第9話 Bランクのダンジョン

日本ダンジョン協会立川支部


「あの……」

「はあ?なんだ?」


 俺はぷるんくんをカバンにしまい自転車で日本ダンジョン協会立川支部へ赴き、受付カウンタに来たのだが……


 普通、受付は綺麗なお姉さんがやるものだとばかり思っていたけど、目の前の受付の人はハゲたヤクザっぽいお兄さんである。


 受付のお兄さんは首を動かしてゴキゴキという音を出しながら俺を睨んできた。


 ハゲてるのに髭はある分、余計怖い。


 うん……怖いけど、ちゃんと言わないと俺とぷるんくんは路頭に迷う羽目になるんだ。


 まずはレッドドラゴンの買取を……


 そう思っていると、後ろにある待機室からテレビの音が聴こてきた。


『最近は高校生たちによる上位モンスター強盗事故が多発しておいます。Cラインく以上の探索者がモンスターを狩ってダンジョンを出たら、待ってたと言わんばかりに疲れた探索者を襲って獲物だけを掻っ攫うという稚拙なやり方です。政府はもしランクの低い若者が上位モンスターの買取を願い出た時は徹底的に入手経緯を調べるように日本ダンジョン協会に注意を呼びかけました』


「っ!」


 俺はびっくりした。

 

 最低ランクである俺が最上位モンスターであるレッドドラゴンの買取を依頼するとなると間違いなく疑われるのだろう。


 冷や汗が出てきた。


「ん?」


 受付のやくざっぽいお兄さんは痺れを切らしたようで、腕を組んで俺を睨んでいた。


 とりまレッドドラゴンの買取はなしということにしよう。


 だとしたら


「お金がいっぱいもらえるBランク以上の依頼はありますか……」


 と俺が恐る恐る言うと、やくざっぽいハゲた髭お兄さんはため息をついてやれやれと言わんばかりに話す。


「君、ランクは?」

「……Fです」

「Fランクの探索者がBランクのダンジョン……さて君、炎上を狙うnowtuberだな?」

「ええ?!」

 

 どうやら目の前のお兄さんは俺を配信者だと思っているようだ。


「最近多いんだよな。再生回数を稼ぎたくて、調子に乗って依頼受けてハイランクのダンジョンに突っ込んだけど、モンスターに襲われて行方不明になるちんちくりんが」

「いや!違います!俺、そんな人じゃないんで」

「問題が起きたら、両親とか学校の関係者とかがやってきてさ、責任とれだの、訴えるだの、本当に面倒くさいんだよ。だから諦めてEランクの依頼でも受けろ」

「……」


 Eランクのダンジョンじゃお金がいっぱい稼げない。


 俺はぷるんくんの主人だ。


 ぷるんくんを養う義務があるんだ。


 快適な環境と美味しいものを提供しなければならない!


 そのためにはまず金だ!


 と、俺は拳を握り込んでやくざっぽいお兄さんに言う。


「Eじゃダメです。俺がテイムしたぷるんくんはぷるんぷるんしててすごく強いんで、Bランクダンジョンのモンスターなんか一発で倒せますから!」


 俺の表情を見て受付のお兄さん首を捻る。


「君、テイマーだったか?てか、ぷるん?なんだそれは?」


 その問いを待っていた!


 俺はドヤ顔で素早くカバンのファスナーを開けてぷるんくんを取り出した。


 それから、両手でぷるんくんを掴んで受付のお兄さんに見せつける。


「この子が俺の相棒、ぷるんくんですよ!」

「ぷるん!!」


 ぷるんくんは「私強いいいい」と言わんばかりに思いっきりドヤ顔を浮かべて体を揺らす。


「はあ!?スライム!?」


 受付のお兄さんは目を丸くして驚いた。


「ぷるん!!」


 そんなヤクザっぽいお兄さんに向かってぷるんくんはぷるん!!と体をもう一度揺らす。


「……スライムをテイムしたなんて、聞いたことないぞ……」

「さっきも言いましたけど、ぷるんくんは強いですよ!」

「まあ、確かに普通のスライムよりは強く見えるんだけどよ……」

「じゃ、早速Bランク以上の依頼を!」

「い、いやだから言ったろ。両親と学校……」

「俺、両親もいないし、学校もやめました」

「あ……そうか……」


 俺の言葉にやくざっぽい受付のお兄さんが髭を触りながら困ったように視線を外した。

 

「すまん。俺はどうやら君を誤解したみたいだ」

「い、いいえ……」

「はあ……」 


 やくざっぽいお兄さんは深々とため息をついた。


 ここでタバコまで咥えたら完全にヤクザだな。


 お兄さんは意を決したように顔を顰めて口を開く。


「君に紹介できるBランクの案件が一つある」

「おお……」


 俺は身分証明書をお兄さんに提示した。


X X X


 俺は立川市のとあるBランクダンジョンへ来ている。

 

『ここの近くにある琵琶神社にできたBランクダンジョンで生える上級マナー草を採取する依頼でね』


 要するに薬草を採取するクエストである。


 上級マナー草はスキル使用時に必要な魔力を回復させる効果があり、上級マナー草を濃縮して作った上級マナーカプセルはAやBクラスのダンジョンを攻略する際に必要不可欠なアイテムとして知られている。


 それにしても受付のお兄さん、見た目の割にはいい人だっただ。


『おい、安全な場所が記された地図を送ってやるからよアイン交換しろよ』


 お兄さんはモンスターが出没しない場所が記された地図を俺に送ってくれた。


 そして


『なんかあれば連絡しろよ!絶対な!』


 と言ってヤクザっぽいお兄さんはに外に出ようとする俺にサムズアップしてくれた。


 ちなみにヤクザっぽい受付のお兄さんの名前は高原剛一さんである。


 見るからに強そうな名前だ。


「よし!じゃ、ぷるんくん!上級マナー草を見つけるぞ!」


 俺が闘志を燃やしていると、俺の頭の上に乗っているぷるんくんがぷるんと一回跳ねた。


 上級マナー草の買取値段は一個あたり4000円。


 買取数に上限はなく、いっぱい採れても全部買い取ってくれる。


 本来3000円だが、昨今はダンジョン攻略が盛んに行われているため、需要が高いらしく、上級マナーカプセルを作る大企業などが金を出して買取価格が1000円上がったらしい。


 現在、俺はモンスターが出没しない安全な場所にいる。


 地図を見るに、このBランクダンジョンは大きく分けて三つの区分がある。


 安全な場所、危険な場所、未知の場所。


 危険な場所にはモンスターが出没しており、未知の場所はまだ人が入ったことのない場所である。


 Bランクのダンジョンともなると、モンスター達の戦闘レベルが格段に上がるので、未知の場所が存在する場合もある。


 日本ダンジョン協会が設置したと思われる薄暗い照明が洞窟のようなダンジョンを照らしている。


「安全な場所の中に草とか木がいっぱいある場所があるんだな。まずここを行って見ようか」


 と、俺がスマホの地図を見て歩き始めると、ぷるんくんが俺の頭から降りて俺の隣で歩く。


 安全な場所とはいえ、Bランクのダンジョンだもんな。


 Fランクのゴブリンもろくに倒せなかった俺からしてみれば、流石に緊張してしまう。


 だけど、上級マナー草をいっぱい採れば大金が手に入る。


 10個売れば4万円、20個売れば8万、30個売れば12万。


 所持金800円の俺にはとても魅力的な案件だ。


 そう夢見る俺とぷるんくんは草と樹がいっぱいある場所に到着した。


 そしたら


「ええ!?広すぎるし草多すぎだろ……」

「ぷる……」


 まるで鬱蒼とした茂みを思わせる広々とした場所に、俺はびっくりしてしまった。


 こんなに草が多いとなるとちゃんと見つけられるのだろうか。

 

 

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