第26話 震えるぷるんくん
日曜日
ダンジョンタラバガニをやっつけてから1日が経過した。
「……」
目が覚めた俺にいじめられた事による恐怖と親の死による悲しみと金を稼がないといけない強迫観念が一気に押し寄せてきた。
一体いつになったら消えるのだろう。
そんな心配をしていたら右腕に震えが伝わってきた。
俺が布団をめくったら、横にぷるんくんは寒さによる震えではなく、何かに怯えているような表情をしている。
「ぷるんくん……大丈夫?」
「んん……んんんん……」
俺が聞いても、ぷるんくんは濡れそぼった子猫のように目を瞑って震え続ける。
起きているようには見えない。
悪夢でも見ているのだろうか。
俺は心配になり、横になった状態でぷるんくんを抱きしめて俺のお腹の方に持っていく。
「んんん……」
「ぷるんくん……」
俺はぷるんくんの震えを全身で受け止めた。
そしたら、ぷるんくんの震えは次第に小さくなり、やがてすやすやと寝息を立てている。
どんな悪夢を見ていたんだろう。
SSランクのダンジョンでの出来事でも思い出したのだろうか。
「……」
俺はぷるんくんがどんな過去を持っているのか知らない。
ぷるんくんと意思疎通ができれば、6年前に俺と別れてからいったいどんなスライム生を辿ってきたのか聞いてみたい。
俺はぷるんくんの十字傷を優しく撫でる。
「そろそろご飯作ろう」
そう言って、俺はぷるんくんを俺の枕にそっと置いて布団をかぶせてやった。
今日のメニューは味噌汁と卵焼きとベーコン、サラダ。
お米を研いでお母さんが使っていた圧力炊飯器に投入し、炊飯開始。
味噌汁は市販で売っているスティック状のものをぷるんくん専用のステンレス製のボウルに入れる。
サラダはあらかじめ買っておいたものを大きな皿に投入してドレッシングを入れる。
サラダが結構な量だから、大きなサイズの胡麻ドレッシングは使い切りタイプと化してしまった。
あとは卵焼きとベーコンか。
食いしん坊のぷるんくんのために大量に作っていたら、足に柔らかい感じが伝わってきた。
下を向くと、40センチほどの小さな黄色いぷるんくんがいる。
「ぷるんくん、おはよう!」
「ぷるん!!」
ぷるんくんは元気溢れる姿で俺に返事をしてくれた。
「朝ごはん、もうすぐ出来上がるから待っててね!」
「ぷるるるるるん!!」
ぷるんくんは目を輝かせて頷いた。
どうやら「ご飯だいしゅきいいいい!」と言っている気がした。
明るいぷるんくんを見ていると安堵するが、この笑顔の中に隠された闇を考えると、ちょっと悲しくなる。
でも、ここで俺が落ち込んでたらどうする。
俺はぷるんくんの主人だ!
気合を入れるんだああああ!!!!
俺はキレッキレな動きで朝ごはんをテーブルに運ぶ。
「じゃあ、食うぞ!!遊ぶためにもエネルギーは必要だからな!」
「ぷるっ!!!」
俺が食事を始めると、ぷるんくんは丸ごと持ってきた炊飯器に入っている白米をパクついたのち、堆く積まれているサラダにダイビングしてそれらを吸収する。
それから大量のベーコンと卵焼き、しまいにはステンレス製のボウルに入っているあつあつ味噌汁まで堪能するぷるんくん。
「んんんんんん!!!」
ダンジョンタラバガニという実に美味しいものをいただいた後なのに、ぷるんくんは勢いよく俺の作った朝ごはんを食べてくれている。
喜びながら食べるぷるんくんを見ると、なぜか俺まで力が湧いてくる気がして、俺は食べるスピードをめちゃくちゃ上げた。
おおおおお!!!!!
はああああああ!!!
おおおおおおああああああ!!!!
たあああべええええるううううう!!!!!!
ぷるんくんの主人らしく、俺の食べっぷりも!!
あ、
「けほ!けほけほけほ!!!」
「ぷるん?」
みなさん、食事はゆっくりしましょう。
食事を終え、皿洗いも終えた。
今日は依頼をこなさない。
高原さんの助言もあったし、今日はぷるんくんと一緒に遊ぶことにしたのだ。
顔を洗い、着替えた俺。
すると、
ブー
ベッドに置いてあるスマホが鳴った。
誰だろう。
日曜日の朝にわざわざ連絡をしてくるような人がいるはずもない俺は小首を傾げてスマホを確認する。
銀行からメールが一通届いた。
ーーーー
件名:ご入金のお知らせ
入金日時:……
……
入金額:1,000,000円
送金元口座情報:日本ダンジョン協会中央精算センター様
受取先口座情報:臼倉大志様
ーーーー
「おお……」
おおおおおお
おおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
俺は早速銀行アプリを立ち上げた。
そして残高を確認する。
『残高確認:1,082,215円』
心臓が爆発寸前だ。
正直もらうまでは実感がなかった。
この前の上級マナ草の依頼の時は、60万円をもらったが、滞納した家賃を払ったり、いろいろ買い物をしたので、自由に使えるお金が少なかった。
だからこそ、このお金の存在は俺にとってとてつもなく大きい。
いろんな想像が膨らんでいると、いつの間にかぷるんくんが俺の胸にペタッとひっついて俺のスマホを見つめてきた。
「あ、ぷるんくん」
「ぷりゅう?」
ぷるんくんは残高が書かれた画面を見たのち、俺を見て小首をかしげる。
そりゃ、スライムが数字を読めるわけがないよな。
苦笑いすると、ぷるんくんはものすごいスピードでスマホを俺の顔を交互に見てくる。
どうやら『なになに?なあああああにいいい!?』って言っているようだ。
俺はスマホをポケットをしまい、ぷるんくんをなでなでする。
そして決心するのだ。
俺は親族のようにはならないと。
「このお金は俺とぷるんくんのものだ」
「ぷる?」
「んじゃ、一緒に出かけるか?」
「ぷるるるるん!」
ぷるんくんはお金の話の時は理解ができないような表情だったが、一緒に出かけるそぶりを見せたら、嬉しそうに俺に自分の柔らかい黄色い体を俺の頭に擦ってきた。
今日は俺が安らぐ日だが同時にぷるんくんにこの世界のことを知ってもらうための日でもある。
X X X
SSランクのダンジョンにある神殿
「うう……キングバッファローのシチュー食べたい……食べたいの……」
ツノが生えた綺麗な女性が薄暗い神殿の中で横になりながら涎を垂らしている。
「あの時、ちびっ子スライムくんの話を聞くべきだった……私って、いつもこんな感じで後悔ばかりするよね……」
涙ぐんでいる女性。
だが、やがて彼女は立ち上がり、ため息をついてまた呟く。
「まあ、伝えないといけないこともあるし、いきましょっか……ちびっ子スライムの主人くん、私……行くよおおお」
そう自信なさげに言ったあと、彼女はまた倒れ込む。
「ううう……やっぱり私、面倒くさがり屋だし、内気だし、引っ込み思案だから、二週間後に行くか」
ツノの生えた女性はそのまま眠ってしまった。
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