第12話 マイカ・アウローラは迷宮を覗いた後に街歩きして、泣いている子どもに遭遇する

探索者ギルド派出所にギルドカードを提示する。


「ギルドカードの確認、終わりましたっ。ギルドカードを提示してもらえると、迷宮で行方不明になったとか、探索者ギルド側で把握できるので助かりますっ」


このNPC女子怖い。私は戦慄した。

ファンタジーVRMMO『アウローラの錬金術師』はゲームで私はプレイヤーなので、迷宮で『生命力』の値が0になって死んでも『死んだことは悪夢だった』ということになり、ゲーム内時間の1日が経過して、主人公は目覚めることができる。

でもNPCは迷宮で死んだら、それで終わりだ。プレイ動画では、迷宮の宝箱に白骨とギルドカードが入っていたり、使い古された装備が入っていたりするのを見たことがある。怖い。

ギルドカードの確認が終わって、考え事をしていたら選択肢が表示された。


『探索者ギルド派出所の受付嬢と会話しますか?』


【選択肢】はい/いいえ


別に話さなくていいです。私は『いいえ』を選んだ。選択肢表示が消える。

迷宮、行ってみよう。覗くだけ。武器とか持ってないし。


迷宮の入り口には軽鎧をつけた、爽やか系でよく見ればかっこいいかも? という男性NPCと、重鎧を身に着けた渋い系の男性NPCが門番をしていた。

門番クエストもあるんだよね。プレイ動画見たから知ってる。

門番クエストは、プレイヤークエストだと、仕事の時間が1時間なんだよね。せっかくゲームしてるのに、好みの門番と時々喋りながらでも、ギルドカード確認してずっと立ってるとか暇だもんね……。

門番クエストに飽きて、途中でやめても探索者ギルドから報酬が貰えなくなるだけで、罰とかは無かった気がする。門番クエストを途中放棄した場合、一緒に働いていた門番NPCとの友好度は下がる。


「ギルドカードを見せてくれ」


迷宮の入り口に立つ私に、軽鎧をつけた門番NPCが呼びかける。

私は素直に、彼にギルドカードを提示した。


「有効なギルドカードだね。名前と性別と年齢も合ってる」


今、私、鑑定されてるっぽい。

そういえば、門番クエストを受けるとNPCは『鑑定の腕輪』を渡されるって攻略情報サイトで見たことがあるような気がする。プレイヤーが『鑑定の腕輪』を借りる場合は金貨1枚の預け金が必要になるみたい。

クエスト完了後、探索者ギルド受付に『鑑定の腕輪』を返すと預け金は返金される。

『鑑定の腕輪』を借りパクするプレイスタイルも、有りと言えば有りだけど、預け金は戻らない上にギルド職員NPC全員の友好度が大幅に下がるという話だ。


提示したギルドカードを収納して、私は迷宮入り口から一歩だけ中に入る。

迷宮入り口は岩壁に囲まれていて、ランプの明かりが揺らめいている。

ランプ系の錬金アイテムが無いと、探索は不便そうだ。


迷宮を覗いて満足したから、次は街を歩いてクエストを探そうかな。

私は迷宮から出て、適当に歩き始めた。

今、私、お金全然持ってないから、錬金の素材もゲットできないんだよね。

武器もないから、今、迷宮に入ってもたぶん死ぬだけだし。

『脚力』の値に極振りして、ゲーム初日から素材採取しまくってたプレイ動画を見たことあるけど、私の今の『脚力』の値は1だから無理。モンスターが出てきたら逃げられずに死ぬ。


私は『いのちだいじに』方針で、のんびりゲームを楽しみたいな。

ゲーム初日に、街歩きで発生するクエストって、スリ遭遇クエストと、あとは……。


「うわああああああああああああん……っ!!」


子どもの泣き声がする。私は泣き声がする方に視線を向け、泣いている子どもに歩み寄った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る