第22話 光るぷるんくん

 俺は高原さんと辰巳さんからダンジョンタラバガニに関する詳しい情報を聞くことが出来た。


 俺が今向かっている玉川上水の近くにあるAランクのダンジョンには塩分を含んだ水溜りや小さな湖があって、強力な水中モンスターが潜んでいるそうだ。


 攻略することが非常に難しい部類のダンジョンだと高原さんが言ってくれた。


 あと、肝心なダンジョンタラバガニのことだが、


 ダンジョンタラバガニはAランクのモンスターではあるが、ボス級のモンスターではないそうだ。


 大きさは3メートルほどで決して大きいわけではないけど、逃げることに長けていて、なおかつ探索者を煽ることを好むらしい。


 聞くだけでもすごく嫌な感じのモンスターだ。


 だが、肉の味は美食家たちが舌を巻くほど非常に良いらしく、もしダンジョンタラバガニが捕まったら、ダンジョン関連の大企業を通じて国会議員や大企業の社長のような偉い人に提供されるらしい。


 そんな貴重すぎる食材を今ぷるんくんと捕まえに行くわけだ。


 それはそうとして、


『臼倉、依頼をこなすのもいいんだけど、お前の体の方が一番大事だからよ。もし危なそうだったら早速リタイアしろよ。誰もお前を責めたりしないから』


 本当に高原さん、見た目の割に優しいよな。


 いい人だ。


 俺も高原さんみたいに心遣いできる人間になりたい。


 日本ダンジョン協会立川支店を出た俺は古びた自転車を必死に漕いて玉川上水の横を走る。


 ていうか、ここって俺の家の近くだから割と詳しいはずなのにAランクのダンジョンが出来たのか。


 灯台もと暗しとはよく言ったものだ。


 まあ、玉川上水はめっちゃ長いんだからな。


 俺は高原さんが送ってくれた地図を見ながら走る。


 前かご収まっている黄色いぷるんくんは緑溢れる道や歩く人々や通り過ぎるバスを見ている。


 やがて、ダンジョンについた俺たち。


 早速中に入ろうとしたら


「クッソ!タラバガニめ!逃げるのうますぎだろ!」

「他のモンスターも強すぎるし、何よりムカつく!!!諦めるしかないよ。もう今日で最後だし」

「報酬が高いのには理由があるってわけさ。でも悔しい!俺たち、Aランクの探索者なのによ!やっぱり水が多いと難易度が跳ね上がるから嫌なんだよな」


 どう見ても強そうな、男二人女一人のグループが不満げに言いながら出ていく姿が見えた。


 Aランクの探索者が三人。

 

 つまり、あの人たちは超エリートたちだ。


 対して俺はFランクの最弱探索者。


 ため息をついて下を向くと、ぷるんくんと目があった。


「ぷるん!」


 そうだ。


 俺にはぷるんくんがいる!

 

「行こう!ぷるんくん!」

「ぷるるるん!」


 ぷるんくんは自信満々に答えてくれた。


 まるで、『主人いい心配するなああああ』と言っている気がした。


 エリート探索者三人を見過ごしてから、俺はぷるんくんに防御膜と殺身成仁をかけてもらってからダンジョンに入った。


「うわあ……真っ暗だ。これじゃ前に進めないや……」


 ここは以前行ったことのあるBランクとSSランクのダンジョンと違って、全然光がない。


 俺が戸惑っていると、横のいるぷるんくんが「ぷるっ!」と何か思いついたらしく、体をぷるんぷるんさせた。


「ぷるるるるるるるる……」


 ぷるんくんの体が光り始める。


「おお……」


 ぷるんくんの体にある白い光にだんだん明るさが増し加わり、このダンジョンを照らす。


 ぷるんくんが眩しい……


 見つめられないほどぷるんくんが眩しい……


 まるで野球球場のライトばりに明るいぷるんくん。


 一体どんなスキルを使ったんだろう。


 俺は気になって鑑定を使ってみた。


ーーーー


核融合

説明:体を原子レベルで極限状態にして核融合し、熱と光エネルギーを発生させることができる。使うためには、土、水、闇、光属性が必要な複合スキル


ーーーー


「ぷるんくんが核融合したあああ!?!?」

「ぷるん!!」

「いや!ぷるんくん!そこまでしなくていいから!」

「ぷるるるんん!!」


 とても明るく光るぷるんくんは、嬉しそうにぴょんぴょん飛びながら走り回る。

 

 体を原子レベルで極限状態にしたら、おそらく体に相当負担がかかるはずだ。


 これは心配だ。


 なので、俺はぷるんくんのステータスを見るべく、また鑑定を使う。


ーーーー


名前:ぷるんくん

レベル:777

年齢:6歳

HP:300,000/300,000

MP:699,800/700,000

属性:全属性(水、土、火、風、雷、闇、光、無)


称号

最強スライム、ダンジョンの女神・ノルンの加護を授かりしもの、ダンジョン破壊者、生きる伝説……(もっと見る)


ーーーー


「MPが200しか減ってない……」


 どうやらぷるんくんは無事のようだ。


 俺が安堵すると、ぷるんくん俺の頭の上に乗ってきた。


 これだと、明るすぎるぷるんくんによって、目が悪くなることなく周りがよく見渡せる。

 

 ていうか、ぷるんは核融合しているのに、体は全然熱くない。 


 おそらく威力をだいぶ抑えているのだろう。

 

「にしても、すごい光景だ……」


 内部は鍾乳洞のような形をしており、上から氷柱のような石から水が滴れ落ちている。


 所々水溜りが出来ていて、これは前に進んだら絶対靴が濡れてしまうやつだ。


 濡れるのは嫌だけど、ここにきたからには致し方あるまい。


 もしLEDハンドライトだけだったらとても心細かったはずだ。


 だけど、今はぷるんくんが核融合してくれたおかげで、周りがとても明るく、進むのになんの問題もない。


 ぷるんくんを頭に乗せた俺は、数分間進んだ。


 怖いけど、眩しすぎるモチモチぷるんくんの存在が俺を勇気づける。

 

 ダンジョンタラバガニ、絶対捕まえてやるからよ!


 そう思いながらさらに数分進むと、小さな通路が出てきて、そこを通ったら、広々とした空間が出てきた。


「湖……」


 そう。湖がある。


 そして、湖の外には3メートルほどの大きさのカニがいた。


「ぎゅいいいい〜」


 わけのわからない音を出すカニ。


「まさか……ダンジョンタラバガニ!?」

「ぎゅいいいい〜」


 俺の言葉にカニは頷いた。


 あの形……間違いない。


 あいつはダンジョンタラバガニだ。


 まさか……こんなに早く会えるなんて思いもしなかった。


 よし……このままやつを捕まえて200万円を!


 とドヤ顔をしてぷるんくんに命令を出そうとした瞬間、


「ぎゅいい〜」


 ダンジョンタラバガニは目を細めてハサミを見せつけるように突き出す。

 

 まるで大きな両足で『Fxxk you』をするように、ハサミの形が完全に『凸』だった。


 煽りやがったなこいつ。

 

 若干イラッとした。


 すると、湖の中から巨大なモンスター二匹が現れた。

 

「キイイイ!!」


 10メートルを超えそうなカジキに似た巨大な魚が宙を浮いている。


 あの長くて鋭いツノに当たったらたたじゃ済まされないだろうな。


 そして


「ぷうううううう!!!!」


 15メートルほどの巨大なタコが非常に怒ったような表情で俺たちを睨み、触手を伸ばしていた。


 俺は足が震えてきた。


 そんな俺をみたダンジョンタラバガニはぷすっと嘲笑って湖の中に半分潜って、上から目線で俺たちを観察し始めた。


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