりとラーメンやらを持ってきて、トイレで食べていた。


 だが、今の俺はこの学校におけるマドンナと行動を共にしている。


 周りの人々は俺たちを見てコソコソと何やら話している。


「私はサンドイッチとオレンジジュース!」


 秋月さんが嬉しそうに最新型の券売機のLEDパネルをタッチする。


「臼倉くんもぷるんくんの分と合わせて選んでね!お金は私が払うから」

「あ、そのことなんだけど」

「うん?」

「やっぱり、ぷるんくんの分は俺が払うわ。この子、本当にめっちゃ食うから」

「臼倉くん!!」

「っ!」


 秋月さんは納得いかない表情をして、俺の至近距離に近づく。


 やべ……良い匂い……


 なんか周りの男性たちが俺を殺す勢いで睨んでくるんだけど……

 

「水臭いよ……あんなことがあったのに」


「っ!!」


 秋月さん頬を若干膨らませて拗ねるそぶりを見せる。


 本人は怒っているけど、なんかすごく可愛い。


「うう……わかった。そこまでいうからには……遠慮なく行くぞ!」

「どんとこいよ!!」


 秋月さんのお触れがでたことだし、そんじゃ行かせてもらうぞ!


 俺は悲壮感漂う表情で券売機の前の立った。


 そして、思いっきり気合を入れてタッチパネルを連打し始める。


 唐揚げ定食!!


 チーズハンバーグ!!


 カレー定食!!


 豚骨ラーメン!!

 

 まだまだだあああ!!!


 うどん!!


 サンドイッチ!!


 生姜焼き定食!!!!!!


 お腹が空いている時のぷるんくんは30人前なんか普通に食べちゃうんだ!!


 俺はぷるんくんの主人!


 だから、ぷるんくんがお腹いっぱいになるメニューを選ばないとな!!


 まるで音ゲーをするように連打する俺の手を見て、秋月さんは口をぽかんと開けた。


『支払い金額:86,000円』


「……」

「秋月さん。やっぱり俺が払うわ」

「臼倉くん……」

「う、うん」

「私をなめないでよ」

「え?」

「パパのカードを持っているから!」


 急に秋月さんが目を見開いてカードリーダーにクレジットカードをブッ刺した。


 秋月さんはドヤ顔をした。



X X X


「すげー……あのスライムめっちゃ食べるじゃん」

「うわ……あんなに食べるの初めて見た」

「なんか面白い!」


 ぷるんくんの食べっぷりに食堂にいる人たちは絶句した。


「んん!!!ぷるん!!ぷりゅうう!!んんんん!!!!」


 ぷるんくんは運ばれてくる料理を一瞬にして食べ尽くす。


 秋月さんはぷるんくんの凄まじい食欲にサンドイッチを食べるのを忘れて、美味しそうに食事をしているぷるんくんを見ている。

 

 最初こそ俺が秋月さんと一緒にいることで、殺意に満ちた視線を浴びていたが、今はぷるんくんの大食いに圧倒されてそれどころじゃない。


「すごい食べるのね。可愛い子」

 

 と言った秋月さんは、幸せそうな表情を浮かべて昼ごはんを食べるぷるんくんを見て優しく微笑んだ。


 食事の後は校内カフェに寄ってアメリカーノを買ったのち、人気の少ない屋外のベンチに行って休憩。


 ちなみにぷるんくんは近くの芝生でペタッと地面に引っ付いて気持ちよく日光浴を楽しんでいる。


 俺と秋月さんはベンチに座った状態でストローをちゅうちゅうしながらアメリカーノを飲んでいた。


「あんなに食べると、食事代結構かかるよね」 


 秋月さんが心配そうに俺に問うてきた。


「ま、まあ……そうだけど、その分稼げば良いしな」

「大変じゃないの?」

「ううん。ぷるんくんがいるから大丈夫だよ。依頼を受けて、モンスターを倒して、そのモンスターの肉を調理して食べればなんとかやっていけるさ」

 

 俺の言葉を聞いた彼女は一瞬、思考が停止したように固まった。


 やがて、我に返った秋月さんは口を開く。


「モンスターの肉……ちなみにどんなものを食べるの?」


 おお……


 その質問を待ってました。


 この前、ぷるんくんがダンジョンタラバガニを食べる可愛い姿を見せなくちゃな!


「最近食べたのはダンジョンタラバガニかな?」

「え?ダンジョンタラバガニ!?」


 俺は笑顔を浮かべながらスマホを取り出し、『ぷるんくんコレクションーダンジョンタラバガニ編』を見せた。


 ああ……


 いつ見ても癒される……


 特にカニ肉を加えているぷるんくんの写真が天使すぎて感動しちゃうよ……


「ほ、本当だ!ダンジョンタラバガニって、私も一回しか食べたことのない貴重な食材なのに……ていうか、ダンジョンタラバガニはAランクモンスターの中でも捕まえるのめっちゃ難しいじゃん!」

「あはは……結構手こずってたな」


 ダブルfxxk youまでしてきたから。


「すごい……臼倉くん本当にすごいよ……」


 急に秋月さんが目を輝かせて俺を切なく見つめてくる。


 俺はちょっと照れくさくなって、あははと笑いながら言う。


「いや、俺がすごいんじゃなくて、ぷるんくんがすごいだけだよ」

「臼倉くんは威張らないのね」

「え?」

「いつも優しくて、あまり自分のことを自慢したりしないんだけど……」


 秋月さんはもどかしそうに、綺麗な美脚をしきりに動かしながら、頬を若干ピンク色に染める。


 そして、俺を見つめてたのち、若干目を逸らし


「いざというときはちゃんと格好いいところ見せるから……今日だって……」

「秋月さん……」

「花凛でいいよ」

「え?いや、そんな」

「花凛で呼びなさい!」

 

 秋月さんは駄々をこねる子供のように可愛い顔で叫んだ。


「……じゃ、花凛……」

「大志……」

「いや、俺は下の名前で呼んでいいと言ってな……」

「はあ?」

「呼んでいいです。はい」


 花凛、時々めっちゃ怖い顔するんだよな。


 下の名前で呼んだのは、友達になったってことか。


 ふと、そんなことを考えていると、花凛はまた足をしきりに動かしながら口を開く。


「た、大志」

「うん?」

「私、ダンジョン研究者になるのが夢なの……だから、、もしハイランクのダンジョンに行ってきたら、経験談とか聞かせてくれる?」

「もちろんだよ」


 俺の返事を聞いて安堵した花凛。今度は恥ずかしそうに顔を俯かせて口を開く。


「あと、迷惑じゃなければ、その……一緒に……」


 彼女の声が小さいので耳をそばだてると、


 花凛ではなく、


 男の声が聞こえてきた。


「臼倉くん、僕と決闘をしようか」


 顔を上げたらそこには、背の高い金髪の爽やかイケメンがいた。


 そう。


 このイケメンはサッカー部のキャプテン兼エースで、今朝、花凛と一緒に話していた一個年上の先輩だ。


 彼は俺を睨んでいる。

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