第12話 キングワイルドボア丼と担任先生
「ぷるんくん!キングワイルドボア肉の切断よろしく!細切れにして!」
「ぷるん!!」
ぷるんくんは超音波カッティングを使い、俺が収納ボックスから出したキングワイルドボア肉を細かく切ってくれた。
うん。
キングワイルドボアを包丁だけでさばくのってやっぱり無理がある。
なので非常に助かった。
これくらいの肉ならぷるんくんがお腹いっぱいになれる。
今日のメニューは豚丼だ。
なので俺は切っておいた生姜を油を引いたでかいフライパンに入れて炒め、ぷるんくんが切ってくれた肉を入れる。
そして9割ほど焼けた豚肉を取り出して玉ねぎと味醂、酒、砂糖、水などを混ぜたものをいれてぐつぐつ言ってくるまで煮る。
そして肉とピーマンを入れて3分間炒める。
「あとはご飯だな」
お母さんが使っていた炊飯器の様子を見てみる。
蓋を開けたらもくもくと蒸気が上がるほくほくご飯。
いつも一番値段が安い輸入ものを使っていたのだが、今回は栃木県のコシヒカリを使ってみた。
「すごい……美味しいそう」
と、俺が舌鼓を打っていると、ぷるんくんがぴょこんと顔を出した。
「ん……」
どうやらぷるんくんはこの真っ白なご飯が不思議に見えたらしく、じっと見つめている。
「あともうちょっとで出来上がるよ」
と、俺は炊飯器にいるぷるんくんを持ち上げてベッドに戻した。
ぷるんくんは目を『^^』にして数回跳ぶ。
「よし!仕上げと行こうか!」
ご飯を皿に盛ってそこへ肉を乗せる。
ちなみに、ぷるんくんの分は、でかいステンレスのボウルに盛った。
キングワイルドボア丼の出来上がりである。
それをテーブルに持って行き、ぷるんくんを手招く。
「いっぱい食べてね!」
「ぷるるるるるるん!!!」
見るからに美味しそうな匂いとビジュアル。
どうやらぷるんくんも同じことを思ったらしく、ものすごい勢いでボウルに入っているキングワイルドボア丼を一気に吸収した。
そして、
「んんんんんんんんんん!!!!」
ぷるんくんは幸せそうに身震いしながら俺の部屋中を走り回る。
「ぷるんくん、そんなに美味しいの?」
「ぷるるるるるるるん!!!」
ぷるんくんは『美味しいすぎりゅううう!主人いいい』と言っている気がした。
「そんじゃ、いただきます」
箸でキングワイルドボア肉を摘んで口に入れて咀嚼。
「っ!!なにこれ!?めっちゃうまい……うますぎる……」
キングという名がつく割には肉自体は柔らかく全く臭い匂いもしない。
むしろ、すごく上品な肉だ。
噛めば噛むほど肉独特の風味が伝わってきて、もっと欲しくなる味だ。
俺がバイト代をもらった日に買う高めの豚肉とは格が違う。
鑑定では食用だと書いてあったが、もっと具体的な情報が知りたくてググったら、このキングワイルドボア肉は百貨店やお金持ちが通いそうな高級焼肉店でしか味わえないと書いていった。
つまり、貧乏な俺が最上級の食材を使った丼料理を食べているわけだ。
だからぷるんくんがこんなに喜んでいたのか。
走り回ったぷるんくんは自分の空になったステンレスの皿を加えて俺の方へ持ってくる。
どうやらおかわりが欲しいようだ。
「わかった。待っててね。すぐ作るから!」
ぷるんくんの食べっぷりはすごかった。
お寿司屋で約9万円分を平らげるような強者だ。
俺は自分の分を食べるのも忘れて、想像を絶する量のキングワイルドボア丼を作った。
食べ終わったあとは買ってきたケーキを食べながら皿洗いしてお風呂タイム。
水道代が気になり、いつも軽くシャワーをする程度で済ませていたが、今日は久しぶりに湯船に浸かってみた。
「はあ……ぷるんくんも気持ちいい?」
「ぷるうううん」
一緒に入ってきたぷるんくんを追い出すのもあれだから湯船に一緒に浸かったら気持ちよさそうに目を瞑って飄々と漂っている。
これから金になる依頼をたくさん受けよう。
そしてそれらをクリアして、もらった報酬でこんな小さな湯船ではなく、貸切温泉がある旅館などに行って休むのもありだな。
あとは原付の免許でも取ってぷるんくんと日本中を旅しながらダンジョンを攻略するのも良き。
俺は湯船で飄々と漂うぷるんくんを見て、微笑んだ。
こんなちっぽけな俺に幸せをプレゼントしてくれた命の恩人だ。
もう学校なんて知らない。
親と友達はいないけど、俺にはぷるんくんがいる。
でも、
「秋月さん……」
なんで俺の親のこと聞いたんだろう。
そう疑問に思いながら風呂を済ませた。
さっぱりしたぷるんくんと俺は寝るためにベッドへ横になると、
ブーブーブー
携帯が鳴った。
一瞬秋月さんからかかったのかと思ったが、見知らぬ電話番号だ。
俺はちょっと緊張しながら電話に出る。
「もしもし」
「臼倉くん、担任の笹森だ」
「あ、先生」
担任先生がなんでこんな夜分遅くに電話なんてかけてきたんだろう。
この人は葛西たちが俺をいじめるのを見てみぬふりをするやつだから好きじゃない。
「た、たのむ!学校辞めるの、考え直してくれないか!」
なに言ってんだ。
「嫌です。さようなら」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ!」
「なんですか?」
「……学園長が急に明日、君に会いたいとおっしゃってね……」
「学園長……」
おそらく退学について俺に聞きたいことがあるのだろう。
学園長は華月高校で一番偉い人だ。
つまり、他の先生よりあの人に学校を辞める意思をはっきり伝えた方がいいだろう。
「いいですよ。何時に行けばいいですか?」
「それはね……」
俺は担任先生から時間と場所を聞いて、すぐに電話を切った。
書類上はまだ華月高校生だから噂になっていることだろう。
あんな名門校で不登校。
「ぷるんくん」
「ぷる?」
「明日は、学校に行くからね」
「ぷるん!」
ぷるんくんは横になっている俺のお腹にのぼって俺を見つめる。
気のせいかもしれないが、『大丈夫!私がそばにいる』と言っている気がした。
俺はそんなぷるんくんをなでなでして
「おやすみ」
明日は色々と忙しくなりそうだな。
まだ家主さんにも謝ってないし、電気代とか払ってないんだけどな……
やること多すぎ……
とりあえず寝よう。
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