第10話 未知の場所

 ここは名知らぬ草木がいっぱいある。


 まあ、やることは決まっているんだけどな。

 

 上級マナー草を得る最も効率的な方法。


 それは


「鑑定……」


 そう小さく唱えると、目の前には小さな文字が散りばめられているようにいっぱい表示された。


ーーーー


植物の名前:ダンジョンエノコログサ

説明:ダンジョンに生える雑草。食用ではない。穂の部分は普通の猫じゃらしと比べて丈夫。毒はないがまずい。穂の部分を摘んで魔力を流すと光る。ダンジョンの外に出ると光る効果はなくなる。


ーーーー


「ほお、魔力を流すと光るのか」


 俺はダンジョンエノコログサを摘んで、切れた断面を指で抑え、魔力を流し込んだ。


 すると、ダンジョンエノコログサは青い光を放つ。


 そんなに明るいわけではないが、スマホのスラッシュほどの明るさで薄暗いこの道を進むのに十分役に立つ。


「すごい……俺の魔力を吸収して光っているのか……」

 

 俺は属性を持ってないため、スキルが使いない。


 だけど、こうやって自分の魔力によって光るダンジョンエノコログサを見ていたら、俺も無能力者じゃないんだなということがわかる。


 ぷるんくんはそんな俺を見て頷きながら進んだ。


 俺の視野はダンジョンエノコログサという文字で埋め尽くされている。ところどころに変な名前の草があるが、いずれも食用ではなく、価値のないものばかりだ。


 まあ、考えてみれば当たり前か。


 こんな雑草たちを食べれば禿頭に髪の毛が生える効果があれば、すぐに荒野と化すのだろう。


 表示される文字が多すぎて目が痛くなりそうになる頃、大きな木の下に俺が探している『上級マナー草』という文字が見えてきた。


 なので、俺は木下へ行き、上級マナー草の文字が表示されたとこに手を伸ばしてそれを引っこ抜いた。


「おお……これが上級マナ草か」


 見た目自体はヨモギと似ていて、微かに青色の光を帯びている。


 味の方が気になるが、一部を食べたら買い取ってくれそうにないので俺はカバンに上級マナ草を入れた。


「ふう……これで4000円ゲットか」


 と、安堵のため息をついていると、


「あ、あああああああ!!」


 木の上から叫び声が聞こえてきた。


「な、なに?」


 驚いた俺が上を見上げると、木の上から落ちている男の姿が見える。


 結構高いから、地面に落ちたらただじゃ済まないだろう。


 ぷるんくんも男の存在を認識しているようだ。


「ぷるんくん!あの人を助けて!」

「ぷるん!!」


 ぷるんくんは頷いて早速落ちてくる男のところに飛び上がった。

 

 そして、


「ふうううううううううう!!!」


 ぷるんくんは空気を吸い、だんだん大きくなる。


 確かにあれは、クッション(最上)のはず。


 なので俺は早速鑑定を使ってみた。


ーーーー


スキル名:クッション(最上)

説明:攻撃を弾いたり、衝撃を吸収して体の中に取り込むことができる。クッションで魔法攻撃などを体内に取り込んで溶かしを使うことをおすすめ。


ーーーー


 なるほど。要するにトランポリンのような機能と人をダメにするクッションのような機能両方備えているということか。


「あああああっ!」


 男は巨大なぷるんクッションに落ちた。


 やがて地面に落ちたぷるんクッションから男が降りてきた。


「はあ……僕、生きているのか……よかった……」


 と、髪の毛が長い男は安堵のため息をついた。


「大丈夫ですか!?」


 俺は心配になりその男に近づいて話しかけた。


 ところどころ穴が空いているジンズに汚れた白いシャツ。


「ありがとう……」


 ぷるんくんはいつしか小さくなり、俺の頭に登ってきた。


 俺はそんなぷるんくんを優しく撫で撫でする。


「ぷるるるるる」


 ぷるんくんは気持ちよさそうにゴロゴロ言いながらぶるぶる震える。


「そのスライムって、君のものか?」

「はい!ぷるんくんは俺の相棒です!無事でよかったですね!」

「ああ……」

「ところで、なぜ木の上にいたんですか?危ないでしょ?」


 俺の問いに男は困ったように後ろ髪をガシガシ引っ掻くがやがて恥ずかしそうに笑顔を浮かべて口を開いた。


「僕、ニートだから、わざと人が来ない時間帯を狙ってここにきたんだ。あの大木の上には魔石があるから、売ればお金になる……まあ、上級マナ草よりは買い取り価格はとても低いけどな。ちなみに他に人には言わないでくれ。これは僕しか知らないトップシークレットだから。君は僕を救ってくれたから魔石、取っていいよ」

「ま、まあ……他に人に言うつもりはないんですけど……ところでなんで上級マナ草じゃなくて魔石を採取してるんですか?」

「ん……そうだね。最近は上級マナ草の需要が上がってるんでね。他の探索者たちが結構狙ってて数が少ないよ」

「なるほど……少ないか……いっぱい採るつもりだったのに」


 だから鑑定を使っても一個しか見つからなったわけか。


 俺が少しガッカリしていると、ニートお兄さんは何かを思い出したような表情でハッと目を見開いた。


「そういえば、Bランクの探索者パーティーの人たちが未知の場所にある洞窟に行けば結構な数の上級マナ草がいっぱいあるって言ってことを小耳に挟んでたな」

「お、本当ですか!?」

「あ、でも、すっごく強いモンスターが見張ってて、全然歯が立たないって言ってたから、行かない方がいいぞ」


 ニートお兄さんは俺とぷるんくんに心配の視線を向けてくる。


 すると、


 ぷるんくんが俺の頭から降りて、ものすごい勢いでこの茂みの外へと移動する。


「ちょっ!ぷるんくん!どこ行く!?」

「ぷるるるるるるん!!!!!」


 ぷるんくんは興奮した様子のまま消えてしまった。


 俺がぷるんくんの後を追おうとしたが、


 地面が少し揺れた。


「「ん?」」


 俺とニートのお兄さんは互いを見合わせた。


 すると、また地面が揺れた。


 なんぞやと小首を傾げるが、原因はわからないままだ。


 しばし揺れが続く。


 まずはぷるんくんだ。


 一体どこで何をやっているんだろう。


 そう思って、この茂みから抜け出そうとすると、


「ぷるん!!!」


 またぷるんくんがやってきた。


 なので俺はぷるんくんのいるところへやってきてぷるんくんを両手で持ち上げた。


「ぷるんくん、どうした?」

「ぷるるん……ぷるるん……」


 ぷるんくんは若干興奮したように、体を少し震わせた。

 

 やがて俺の両手から抜け出したぷるんくんはぴょんぴょん飛びながら手を生えさせ、ある方向を指差した。


 どうやら『主人、一緒に行こう!』と言っているようだ。


 なので俺が歩き始めると、ぷるんくんも動き出した。


 ニートのお兄さんも流れで一緒についていく。


 「なんだこれは!!!!」


 ニートのお兄さんは目を丸くして固まってしまう。


 それもそのはず。


 Bランクのモンスターが全部倒れているからである。


 ここから見てるだけでも30頭は声超えそうだ。


「一体どういうことだ……」


 ニートのお兄さんが戦慄の表情を浮かべながら俺に聞く。


「あはは……どうやら、ぷるんくんが全部倒しちゃったみたいですね……」

「マジか……それあり得る!?」

「ぷるんくんはぷるんぷるんしてて強いんですから」

「お、おお……」


 ニートのお兄さんは俺とぷるんくんを交互に見て身震いしながらサムズアップした。


 ぷるんくんはとある洞窟みたいな入り口に止まった。


 なんか中に強いボスが潜んでいるような雰囲気を漂わせている。


 やはり俺の予想は的中したようで、洞窟の中から巨大なモンスターが現れた。


「ブイイイイイ!!!!!!」

 

 巨大な猪だ。


 全長15メートルをゆうに超えるこいつを俺はよく知っている。


 キングワイルドボア。


 Bランクの中でもかなり強いモンスターである。

 

 高校の授業の時に聞いた。


「ひいい!!あれ、キングワイルドボアだろ!!早く逃げろ!!」


 ニートのお兄さんが走ってくるキングワイルドボアを見て逃げ出した。


 だが俺は逃げなかった。


 本当の気持ちをいうと、とても怖い。


 だけど、俺には確信があった。


「ぷるんくん!やつを倒すんだ!」

「ぷるん!!」


 洞窟の入り口にいるぷるんくんは俺の声を聞いて飛び上がった。


 キングワイルドボアは相変わらず俺の方に走ってきている。


 薄暗いが、あの巨大な体が俺を跳ねたら一発であの世に行くことは知っている。


 だけど、今はぷるんくんを信じる。


 そう思っていると、空中にいるぷるんくんは体の色が変わる。


 ぷるんくんは白と青を混ぜたような金属の形になって、走ってくるキングワイルドボアの頭の上に物凄い勢いで落ちてきた。


「ぶえええええええええ!!!」


 小さな金属ぷるんくんによって倒れてしまうキングワイルドボア。


 俺は本坊的に鑑定を使った。


ーーーー


スキル名:ミスリル化(最上)

説明:体が最上位のミスリルになる。防御魔法に分類されるが、攻撃手段としても有効である


ーーーー


 俺が倒れたキングワイルドボアを見て驚いていたら、ぷるんくんがキングワイルドボア頭の上でぷるんぷるんと跳ねながら手で洞窟の中を指し示した。


「中に、何かあるのか?あ、まさか」


 さっきのニートお兄さんの言葉が蘇ってきた。


『そういえば、Bランクの探索者パーティーの人たちが未知の場所にある洞窟に行けば結構な数の上級マナ草がいっぱいあるって言ってことを小耳に挟んでたな』


 俺は震える足を何とか落ち着かせて洞窟の中に入った。


 すると


「な、」


 目の前日には上級マナ草がいっぱい生えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る