第27話 ぷるんくんと子供。夜中にかかってきた電話
小さなレジャーシートを自転車の前かごに入れてその上にぷるんくんを乗っける。
ピッタリ収まるぷるんくんを見て、俺は気分が良くなった。
なんかnowtubeのショート動画見てると、金属同士が隙間なくくっつくような感じかな。
それではレッツゴー。
今日は天気も良く雲が一点もない青空が広がっている。
気持ちの良い日差しは俺たちを照らして、ぷるんくんの透明な黄色い体は輝きを増している。
ぷるんくんの後ろ姿しか見れないが、なんか以前より弾力とか張りとかがよくなっている気がしてきた。
触りたい気持ちになったが、目的地に到着したらいっぱい触ろう。
これから行く場所は小金井公園。
この辺りで結構有名な公園で昔、両親にいっぱい連れて行ってもらった思い出の場所である。
やがて、小金井公園に到着した俺とぷるんくん。
自転車を止めて、ぷるんくんを頭に乗せて中に入った。
「ぷりゅ……」
広々としている空間に巨大な木々が並んでいるところと人々を見て、ぷるんくんは圧倒されたように固まった。
だが、やがてぷるんくんは俺の頭から降りて、警戒するように身震いする。
「いや、この前の合コンでさ〜まじかわいい女の子いたんだよな〜」
「あはは!お前彼女いるんだろ?」
「いや、彼女はいるんだけどさ、ほら、別腹だろ?」
「うわ、お前……最低じゃん。まあ、気持ちはわかるけど」
俺の近くを通りすぎる髪を染めた陽キャっぽい人たちに敵意のこもった視線を向けるぷるんくん。
「ぷるるる……」
見た目と喋り方が葛西とそいつの友たちに似てたからな。
俺はしゃがんでぷるんくんをなでなでする。
「ぷるん?」
「ぷるんくん、大丈夫だよ。ここにいる人たちは敵じゃないから」
「……ぷりゅん」
ぷるんくんは周りを一瞥したのち納得したように頷く。
学校の時と同じく、俺を守ろうとしてくれていたんだね。
そんなことを思いつつ、俺は歩き始めた。
すると、ぷるんくんが地面を移動して俺にくっついてくる。
俺とぷるんくんはいろんところを回った。
ポピーが咲き乱れる芝生に行って、花に囲まれたぷるんくんを撮影したりSL展示場に行って、古い蒸気機関車も見た。
ぷるんくんは蒸気機関車に興味津々のようで目を輝かせて「んんん!」と言いながら走り回った。
もちろん俺はそんなかわいいぷるんくんの姿を見逃すことなくパシャ。
周りの人々はぷるんくんを見て不思議そうな表情を浮かべたが、ぷるんくんの喜ぶ姿を見て笑顔を浮かべてくれた。
ここにはいろんなタイプの人が存在する。
属性を持つ能力者も存在するが、属性を持たない俺みたいな人間もいるし、そもそもスキルを使うためのマナもない無能力者も存在する。
花月高校はエリートたちしか通わない名門校であるため、彼らの特権意識を目の当たりにすると息がつまりそうだったが、どうやらここはぷるんくんに対して差別の視線を向けてくる人はいないようだ。
不思議な点は、ぷるんくんが子供に向けてくる視線だ。
どうやらぷるんくんは子供にも興味があるようだ。
なので、俺はぷるんくんをわんぱく広場に連れて行ってあげた。
わんぱく広場とは、巨大な子供の遊び場があるところで、子供の間で絶大な人気を誇る。
「ぷる……」
一生懸命遊んでいる子供たちを見るぷるんくんは目を輝かせながら笑顔を浮かべる。
子供が好きだね。
そんなぷるんくんの一面を知った俺はニヤついてしまう。
その時だった。
「あ!スライムだ!!」
子供のうち一人が、ぷるんくんを指差して叫ぶ。
そしたら他の子供たちも同調し始める。
「本当だ!!」
「可愛いスライムちゃん!!」
「うわああ!」
子供たち十数人がぷるんくんを取り囲む。
「ぷるんくん、子供に危害を加えたらダメだよ」
「ぷるん!!」
ぷるんくんは俺を見て『わかった!任せて!』というように頷いた。
子供たちはというと
「うわ!!柔らかい!!もちもちぷるんぷるん!!」
「うわ、本当だ。気持ちい……」
「私も触る!」
「僕も!」
最初こそ穏やかだった雰囲気はだんだんと殺伐としてきた。
「私が先だよ!!」
「あっちいけ!俺が触る!」
「ああ、みんなずるい!私も!!」
「いや!このスライムは私のものなの!」
「いや、俺のもんだよ!あっちいけ!」
「僕のもの!!」
あっという間にぷるんくん争奪戦と化してしまった。
「ぷりゅ……」
子供たちによって引っ張られているぷるんくんはみょーんと伸びながら、困ったような表情をする。
うん……
これは止めに入った方が良かろう。
俺は囲まれているぷるんくんを両手で持ち上げた。
「ほら!ぷるんくんは俺のもんだよ。勝手に自分のものにするな」
「「……」」
子供は黙りこくって俺を見つめてきた。
「そんなふうに争ったら、ぷるんくんと一生遊べないからな」
俺が強めに注意すると、子供たちは申し訳なさそうに顔を俯かせる。
「ごめんなさい……」
「ぷるんくん……勝手に触っててごめん」
「ぷるんくん、大丈夫?」
どうやらみんな反省しているようだ。
なので、俺はドヤ顔を浮かべる。
「反省した子にはぷるんくんと鬼ごっこ出来る権利を与えます!」
俺の言葉に子供たちは目を輝かせる。
「私反省した!」
「俺も!もうぷるんくんを強引に引っ張ったりしません!」
「私、ぷるんくんと鬼ごっこしたい!」
「じゃ、君たちが鬼になってぷるんくんを捕まえてね!」
「「おおおおお!!」」
子供たちが雄叫びをあげる中、ぷるんくんは浮かれたように俺と子供を交互に見てくる。
俺はそんなぷるんくんに小さく耳打ちして、鬼ごっこのルールを説明した。
「出来るよな?ぷるんくん」
「ぷるるるるるるん!!!!!!!!」
ぷるんくんは興奮した表情で『出来るううううううんん!』と言っているようだ。
「さ、始めるよ!それ!」
俺はぷるんくんを遊具の方へ投げた。
ぷるんくんは遊具にペチャっとくっついて、子供たちを煽るように見つめる。
子供たちは嬉しそうな表情を浮かべて遊具の方へ突進。
あらかじめ防御幕を子供たちに張るように言ってあるから、安全対策も万全!
「ぷるん!ぷ!ぷるぷる!ぷるるん!!」
ぷるんくんは押し寄せてくる子供たちをすばしこく躱していく。
ぷるんくんめっちゃ楽しそうだな。
子供たちはそんなぷるんくんを捕まえるために必死だ。
子供たちは笑っている。
なんか俺らしくないことをした気分だ。
俺は人の前で何かをするようなタイプの人間ではない。
葛西かさっきの陽キャグループの方がこういうのには向いているんだろう。
だが、不思議とぷるんくんのためならと思うと、割とできちゃったりする。
ぷるんくんによって自分が変わっていくような気がする。
そういえば、俺もあんな小さい頃にぷるんくんと出会ったな。
あの時のぷるんくんは小さくて、動きも鈍くて、幼い感じだった。
けど今は、俺もぷるんくんも大きくなった。
そして、親との思い出が詰まっているここで、共に時間を過ごしている。
古い思い出に新たな思い出が加わっていく。
ぷるんくんと一緒なら前に進むことができる気がする。
そんな思いを心に託して、俺はスマホを取り出し、子供と楽しく遊んでいるぷるんくんを激写。
大満足した子供と親たちと別れの挨拶をしてからは近くの蕎麦処に入り昼食を取る。
ぷるんくんの食べる量が凄まじくて店主が驚愕したり、バイトのお姉さんが可愛いとか言って写真を撮ったりした。
昼過ぎからも江戸東京たてもの館に行ったり、雑木林に行ったりしながら楽しく遊んだ。
それから広場でレジャーシートを敷いて一緒に昼寝。
時間ギリギリまで遊んで、公園を出た俺とぷるんくんはまた自転車に乗って家へ向かう。
「ぷるんくん」
「ん?」
前かごに収まっているぷるんくんが振り向いて俺を見てきた。
「今日はどうだった?」
「ぷるるるるんん!!!」
ぷるんくんは目を『^^』にして体をブルブルさせた。
「ふふ、俺も楽しかったよ」
玉川上水に沿って走る俺たち。
清流のせせらぎは俺の心を落ち着かせ、ぷるんくんは玉川上水緑道を通る人々や木々、雑草などなどを見ながら頬を緩めている。
柴犬の吠える音さえも自然の奏でる旋律のように聞こえ、気がつくと家の前だった。
ボロボロなアパートの2階に入った俺とぷるんくん。
今日は疲れたので余ったキングブァッファローの肉をフライパンで焼いてタレを入れ、ぷるんくんと美味しくいただいた。
あとは気持ちよくお風呂タイム。
湯船に浸かった俺と、湯船で飄々と漂うぷるんくん。
風呂が終わったら、寝る準備だ。
「おやすみ。ぷるんくん」
「んん……」
ぷるんくんは眠いのか、ベッドに着くなり早速眠りに落ちた。
こんな日が永遠に続きますようにと願いながら、俺も目を瞑った。
そしたら
ブーブー
スマホが鳴った。
こんな夜遅くに一体誰だろう。
「初めてみる電話番号……」
ちょっと怖かったが、俺は電話に出ることにした。
『臼倉くんかい!?!?』
「は、はい!!」
『学園長じゃああ!!』
「ななななななななななんの用ですか!?」
『学校……やめたりしないじゃろ?活動報告書でも不満があるのなら、君が望むように便宜を図ってやろう。だから、SNSや新聞社とかに暴露するのだけはやめてくれたまえ!!」
ああ、
そういえば、花月高校を辞めか通うかで、まだ返事をしてなかったな。
「明日、学校に行きます」
『お、おお……わかった』
「それじゃ」
俺は電話を切った。
明日は学校か。
もう、秋月さんを見て辛い思いをしなくていい。
葛西はぷるんくんの呪いによって、スキルが使えない。
高原さんが俺を助けてくれる。
そして、ぷるんくんが俺を守ってくれる。
学校に行くのもう怖くない。
俺は眠っているぷるんくんを抱き枕代わりに抱きしめて眠りについた。
追記
次回は花凛が出ます!
もうすぐ花凛の両親も登場しますので、♡と★お願いします!
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