第29話 謝る二人とそうじゃない一人

「え、臼倉じゃん……」

「秋月とめっちゃ仲良さげなんだけど」

「葛西たち面食らってるな」

「もしかして付き合ったりして」

「ないない。同情してるだけじゃん」


 そんな呟きを聞きながら俺は秋月さんとクラスの中に入った。


 俺は自分の席に行き、物入れに手を突っ込んで教科書を取り出してカバンの中に入れた。


 もう俺がここで勉強をすることはないわけだし、空けてやるのが筋というものだろう。


 俺が作業をしていると、いつしかぷるんくんが机の上に登ってきて、周りを警戒している。


 ぷるんくんにとってここはあまりいい場所ではないだろう。


 それは俺にとっても同じだ。


 みたいなことを考えていたら、見慣れた三人の男子が現れた。


 ぷるんくんは三人をみて体をブルブルさせて敵意を露わにする。


「お、おい臼倉」


 と言ったのは、金髪の非常に人をいじめるのが得意そうな葛西だった。


 やつはいつも俺に見せる威勢のいい表情ではなく、若干動揺の混じった面持ちだった。


 残りの二人は自信なさそうに顔を俯かせている。


「何?」


 俺が問うと、何かを強く我慢するように唇を噛み締めて言う。


「お前のスライムのせいで、俺はずっとスキルが使えてないんだ」

「だから何?」

「……解除してくれよ。そしたらもう二度といじめねーから」

「その言い方からしたら、解除しないといじめるってこと?」

 

 俺が返すと、やつは握り拳を作る。


 ビビる必要はない。


 もう俺は自由だ。


 ぷるんくんによって俺は自由になったのだ。


「一年生の時から俺をずっといじめてたよな。今は2年生になったから最低でも1年間はスキルが使えない状態で過ごしてもらうから」

「な、なんだと!?」

「じゃな」


 と告げて俺が立ち上がってクラスを出ようとしたら、


「いい気になりやがって……いじめられっ子の陰キャ風情が!!身の程を知れ!」


 と叫んで、葛西が俺の方に飛び掛かってきた。


 ぷるんくんはというと、


「ぷるるる……」

 

 葛西を睨んでぷるんくんの体が紫色に光り出す。


「葛西!やめろ!ちゃんと謝るんだろ!?」

「おい葛西!」


 二人の友達は葛西を止めようとするが、もう時すでに遅し。


 紫色の光がぷるんくんの体から離れ、葛西の体内に入る。


 死神の恐怖が発動したのか。


「あ」


 葛西は口を半開きにしてそのまま倒れてしまう。


 床に倒れた葛西は恐怖に怯えるような顔をして体を痙攣させた。


 不思議なのは、紫の光が葛西だけじゃなく、俺の体にも入ったというところ。


 俺は気になり鑑定を使ってみた。


ーーーー


死神の恐怖

説明:上位SSランクの死神が使える恐怖スキル。死神の恐怖にかかったものは死の恐怖を感じることにより、パニック発作を引き起こす。闇属性の最上位スキル。


権限移転:ぷるんくんは、主であるあなた死神の恐怖を植え付ける権限を与えました。恐怖度(0〜100%)を指定(心の中で唱える)すると対象者に死神の恐怖が植え付けられます。離れたところからでも使用可能。


ーーーー

 

 おお……

 

 俺がその気になれば葛西に恐怖を直接与えることができるということか。


 まるでスキル封印と似たような感じだ。


 つまり、葛西は『スキル封印』、『死神の恐怖』という二つの呪いにかかったということになるんだろう。


「ああああ……」

 

 恐怖する葛西を見て二人の友達は俺に土下座してきた。


「俺たちが悪かった!!」

「葛西は完全に自業自得だ!!でも、俺たちは本当に悪いと思っている!」


「……」


 主犯格の葛西ではなく取り巻きの二人が謝罪してきた。


 俺は二人を見てため息をする。


 そしたら土下座した二人がまた口を開く。


「本当に……本当にすまない……俺たちは君に一生消えない傷を与えたんだ。どんな方法でも償うから許してくれ……だからスキル封印とあの謎の恐怖だけは……」

「退学処分もありだと先生から聞いた……でも、退学させられたとしても、それは当然の仕打ちだ。俺たちを好きなように殴っても構わん。それで臼倉の気分が晴れるなら……」


 二人は涙ぐんで額を地面につけている。


 みんなの前でこんなプライドに傷つくようなことはなかなかできるものではない。


 俺はぷるんくんを抱えて踵を返す。


「葛西に伝えてくれ」


「「え?」」


調


 そう伝えて俺は歩き始める。


 クラスを出る刹那、秋月さんと目があった。


 秋月さんは俺を見て、サムズアップしてくれた。


 俺もまたサムズアップして彼女に無言の返事をする。


 一つ大事なことに気がついた気がした。


 世の中にはいろんなタイプの人が存在する。


 秋月さんのように優しくて率直で話の通じる人がいる反面、


 葛西のような話の通じない他人に迷惑ばかりかけるクズもいるということを。


 そして、葛西のようなやつからのいじめへの最も効果的な解決方法。


 それは


 圧倒的恐怖を植え付けて、二度と這い上がれないようにすること。


 二人の謝罪は悪いことをしたという罪悪感による謝罪ではない。


 


 

 

 高校生なのに、そんな世知辛い現実を知ってしまった。


 クラスを出た俺は早速学園長室へ向かった。


 そこでさっきあったことを伝えた。


 そしたら、学園長は俺に丁重に頭を下げたのち、怒り狂った顔で三人に必ず退学処分を下すと断言した。


 俺は葛西を除く二人は退学させないようにと言っておいた。


 あとは、活動報告書の件の話を学園長がしてくれた。


 要するに、俺がダンジョン協会から依頼を受けて、それをクリアするまでの記録をつけ、それを提出すればいいとのことだった。


 ノルマは学園長の裁量によるため、そんなに気にするなと言われた。

 

 学園長といろんなことを話していくうちに、もう昼休みになった。


 なので、俺はぷるんくんと一緒に学園長室を出た。


「はあ……」

「ぴゅる?」


 ため息を吐く俺に、床で移動するぷるんくんが上目遣いして『なあああんでため息なんかつくのおお?』と言っている気がしてきた。


「なんかさ、ぷるんくんに会う前は、葛西の連中がとても大きくて逆らえない存在のように見えたけど……」

「ぷる……」

「今はあんなのにいじめられた自分が情けないと思えるくらい小さく見えてね……」


 一旦切って、俺は床を這いながら進むぷるんくんを持ち上げた。


 なんか以前よりぷるんくんの体が暖かい気がする。

 

「全部ぷるんくんのおかげだよ。


 と、柔らかすぎるぷるんくんをぎゅっと抱きしめると、ぷるんくんが


「ぷる……ぷるるるる……んんん!!」


 嬉しそうに音を出しながら目を『^^』にした。


 その瞬間


 ぷるんくんの体がいきなり明るく光りだした。

 

「え?ぷるんくん!?」

「んんんん!!!!」


 俺が呼んでもぷるんくんは嬉しそうに俺の腕に自分の体を擦ってくる。


 この光は前見た核融合ではない。

  

 俺は気になり早速鑑定を使ってみた。


ーーーー


ぷるんくんはレベルアップしました


ーーーー


「れ、レベルアップ!?」


 いや……モンスターを倒した訳でもないのに、レベルアップってありかよ……


 戸惑っている俺。


 やがて光が消え、ぷるんくんは


 

 ぐううううううううううううううう!!!!!



 この前のSSランクのダンジョンにある神殿で聞いた音に匹敵する空腹の音を出すぷるんくん。


「ぷりゅ……」


 ぷるんくんが落ち込んだ表情をして、俯いた。


 どうやらレベルアップをしたから、いつもよりお腹が空いたようだ。


 すると


 まるで図ったかのようにスマホが鳴った。


 アインメッセージが届いたらしい。


 スマホを取り出して、確認する俺。


『秋月花凛:一緒に昼飯食べに行こう!学食来て!』


 うん……


 秋月さんがぷるんくんの分まで奢るって言ってたけど、今のぷるんくんを見てるとやっぱり俺が払った方がいい気がしてきた。


 俺はお腹を結構空かせたぷるんくんを抱えたまま早足で食堂へと移動する。




追記



ぷるんくんの活躍は次回も続きます!


校内での主人公くんの株がどんどん上がるタイミングかな?


もうすぐ星1000いきそうなんでご協力いただけたら嬉しいです!!

 

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