第28話 花凛は臼倉に向かって猛ダッシュ
翌日
花月高校
朝
登校時間。
名門華月高校は制服を着た生徒で溢れかえっている。
その中でも異彩を放っている存在がいる。
柔らかい灰色の長い髪、幼い感じはするが整った目鼻立ち、切れ長の目、背は160センチくらいで、実に恵まれた体の持ち主。
彼女は堂々と歩いている。
「やっぱり秋月さんめっちゃ可愛いんだよね」
「顔といい、体といい、高校生だとは思えない」
「モデルとして活動してるけど、やっぱり実物の方が綺麗だよな」
「男子にめっちゃ告白されるって噂だし」
「なんか、最近は前より明るくなったって感じだよね」
「そう。なんか柔和な雰囲気」
正門近くを歩く華月高校の生徒たちが彼女に羨望の眼差しを向けてきた。
そんな中、183センチはありそうな金髪の爽やかイケメンが花凛に近寄ってきた。
「花凛ちゃん。おはよう」
「あ、西山先輩」
西山。
高校3年生にして、サッカー部のキャプテンを務める彼は女子たちから絶大な人気を誇る。
彼はちょくちょく花凛に話をかけたり、密かにデートのお誘いをしたりする(全部断られたが)。
西山の登場により女子は興奮した様子を、男子生徒は嫉妬の視線を向けてくる。
「なんか、今日はいつもより明るいな。いいことでもあった?」
「ま、まあ……」
「ふふ、何があったの?」
「それは……」
西山に問われた花凛は困ったようにあははと笑う。
「僕、花凛ちゃんの話、聞きたい。聞かせてもらえる?」
西山は花凛との距離を詰めてまた訊ねてきた。
花凛は最初は困ったような表情をしたが、やがて幸せそうな表情をして話す。
「臼倉くんのことで……」
「臼倉くん?あ、あの親を亡くした特待生のこと?」
「はい。葛西くんたちの悪事が学園長にバレましたし、臼倉くん、やっといじめから解放されたんですよ。これから臼倉くんにいいことがいっぱいあるから。ふふ」
「も、もしかして、臼倉くんのことが気になる?」
西山は一瞬、顔色を変えるがいつもの爽やかなイケメンに戻り、花凛に問う。
すると、花凛は頬を朱に染めて何も答えない。
西山は焦った表情で言う。
「そ、そうか。確か、あの子は庶民だけど、勉強の出来る子だからきっと他の女の子に好かれるはずだよ」
「え?」
不自然な西山の言葉に花凛は目を丸くする。
「他の女の子?誰ですか?一体誰が臼倉くんを好きになるんですか?」
「ま、まあ。普通の高校の女子だったりするのかな。ほら、臼倉くんは属性も持ってないし、ランクも低い。類は友を呼ぶという言葉があるでしょ?」
「……何が言いたいんですか?」
俯く花凛に西山は真顔で言う。
「同情するのはいいんだけど、それ以上の感情を抱いたら、お互い不幸になるんじゃない?花凛はとても可愛くて綺麗な女の子だよ。だから他の人の気持ちなんか気にせずに、自分の気持ちを優先しないとね。放課後時間あれば、話聞くよ」
彼の言葉を聞いた花凛。
その瞬間、
自分の横に、とある男が黄色いスライムを連れて通りすぎる。
彼とスライムは早歩きで昇降口へと移動している。
花凛はクスッと笑い、西山を睨んで話す。
「西山先輩。強さにおいても、優しさにおいても、あなたは臼倉くんの足元にも及びません」
「え?何を言って……」
「だって、臼倉くんは……」
一旦切って、花凛は大きな自分の胸を打で下ろす。
それから
「臼倉くんはSSランクのダンジョンにも行けますし、私を救ってくれましたから。ではさようなら」
言って、花凛は西山から離れて臼倉に猛ダッシュ。
臼倉大志side
久々に学校に行けば、秋月さんが背の高いイケメン先輩と話している姿が見えてきた。
あの人は名前は忘れたけどサッカー部のキャプテン兼エースのはず。
加えてあの容姿。
天は二物を与えないと言ったやつ、誰だよ。
思いっきり与えられてんじゃねーかよ。
ここは邪魔なんかしちゃだめだ。
きっと、秋月さんはああいうイケメンな男たちと交流をたくさんしているのだろう。
俺の知らない秋月さんの一面。
いつも秋月さんに助けられっぱなしだったから感覚が麻痺しちゃったけど、あのサッカー部のエースくらいのイケメンじゃないと、秋月さんとは絶対釣り合いが取れない。
俺は歩くスピードを上げた。
そしたら、ぷるんくんも一緒に歩くスピードを上げる。
うう……
ぷるんくん。
やっぱり俺には君しかいないんだ。
今日の夕食は美味しいもの食わせてやるよ。
そんなことを思っていると、
「臼倉くううううううううん!!!」
俺を呼びながら猛烈な勢いで秋月さんが走ってきた。
「あ、秋月さん!?」
「学校来るんだったら連絡してよ!いきなり臼倉くん現れるからびっくりしたじゃん!」
「あ、ああ……ごめん」
「ま、まあ……私もあれから臼倉くんに全然メッセージ送ってし……これからは頻繁に連絡し合おうよ!」
「……」
いや、女子とやり取りするのやったことないし、そんな高度テクニック、俺にできっこない。
なので、俺は話題を逸らすべく口を開く。
「それよりさ、お母さんは元気?」
「っ!!!!」
秋月さんは俺の話を聞いて急に体がビクッとなって、目を丸くする。
それから、急に頬をピンク色に染めて話し始めた。
「めっちゃ元気。毎日ご飯もいっぱい食べるし、体重も増えてるし、昔のママに若返ってるって感じ……だから、私、ずっとママのところに行って話してた」
「なるほど……よかったな」
「……臼倉くん」
「ん?」
「今日はいつまで学校にいるつもりなの?」
「ん……今日は学園長に話があるからな。多分昼過ぎには学校を出ようと思ってる」
「んじゃ、一緒に昼食食べない?私が学食奢るわよ!ぷるんくんの分まで!」
「ぷ、ぷるんくんの分まで!?」
いや、本当にやめた方がいいよ。
ぷるんくんは回転寿司の店で94,500円分を食べた前科持ちだ(放置した俺も悪いが)。
それに、
今の俺はお金を持っている。
経済的に自立していているのだ。
もう秋月さんから助けられ、惨めな思いをせずに済む。
「ううん。いいよ。俺とぷるんくんの分は、俺が払うから」
俺が手をブンブン振って断るも、秋月さんは急に俺の手を自分の両手で強く握り込んで、怖い顔をした。
「臼倉くん。奢らせて」
「は、はい!!」
迫力ありすぎる表情で俺は条件反射的に首を縦に振った。
秋月さんはふむと満足げに頷いて、俺の手を離してくれた。
てか、手の感触本当に柔らかすぎたな。
待て。
俺、今、秋月さんと手を握った!?
びっくりする俺だが、当惑する様子を見せたくなかったので、ぎこちなく口を開いた。
「く、クラスまで送るよ!!」
おい……
俺は一体何を言ってるんだい。
こんな陽キャがするようなセリフ、俺には似合わな……
「う、うん!ありがとう!一緒に行こうね」
と、秋月さんは歩き始める。
なので俺も釣られる形で足を動かせた。
途中
秋月さんと俺の腕が擦り合う。
俺がびっくりして距離を取ると、秋月さんがまた近づいて、自分の腕を俺の腕に当ててくる。
なんだよ……
距離感バグってないか。
布越しなのになんでこんなに柔らかいんだよ……
しかも、めっちゃいい香りするし……
秋月さんの横顔を見てみたら、彼女は俯いていた。
気のせいかもしれないが、長い髪から覗く頬はさっきより濃いピンク色になっている気がする。
周りに男女たちがめっちゃガン見してるんだけど……
俺は無意識のうちに後ろを振り向いた。
そこには
サッカー部のエースであるイケメン先輩が眉根を顰めて俺を睨んでいた。
「……」
俺は前を向いて秋月さんと歩調を合わせて昇降口の中に入る。
にしても、クラスか。
俺にとって地獄同然だったクラス。
そこへ俺と秋月さんは向かっている。
ぷるんくんも一緒に。
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