第16話 轟音の正体
キングバッファローは地面を引っ掻いて今にも飛び出しそうな表情をしている。
あの巨大な曲がったツノにぶつかったら命が何個あっても足りないだろう。
前足にはボディービルダーばりにムキムキした筋肉がついていてとてつもなく強そうだ。
「ぷるっ!」
ぷるんくんは俺を守るためか、キングバッファローの前に立って睨みを効かせる。
25メートルを軽く超えそうな巨体と40センチほどの小さなモチモチしたぷるんくん。
側から見ればぷるんくんは小さいから見えもしないであろう。
それほど大きさで圧倒的に負けている。
だが、
ぷるんくんは強い!!
「ムオオオオオオオ!!!」
キングバッファローはぷるんくんじゃなくて、俺を目がけて走ってきた。
なぜ俺を狙っているんだろう。
もしかして、6年前に俺をやっつけられなかったことでいまだに根に持っているというのか。
だとしたらなかなか執念深いやつだ。
あんな巨体が俺に突っ込んでくるなんて……
まるで10トントラックを遥かに凌駕する存在感だ。
俺が 困っていると、ぷるんくんが体をぷるんと揺らしてスキルを使う。
「ぶる……」
すると、俺の前に大きな透明な壁が出来上がった。
おそらく防御膜なのだろう。
それと同時にキングバッファローのツノがその壁に当たってしまう。
「ムオオ!ムオオオオオオ!!!」
キングバッファローは壁に邪魔されたことで非常に腹を立てて地団駄を踏みながら防御膜を壊そうとツノで力強く防御膜を突く。
「すごい臨場感だ……」
ツノが防御膜にぶつかることによって生じる音と衝撃波はまるで俺の体をドンキで殴るような衝撃をもたらす。
数十秒間ぷるんくんが張った防御膜を攻撃したが、失敗したキングバッファローは後ろに下がる。
降参するのか。
そう思ったのも束の間。
いきなりキングバッファローの足とツノが赤く光り出した。
「もしかして、ハイスピードと一撃必殺を使うつもりか!」
「ぷるん!」
俺が言うと、ぷるんが『そうだよ!』と言っている気がした。
案の定、キングバッファローはさっきとは比べ物にならないほどのスピードで走ってきては、赤く光るツノで俺の前に走ってきた。
カーン!!
凄まじい音が響き渡る。
ぷるんくんが張ってくれた防御膜に微かにヒビが入った。
「う、うそ……」
俺が戸惑うと、ぷるんくんは何かを決心したかのように高く飛び上がった。
「ぷるるるっ!!」
そして、葛西のやつに向けていた殺気と同じ類の殺気をキングバッファローに向けながら、
口を大きく開けた。
「ぷあああああああ!!!!」
ぷるんくんにお口からは自分の体と同じ黄色いゼリーみたいなものが放たれた。
そのゼリーはやがて凄まじい速度でキングバッファローの頭に命中した。
「むっ!」
キングバッファローの頭は一瞬にして地面に埋まってしまった。
突き刺さったと言った方が正しいかもしれない。
それと同時に、まるで核爆弾を彷彿とさせる轟音がこのあたりを包み込んだ。
幸い、防御膜がある程度音を防いでくれたので、俺の耳は大丈夫だが、俺はぷるんくん攻撃があまりにもえげつなかったので、口をぽかんと開けてしまった。
間違いない。
あれはスライム大砲(最上)だ。
これで倒したのかと思いきや、キングバッファローは痙攣しながら地面に突き刺さっている自分の頭を辛うじて抜いた。
「むううう……」
さっきまでの威勢の良さは鳴りを潜め、震え上がっている。
そんなキングバッファローを見て、ぷるんくんは俺の足元にやってきて、平伏した。
まるで『この人が私の主人いいいい!!』と主張するような動きだった。
「ぷるんくん……」
俺は申し訳ない気持ちをなんとか我慢しながらキングバッファローを見つめる。
すると、ついさっきまで俺を殺そうと躍起になっていたキングバッファローは俺を見て怖気ついて後ろに下がる。
「ムウウウウウウ!!」
キングバッファローは逃げようとした。
俺はそんなキングバッファローの後ろ姿を見て、
「ぷるんくん」
「ん?」
「今日の夕食はキングバッファローの肉をふんだんに使ったビーフシチューだああ!!!」
「んん?」
ぷるんくんは俺の言葉が理解できなかったらしく小首をかしげる。
なので、俺はぷるんくんを見てドヤ顔をして
「ビーフシチュはめっちゃ美味しい料理だよ」
「ぷるるるるるん!!!」
ぷるんくんは興奮しながらキングバッファローを睨んで体をぷるっと振る。
そしたら、キングバッファローの上に雲ができて、
夥しい量の稲妻がけたたましい音を伴い落ちてきた。
「ムウウウウウウウウウ!!!!!!!!」
キングバッファローは断末魔を上げて倒れてしまった。
荒れ狂う裁きの稲妻。
葛西のちっぽけな雷スキルが赤ちゃんレベルのように見えるほどの威力に俺は驚く。
俺、こんなに強いスライムの主人だな。
X X X
キングバッファローを収納ボックスに入れて俺とぷるんくんはひたすら歩き続けた。
途中で、つよつよモンスターたちが現れて俺たちを威嚇したが、ぷるんくんを見て、奴らは下がってくれた。
過去に因縁のある気性が荒いキングバッファローとは違って他のモンスターたちはぷるんくんの強さをよく知っているような様子だった。
そしてぷるんくんが途中でお腹が空いたら、
「ほら、菓子パンだよ」
「んんんんんん!!!」
またお腹が減ったら
「今回はいつもと違う菓子パンだけど、いけるか?」
「もぐもぐ……んんんんんん!!!」
「めっちゃ喜んでるし……俺もちょっと食べようかな」
収納ボックスから菓子パンを取り出して少しずつぷるんくんに与えた。
そして、また数時間歩くと、道がない閉鎖された空間が現れた。
「あれ?道がない?ぷるんくん?」
俺がぷるんくんに視線で問うとぷるんくんは壁のところに近づき、そのまま壁の中に入った。
「え、え!?ぷるんくんが消えた!?」
俺は当惑して壁の方へ歩き、壁を叩こうとした。
「ぷるんくん!どこいっ!あっ!」
俺は壁を叩くことができなかった。
なぜなら、壁を抜けてしまったからである。
「一体なんなんだ……」
俺は不思議に思いつつ、あたりを見回す。
そしたら、
「こ、これは……」
広々とした空間の中でまるで古代の神殿を彷彿とさせる建物が鎮座していた。
薄暗い中で流れる神々しい雰囲気は逆に気味が悪い。
もしあの神殿の中から何かが出てきて俺の攻撃したりしないのだろうか。
神殿の中は真っ暗だから中に何があるのかは分かりかねる。
逆にそこが怖い。
足が震えてきた。
水滴がぽとぽと落ちる音が俺の毛を逆撫でする気がする。
その瞬間、
ゴオオオオオオオオ!!!
低音の不気味な音が聞こえた。
「ひいいい!!!」
ゴオオオオオオオオオオ!!!!!!!
その音はだんだん大きくなり、俺に凄まじい恐怖を与えた。
「ご、ごめんなさい!!神様!!俺、帰りますから!命だけは……」
俺が跪いて懇願するも、
ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
音はだんだん大きくなり、俺の死を告げているような気分だ。
全身が震えて、パニックになりかけていたら、
俺の足にムニムニした柔らかい感覚が伝わってきた。
「ふえっ!」
びっくり仰天して俺が自分の足に目を見やると、
「ぷるん……」
ぷるんくんがだいぶ落ち込んでいる表情をしていた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
「ぷるんくん、だいぶお腹が空いたんだね」
「ぷるうううう……」
「ここって、モンスターが襲ってきたりしないかな?」
「ぷるっ」
ぷるんくん落ち込んだ表情でサムズアップしてくれた。
「そっか。じゃ、ここで料理、作ってあげるね」
今日はここで泊まることにしよう。
ん……
ちょっと恥ずかしい。
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