第21話 ダンジョンタラバガニ

日本ダンジョン協会立川支部


「へくち!!」

「ぷるっ!?」


 思わぬ俺のくしゃみに俺も、俺の頭に乗っているぷるんくんもびっくりした。

 

 ここは日本ダンジョン協会立川支部。


 牛丼屋さんで軽めの昼食(それでもすごい量だが)を済ませて俺はまたここへやってきた。


 所持金が8万円しかない。

 

 1日でも依頼をこなさないとぷるんくんの食費によってやばいことになってしまう。


 万病治癒の花を手に入れるために結構お金を使ったし、まる二日全然稼げなかったしな。


 秋月さんに恩返しができたわけだし、彼女の母の重い病気も治ったわけだから決して後悔はしない。


 だけど、貧乏なのは嫌だ!!


 なので今日は昨日と一昨日の分も含めて頑張るぞ!!


 そう心の中で叫ぶと、俺の気持ちを察したぷるんくんがぷるっと体を揺らしてドヤ顔をする。


「えっと、まずはonstarを開いて、立川支部の公式アカウントをだな……」


 この前、ここで案内係をしている実にヤクザっぽい高原さんが、立川支部の公式アカウントにはお得な情報が多いって言ってた。


 なので、歩きながらスマホをいじっていると、


『急募!誰でもできるCランクダンジョンでのお仕事!魔石を採取していっぱい稼ぐ!』


 うん……


 Cランクの採取依頼か……


 詳細を見ると、あまり魅力がない。

 

 この前受けた上級マナ草の方がマシだ。


 まあ、別にやることがなかったら、それを受けるんだけどな。

 

「もうちょっと稼げるやつとかないかな……」


 画面を動かすと、採取依頼ではなく討伐依頼のポスターが出てきた。


 討伐依頼。


 ポスターに書かれたその文字を見るだけで、俺は胸が高鳴った。


 昔の俺はFランクのゴブリンさえもまともに倒せなかった身だ。


 だけど、今はぷるんくんがいる。


 安全な採取依頼より、討伐依頼を受けるのもありっちゃありだ。


 そう考えた俺は、あるポスターを発見する。


『ダンジョンタラバガニを倒してくれ!!200万円あげる!!』


「に、200万円!?」


 す、すごい……

 

 200万は約一ヶ月分のぷるんくんの食事代だ。


 あのダンジョンタラバガニを倒して持ってくるだけで200万か……


 俺は早速高原さんがいる案内デスクの方へ走った。


「おう、臼倉か!こんにちは」

「高原さん!こんにちは!」


 禿頭に顔には傷跡、そして髭が生えた彼は俺を見るなり挨拶をしてくれた。


 どう見てもヤクザだ。


 でも、俺は怯えない。


 200万円が俺を待っている!


「ダンジョンタラバガニの討伐依頼を受けたいんですけど!!」

「ダンジョンタラバガニか……」


 だが高原さんは困ったような表情を浮かべる。


「いや、別に止めはしないけど、相当難しいぞ」

「え?なんでですか?」

「ダンジョンタラバガニは玉川上水近辺に出来たAランクのダンジョンにいるモンスターだけど、滅多に姿を現さないし、周りに強いモンスター多いしで全部失敗するんだよな」

「なるほど……」

「まあ、個人的にはダンジョンタラバガニを捕まえてくれる人が現れてほしけどな」


 そう言って、高原さんは待合室に座っている年老いた板前の服装をしている人を見る。


 俺も釣られる形でその年老いた板前さんを見たら、


 ばったり目があった。


 高原さんはちょいちょいと板前さんを見て手招く。


 そして俺に板前さんを紹介する。


「紹介するぜ!こちらは銀座で料亭を構えている辰巳茂雄さんだ。タラバガニの討伐依頼を出した人だよ。俺はここの常連だ!まあ、毎月一回しかいけないんだが」

「は、初めまして……俺は臼倉大志と申します」


 金座で料亭だなんて……一生俺と縁のなさそうな人だ……


「おほほほ、若い探索者さんですな」


 辰巳さんは俺とぷるんくんを見てから微笑む。


 明るく柔らかい感じの老人だが、貫禄がある。


「オヤジ、臼倉がダンジョンタラバガニの依頼に興味あるってよ」

「おお……そうかい」

「ちなみに臼倉くんとあのスライムくんは強いぜ!なんならBランクのダンジョンをあっという間に攻略したくらいだしな」

「Bランクのダンジョンを簡単に攻略だとな!?」

「ああ!間違いないぜ!」


 辰巳さんは俺の顔を見て口を半開きにしてから突然、両手で俺の右手を握る。


「頼む。ダンジョンタラバガニを持ってきてくれないか……」

「は、はい?」

「いきなり頼まれて困っていることは知っておる。でも、私にはどうしてもあれが必要だ……」

「なんでですか?」

「実は長年、大変世話になっている方がいらっしゃってね……その方はビジネスのために、海外に行かれて数年間、日本に帰ってこないんだよ」

「はい……」

「その方がどうしても海外に行く前に日本のダンジョンタラバガニが食べたいとおっしゃってね……でも、いくら依頼を出してもクリアできる人は現れない」

「なるほど」

「最後にいい思い出をと思ったけど、願いは叶わなかったな。悪い。単なる耄碌ジジイの戯言だと思ってくれ。もう遅いからな……明日空港に行かれるんだよ」


 辰巳さんは俺の手を離して落ち込む。


「……」


 ジジイの事情を知ってしまったからには、知らないふりをするのも癪だ。


 何より、


 依頼を達成したら200万円だああああああ!!!!

 

 俺はぷるんくんを養う義務がある。

  

 そのためにはお金がいるんだよおおおお!!


 失敗したら上級マナ草を採取すればいい。


 やってみる価値はある!


 俺は辰巳さんの両手を自分の両手で握って高原さんを見て、言う。


「俺、やります!!!!」

「ぷるん!!!」

 

 気のせいかもしれないけど、ぷるんくんが『私もやるうううう!!!』と言っている気がした。






追記


ダンジョンタラバガニは美味しいです

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