第23話 銀座の料亭
俺は巨大なカジキとタコに鑑定を使ってみる。
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ダンジョン大カジキ
説明:Aランクのダンジョンに生息するダンジョン大カジキ。非常に早い動きで攻撃することが特徴で、ツノの先端には毒がある。食べられるが、非常に不味い。
レベル:98
HP:12,000/12,000
MP:800/800
スキル:一撃必殺
属性:水、土
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一撃必殺。
この前、キングバッファローも同じスキルを使っていた。
思うに、一撃必殺を使えば、あの長いツノが光って、当たったら凄まじいダメージを与えるだろう。
気をつけないとだな。
そう思って、俺は巨大なタコに鑑定を使う。
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ダンジョン大タコ
説明:Aランクのダンジョンに生息するダンジョン大タコ。触手攻撃と遠距離攻撃が得意。味は吐き気がするほど非常にまずい。
レベル:100
HP:5,000/5,000
MP:16,000/16,000
スキル:魔力スミ大砲、電気触手、恐怖
属性:水、闇、雷
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ダンジョン大タコはHPが少ないけどMPが多い。
つまり、遠距離で味方をフォローする役回りか。
短距離攻撃が得意なダンジョン大カジキと遠距離での攻撃がうまいダンジョン大タコ。
最高の組み合わせだ。
こんな手強い奴らに守られているからダンジョンタラバガニを捕まえるのは至難の技というわけだ。
だが、
ぷるんくんの方が強い!!
俺は口を開く。
「ぷるんくん!あいつらは美味しくないんだ!持ち帰ってもしょうがないから好きなやり方で倒してくれ!」
俺の言葉を聞いて、ダンジョン大カジキとダンジョン大タコは
「キイイイイイ!!!!!!」
「プウウウウウ!!!!!!」
めちゃくちゃキレた。
もしかして、まずいとか言って腹が立ったのだろうか。
ダンジョン大カジキは一撃必殺を使ったらしく、ツノが赤色に光り出して、俺の方へ凄まじいスピードで飛んでゆく。
ダンジョン大タコは、触手に電気を走らせ、思いっきり頬を膨らませて俺の方へと寄ってくる。
すごい殺気だ。
二匹ともぷるんくんじゃなく、俺を見ている。
「や、やばい……」
腰が引けちゃいそうだ。
あいつよりもっと強いモンスターとも対峙したが、やっぱり戦闘には慣れてない。
「ぷるん!!」
その瞬間、
ぷるんくんが俺の頭の上から飛び上がった。
眉毛っぽい『\ /』により一層力を入れ、光っているぷるんくんはぷるんと身を揺らした。
そしたら、大きな球状の透明な幕がぷるんくんと二匹のモンスターを包み込む。
あれは防御幕だ。
一体何をするつもりだろう。
と、思っていたら、
光るぷるんくんはもっと明るく光り始める。
「うう……すごい光り……」
まるで太陽を見ているかのような感覚だ。
俺は目を瞑って手で目を隠す。
どれくらい経ったんだろう。
光の明るさが減るのを感じる頃に俺は目を開けた。
するとそこには、
「……」
「……」
こんがり焼きあがったダンジョン大タコとダンジョン大カジキがいた。
まさか、核融合で焼いたのか。
でも、匂いからしてあんまりおいしくなさそうだ。
あれをぷるんくんに食べさせるのは気が引ける。
俺が口をぽかんと開けていたら、誰かが俺の首に鋭くて硬い何かを突きつける。
「っ!」
ダンジョンタラバガニだ。
「ギュウウ〜ギュウウ〜ギュギュ〜」
ダンジョンタラバガニは光るぷるんくんに犯罪者面をしている。
ダンジョンタラバガニのハサミによって身動きが取れない俺。
片方の足についているハサミを力強く動かすダンジョンタラバガニ。
下手な真似をしたらただじゃ済まないぞと無言の圧力をかけているようだ。
思いっきり煽るような顔をするタラバガニを見る光るぷるんくん。
ぷるんくんは
「ぷる……」
ブルブルと体を震わせ、殺意のこもった視線をダンジョンタラバガニに向ける。
葛西のやつに向けた視線と同じだ。
俺を守るために向ける殺意。
ぷるんくんは俺を傷つけようとする対象に怒りを露わにしている。
俺は守られているのだ。
そして、俺はぷるんくんのたった一人の主人だ。
俺を襲っていた恐怖はいつの間にかなくなり、残るは
ぷるんくんへの信頼のみ。
「ぷるんくん!いけええええええ!!!!!傷付けずにこいつを倒すんだ!!200万円を稼ぐぞおおおおお!!!!!!」
そう。
ぷるんくんならできる。
ぷるんくんは最強スライムだああああ!!
最強スライムの主人らしく、俺も堂々としていればいいんだああああああああ!!
俺はぷるんくんを真っ直ぐ見つめる。
すると、ぷるんくんの後ろから濃い紫色が現れた。
それと同時に
「ギュッ」
ダンジョンタラバガニが突然仰向けになり泡を吹く。
「こ、これは……」
間違い。
葛西の連中を倒した究極のスキル!!
ーーーー
死神の恐怖(100%のうち0.1%使用)
説明:上位SSランクの死神が使える恐怖スキル。死神の恐怖にかかったものは死の恐怖を感じることにより、パニック発作を引き起こす。闇属性の最上位スキル。
ーーーー
葛西の時は0.001%しか使わなかったが、今回は0.1%か。
100%全部使ったら、どうなるんだろう。
そんなことを考えていると、
「ぷるん!」
ぷるんくんが飛び上がった。
そして、手を生えさせ、その手に魔法をかける。
ぷるんくんの手は青い光を帯びる硬い金属になった。
「あの手は!?」
ーーーー
ミスリル化(最上)
説明:体が最上級のミスリルになる。防御魔法に分類されるが、攻撃手段としても有効である
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「ぷるううううううううう!!!!!!」
光るぷるんくんは仰向けになって恐怖を感じるダンジョンタラバガニの方へ真っ直ぐ落ちてくる。
やがてミスリル化したぷるんくんのちっこい手とダンジョンタラバガニのお腹のところが当たる。
外部に傷を与えることなく、内部にダメージをもたらすぷるんくんの一撃。
「ギュイイイイイイイイイイ!!!!!」
ダンジョンタラバガニは断末魔をあげて、ピッタと動きを止める。
「や、やった……ぷるんくん……やったよ!」
「ぷるん!!ぷるんぷるん!!」
まだ興奮が収まらない光るぷるんくんは死んだダンジョンタラバガニを見て鼻息を荒くしている。
俺はそんなぷるんくんを持ち上げて、抱き締めながら撫で始めた。
「ぷるんくん。よく頑張った!ありがとう」
核融合のおかげか、ぷるんくんの体は暖かく、前よりもちもちしている。
「ぷる……」
数分間、俺になでなでされたぷるんくんは、次第に落ち着きを取り戻し、目を瞑って俺のなでなでを気持ちよく受け入れてくれた。
ぷるんくんを頭に乗せて、俺は口を開く。
「ぷるんくん、こいつを持って、ダンジョン協会へ行こう!今日は美味しいものいっぱい食べさせてやるからな!」
上を見て言うと、ぷるんくんが嬉しそうに体をブルブルさせて
「んんんん!!!!!!」
喜んでくれた。
もうすぐ200万円が手に入るわけだし、今日は豪勢な食事を提供できそうだ。
またぷるんくんの幸せな表情が見れる。
俺は口角を吊り上げて、収納ボックスにダンジョンタラバガニを入れる。
そしてこのダンジョンを後にした。
それからぷるんくんを古びた自転車の前かごに入れて必死に走った。
時間は午後4時30分。
ここ玉川上水から立川までは30分ほどかかる。
しまる前に早く高原さんのところへ行こう。
X X X
日本ダンジョン協会立川支部
午後4時58分。
営業終了するのは午後5時だからなんとか間に合ったな。
中に入いると、人は二人しかいない。
受付係の高原さんと板前の辰巳さんだ。
辰巳さん、まだ帰ってきてないんだな。
俺は感情を抑え切れずに走りながら叫ぶ。
「高原さん!辰巳さん!持ってきましたよ!ダンジョンタラバガニ!!」
「「な、なに!?!?」」
俺は二人の前にやってきて早速収納でダンジョンタラバガニを出した。
「う、臼倉、お前、収納も使えるのか!?」
「まあ、今はダンジョンタラバガニの方が重要ですから!ほら、見てください!」
俺がダンジョンタラバガニを全部出すと今度は辰巳さんがびっくり仰天。
「こ、これは!!!!間違いなくダンジョンタラバガニだ!!!!!」
目を丸くして、ダンジョンタラバガニを触りながら感動する辰巳さん。
「臼倉くん、本当に持ってきてくれたね……私……嬉しすぎて……嬉しすぎて……やっとあの方に恩返しができる……本当にありがとな。臼倉くん!」
「あはは……いいえ、報酬をもらうためにやったようなもので……」
「そうだけど、臼倉くんは報酬以上の働きをしてくれた」
辰巳さんは頑是ない表情で俺を見つめる。
うん。
確かに微笑ましい光景だけど何かが欠けている気がする。
そう。
この会話にはぷるんくんの存在がない!
「ダンジョンタラバガニをやっつけたのは他ならぬぷるんくんですよ!」
俺は頭にいるぷるんくんを両手で抱えて二人に見せつけた。
ぷるんくんは目力を込め、ドヤ顔を浮かべている。
「おほほほ、臼倉くんはそのぷるんくんのことをとても大事にしているんだね」
「はい!ぷるんくんはぷるんぷるんしてて強くて可愛いですから!それに、俺はぷるんくんにずっと助けられっぱなしですし……」
俺が俯いて言うと、高原さんが大声で言う。
「助けられて当たり前だろ。臼倉はそのスライムくんの主人だ。強いモンスターは自分と同じか、それ以上強さを持つテイマーじゃないと決してテイムされない」
「そ、そうですか……」
「ああ」
なぜか励まされた気分だ。
心が温くなっていく感じだ。
ぷるんくんはというと、
「……」
ダンジョンタラバガニをじっと見つめている。
俺は喜んでいる辰巳さんに問う。
「ところで、ダンジョンタラバガニってそんなに美味しいですか?」
問われた辰巳さんは、目を輝かせながら熱弁を振るう。
「もちろんだとも!肉は弾力があるけど、口に入れた瞬間ほろりと舌の上で溶けて実に上品で芳醇な香りを残して、数え切れないほどの美食家たちの心をヤキモキさせてきたくらいだよ。蒸して食べるのもよし。茶碗蒸しに入れるのもよし、生で食べるのもよし、寿司のネタとして食べるのもよし。ああ……この最上級食材で料理ができるなんて……料理人としてこの上ない光栄だよ!」
嬉々としながら話す辰巳さんを見るぷるんくん。
俺の両手で捕まっているぷるんくんは
「ぷりゅううう……」
黄色い涎を垂らしながらダンジョンタラバガニと辰巳さんを交互に見ている。
ぐううううううう
加えてぷるんくんのお腹が鳴った。
時間的にそろそろ夕食を食べる頃合いだ。
ぷるんくん……
本当に物欲しそうにダンジョンタラバガニを見つめている……
うん。
よし。
お金は今日みたいにもっと稼げばいいんだ!
「あの……辰巳さん」
「ん?」
「そのダンジョンタラバガニ、半分譲っていただけませんか?報酬は100万でいいんで」
「おお……別に構わないけど、半分でも結構な量だからね。日持ちも悪いし、一体どこに使うつまり?」
「えっと、全部ぷるんくんにあげたいです。この子めっちゃ大食いでして……あれでも少ないですよ」
「ほお……そうかい」
辰巳さんは考える仕草を見せる。
だけど、やがてにっこり笑顔で俺に言う。
「じゃ、私の料亭に来ないか?ダンジョンタラバガニを無料で料理してあげる。それと、他の料理もご馳走するよ」
「え?い、いいですか?」
「ああ。いいですとも。君には資格がある」
おお……
俺、銀座の料亭に行くの?
寿司のチェーン店とかお肉の食べ放題も割引クーポンがないと行くのを躊躇う俺なんかが……高い店で料理食べていいの?
夢じゃないよね?
と、思っていると
ふと、高原さんのことが脳裏をよぎった。
「あ、あの!辰巳さん」
「なんだい?」
「高原さんと一緒に行っていいですか?」
「え!?俺!?!?!?!」
高原さんは禿頭を光らせ、自分自身を指差した。
「時間大丈夫じゃないなら、すみません」
「い、いや!全然いけるし!全っ然行けるよ!!!俺、全っ然!!!暇だし!!!」
高原さんは息巻いて言うけど、語彙が少なくなった。
「高原くんは常連だからいいけど、なんで一緒に行きたいか言ってくれたかね?」
と、真面目な表情で俺に訊ねる辰巳さん。
なので、俺は自分の気持ちをそのまま笑顔で伝えた。
「こんな俺に、優しくしてくれましたので」
俺の面持ちを見た辰巳さんは、お年寄り独特の明るい笑顔で、
「おほほほ、それが理由か。ならよろしい。さあ、私の料亭へ行きましょう」
と言うわけで、俺、ぷるんくん、高原さん、辰巳さんは辰巳さんが経営する銀座の料亭へと向かった。
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