第13話 処分
翌日
俺は今、学園長室にきている。
向こうからソファに座っている俺を見つめてくるのは学園長。
白髪が生えている年老いたおじいさんだが、誰も踏み込めないオーラを漂わせている。
俺は緊張しているけど、俺の膝に座っているぷるんくんの柔らかい体に手を乗せてなんとか凌いでいる状況だ。
「ふむ。臼倉くん、よくぞ来てくれた」
「は、はい……」
「一つ理由を聞こうではないか」
「……なんでしょうか」
学園長は深刻そうな顔で自分の髭を触ったのち、俺を見つめて大声で叫ぶ。
「Bランクのダンジョンを一人で攻略できるほど強いのに、なぜ今まで実力を隠してきたんだああああ!!!!!!」
「はい!?」
Bランクのダンジョンを攻略したの昨日なのに、噂広まるの早すぎるだろ……
「君は両親を失ってから貧乏な生活を送っていると聞いた。つまり、君はこの華月高校を試しておったのじゃな!?」
「た、試す!?」
「ああ!そうとも!華月高校の生徒たちが果たして弱いものに対してどのような反応を示すのか……」
「いや……違いますよ!」
学園長はとんでもない誤解をしているようだ。
俺、ぷるんくんに出会う前も出会った後も最弱のFランクなんだけど。
「君が不登校になったことで色々調べていくうちに、秋月くんが私に情報を提供してくれたのだ。君はひどいいじめにあっていたんじゃね」
「秋月さんが……」
「このことがもし外部に漏れたらとんでもないことになる!!」
学園長は顔を赤くして興奮状態になった。
そしてドアのほうを見て、
「早く入りたまえ!!」
と言ったら、ドアが開き、葛西と二人の友達、担任先生が入ってきた。
「え?な、なんで?」
「「申し訳ございませんでした!!」」
「……」
三人は俺に土下座して謝る。
葛西と二人の友達は恐怖に怯えて涙ぐんでいた。
そして、学園長も立ち上がり深く頭を下げる。
「すまぬ。全部私の不手際じゃ」
「い、いや、学園長は別に……」
俺が慌てていると、学園長は担任先生と葛西たちを一瞥したのち俺に話す。
「君をいじめたあの三人とそれを隠蔽した担任先生には相当厳しい処分を下そう。だから学校を辞めるのは考え直してくれないか」
「……いや、俺、もう学校行きたくないんで」
「学校に行きたくないのか……」
「はい」
「君に非はない。全て学校側のミスじゃ。Bランクのダンジョンを攻略できる君を失うのはこの学校においてとてつもなく大きな損失……だから臼倉くんはクラスで授業を受けなくていい」
「え?」
「活動報告書を私に提出しさえすれば、出席、成績を気にする必要はないんじゃ」
「そ、そんなのありですか!?」
「もちろん。私が有能だと認める生徒に限っては活動報告書の提出だけでも事足りる。君は昨日、立川の付近にあるBランクダンジョンを攻略して、上級マナ草を150本も採ったんじゃろ?」
「そうですけど」
「お願い。この学校に留まってくれたまえ。もう二度とこんな不祥事は起きないことを約束する」
「……」
退学する意思を伝えにきたんだが、思いもよらぬ展開だ。
学校に来なくてもいいのか。
どうしよう。
そんなことを思っていると、膝から振動が伝わってくる。
「ぶるる……」
「ぷるんくん?」
ぷるんくんが体を震わせて葛西たちに向けて殺気を放っている。
これはまずい。
恐らくこの前のことを気にしているんだろう。
とりあえずぷるんくんを落ち着かせよう。
なので俺はぷるんくんを抱えて立ち上がる。
「ちょっと考えさせてくださいね。それじゃ」
「う、臼倉くん!ちょっと待つんじゃ!」
学園長が俺を引き止めようとするけど、俺にはぷるんくんを落ち着かせるのが最優先だったため、学園長室を後にした。
廊下を歩く俺。
昼休みを知らせるベルが鳴る。
ここの学食、めっちゃ高いんだよな。
早く家に前って余った食材で何か作ろう。
そんなことを思っていると、
「臼倉くん!!」
「秋月さん!?」
秋月さんが現れた。
彼女は息を弾ませており、どうやら走ってきているみたいだ。
亜麻色の髪、切れ長の目、整った目鼻立ち、恵まれた体。
そしてちょっと気が強いけど、正義感溢れる優しい性格の持ち主だ。
本当に綺麗な女の子だ。
X X X
校内のベンチ
俺は学園長室であったことを包み隠さず秋月さんに言った。
ぷるんくんは俺たちの近くの芝生で日光浴を楽しんでいるところだ。
「めっちゃいいじゃん!!こんなにも早く問題が解決するなんて……」
「あ、ああ。あまり期待してなかったけど」
「じゃ、学校辞めないよね?」
「そ、それはまだ考えてるところだよ」
「学歴は大事。未来を考えるならここを卒業した方がいいよ。報告書だけでいいなら、メリットだらけじゃん!辞めるのは勿体無い!」
「……言われてみれば確かに」
確かに、秋月さんの言う通りだ。
やっぱり自分一人で考えるより、他の人の意見も聞いた方がもっと合理的な選択ができる可能性が高まる。
それにしても、本当にこの子には頭が上がらない。
「あのさ、秋月さん」
「ん?」
「本当にありがとう。秋月さんが学園長に色々言ってくれたおかげで全てがうまく行った」
「当たり前のことをしただけよ!」
「秋月さんらしいな」
「ふふっ何よ!私らしいって」
秋月さんがクスッと笑って俺の肩を突いてくる。
や、やばい……
こんな綺麗な子にボディータッチされるなんて、めっちゃドキドキする。
変なことは考えちゃダメだ。
そう。
滝行をしている時の修行僧の気持ちになれ。
相手は大企業の社長令嬢だ。
「きっと、これからいいことあるよ。臼倉くんにも、私にも」
「っ!」
修行僧になったつもりが、秋月さんの優しい言葉と微笑みのせいで、俺はまたもや心臓がバクバクして落ち着きがなくなった。
その時、
「あ、電話」
と言って秋月さんはスマホを取り出して電話に出る。
「パパ!どうしたの?」
お父さんからの電話か。
どんな人だろう。
大企業の社長やってるからきっと出来る人間だろうな。
そんなことを思いながら秋月さんの顔を見ていたら
秋月さんの表情は
徐々に
徐々に
絶望へと変わって行った。
「う、うそ……ママが……ママが……」
涙を流す秋月さん。
彼女は電話を切って、立ち上がり走り出す。
「秋月さん!」
俺は彼女のことが心配になり、後ろをついていった。
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