第17話 ツノが生えた女性
「ぷるんくん!テント張るの手伝って!」
「ぷるん!」
テントを貼り、
「ぷるんくん!火起こしするの手伝って!」
「ぷるるん!」
ぷるんくんに火を吹いてもらい
「ぷるんくん!キングバッファローを捌いてくれ!もも肉で一口サイズに切ってもらえる?」
「ぷるるるん!」
ぷるんくんの超音波カッティングでキングバッファロー肉を捌いてもらったりと。
ぷるんくんが肉を切っている間に俺は収納ボックスから食材やらまな板やら、業務用スーパーで買るでかい鍋やらを取り出して下準備を進める。
玉ねぎはくし形に切り、皮を向いたじゃがいもは大きめの一口大に切り、にんじんも適当に切っておく。ブロッコリーは食べやすいように分ける。
一通り終わると、ぷるんくんが俺の足を突いてきた。
「おお、ぷるんくん、全部切ったの?」
「ぷるっ!」
ぷるんくんは自信満々に俺を見てドヤ顔をする。
なので俺は肉のある方へ視線を向けると、
堆く積まれたキングバッファローモモ肉。
「おお……すごい量だな……まさか、全部食べる気?」
「ぷるん!!」
どうやらぷるんくんは『今日はいっぱい動いたからたくさん食べるううう』と言っているようだ。
俺は諦念めいた表情をしたのち、気合を入れた。
「よーし!今日はぷるんくんのために頑張ろうか!」
俺は肉に塩と胡椒を丸ごと入れて下味をつけた。
肉に量が多いため、容器に入っている塩と胡椒は使い切りタイプと化してしまった。
いっぱい持ってきて正解だったな。
あとは大きな鍋にバターを敷いてキングバッファローの肉を強火で焼く。
それからあらかじめ切っておいた玉ねぎとニンニクを加え、白ワインと水を入れ蓋をして煮込む。
香ばしい香りが出てきたら、じゃがいも、デミグラスソース、トマトケチャップを入れ、弱火で20分くらいかき混ぜながら、じゃがいもがやわらかくなるまで煮込む。
「ぷるん……」
俺が大きな寸胴鍋をヘラでかき混ぜていたら、ぷるんくんが俺の頭の上に登ってきて欲しそうに「んん!」、「んんんん!」と音を出した。
「ごめんよ。シチューは意外と時間がかかるな。でも大丈夫。もうすぐ出来上がりだよ」
木炭が幽玄な橙色の光を放ち、この神殿っぽいところは香ばしい匂いで満ち満ちている。
最後にブロッコリーを入れ出来上がったシチューを俺には小さな丼に、ぷるんくには巨大なステンレス製のボウルによそって
「お待たせ!いっぱい作ったから食べまくるぞ!いただきます!」
「ぷる!」
ぷるんくんは巨大なステンレス製のボウルに入っているシチューを1秒で完食した。
「んんんんんんんんんんん!!!」
ぷるんくんはぷるんぷるんと身震いしながら喜んでいた。
「おかわりいるだろ?皿くれよ」
俺の言葉にぷるんくんの目は『^^』に変わって、笑いながら俺に皿を渡した。
こんな感じでシチューを食べまくっていく俺たち。
途中、肉が足りなくなったら、追加分を入れ、野菜が足りないなら野菜も入れる。
徐々に減ってゆくシチュー。
ちょっと気になるのは、俺たちがシチューを美味しく食べるたびに、神殿の奥から謎の声が聞こえた気がした点。
俺はちょっと不安そうに聞いていると、ぷるんくんは『大丈夫!問題なし』とドヤ顔をしてシチューを食べた。
やがて
「ぷりゅ……」
食べ終わったぷるんくんは大変満足そうにくつろいでいる。
俺は近くの水辺で食器などを洗い、収納ボックスに入れてからテントに入って横になった。
「はあ……今日は本当に疲れたな……」
と、俺が苦笑いしたら、ぷるんくんもテントの中に入って、俺のお腹の上に登ってきた。
ぷるんくんは微笑んで俺を見つめていた。
ダンジョンでのぷるんくん。
俺は罪悪感を感じた。
だから俺のお腹の上にいるぷるんくんをなでなでしながら口を開く。
「ぷるんくんはずっとここで過ごしてきたよね?」
ぷるんくんは無言のまま頷いた。
「キングバッファローみたいな強いモンスターがいるここで、よくも生き延びたな……」
俺は深々とため息をつく。
「はあ……ごめんよぷるんくん。俺が君をここに戻したからぷるんくんは辛い思いをしたんだよね。加えて俺は最弱のままだ……」
と、言って俺はぷるんくんの目の横についた古い十字傷を優しく触る。
そしたら、ぷるんくんは一瞬体をひくつかせたが、目を瞑って俺の手を受け入れた。
触り心地はもちもちしたマシュマロそのものだが、俺はぷるんくんの古傷を触るたびに、申し訳ない気持ちになる。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ぷるんくんは俺のお腹で平伏す姿勢を取る。
とても烏滸がましいかもしれないが、『そんな主人でも私はいいいいいい』と言っている気がして、俺の心が熱くなった。
「ううう……ぷるんくん!!!」
俺はぷるんくんを強く抱きしめた。
「これからいっぱい美味しいものを食べて、いろんなところを旅して、お金もいっぱい稼いで幸せになろうな!!絶対な!!」
ぷるんくんがいてくれたおかげで、俺はこうやって秋月さんを助けている。
ぷるんくんがいてくれたおかげで、俺は葛西の連中のいじめから解放された。
ぷるんくんがいてくれたおかげで、灰色だった俺の人生に彩りが加わった。
「こんな俺だけど、これからもよろしくな。ぷるんくん」
「ぷるん!」
ぷるんくんは日本語が喋れない。
だけど、今日ここで、SSランクのダンジョンの奥深いところで、
俺とぷるんくんは深く繋がった気がした。
X X X
翌日
どれくらい経ったんだろう。
太陽がないからあまり知らないけど、スッキリしているわけだし結構寝たはずだ。
俺は目をこずって目を開ける。
そしたら、人の手のサイズの綺麗な花を咥えたぷるんくんが俺のお腹の上にいる。
「おはようぷるんくん。ってなんだその花は?……」
俺が問うと、ぷるんくんはふにゃふにゃ状態になったり元気な姿になったりと、忙しない。
待てよ。
この反応……
俺は早速ぷるんくんが咥えている綺麗な花に鑑定を使ってみることにした。
ーーーー
万病治療の花
説明:ありとあらゆる病気を一回治す効果がある。
ーーーー
「ま、マジかよ。俺が寝ている間に採ってきてくれたの?」
「ぷるん!!」
ぷるんくんは頷いた。
「やった!!ありがとう!!早くこれを秋月さんのところへ!」
俺は花を咥えたぷるんくんを頭に乗せてテントを収納ボックスの中に入れた。
「行こうね!ぷるんくん!」
「ぷる……」
「ん?どうした?」
ぷるんはなぜか名残惜しそうに神殿の中を見つめる。
数秒間見つめたのち、ぷるんくんはため息をついて俺の上から降りて外目掛けて移動し始める。
俺は若干不思議そうに小首を傾げたが、ぷるんくんについて行くことにした。
とある存在のside
去っていくぷるんくんと臼倉の後ろ姿を見て、神殿の中からツノの生えた女性が目を潤ませた。
「うう……私もシチューというものを食べたかった……ちびっ子スライムの誘いに乗るべきだったな……ううう……私、こんな性格だから……」
舌鼓を打つその綺麗な女性は残念そうにため息をつくが、やがて笑顔になり、呟く。
「ふふふ、でも、ちびっ子スライムくんがいい主人に出会えてよかった。ずっと寂しい想いをしていたからね。そんな暗い気持ちを抱えながら強くなろうとひたむきに頑張ってきたちびっ子スライムくんのことを私はよく知っている」
女性は名残惜しそうにまた言う。
「久々にちびっ子スライムくんに会えてよかった」
女性は踵を返して神殿の奥に入る。
「私に万病治癒の花をくれとお願いしたときのちびっ子スライムくん、とってもイキイキしてて必死で幸せそうな顔だったね。昔とは大違い」
追記
次回は秋月とその家族も登場です!
星とハートお願いします!
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