第5話 マイカ・アウローラは母親と双子の兄と別れ、錬金工房に向かう
「マイカ。あなたが錬金術師になるという夢を応援するわ。でも『18歳の誕生日前日』までに、一人前の錬金術師と認められなければアウローラ伯爵家の人間としての義務を果たすのよ」
お母さんが私を見つめ、真剣な顔で言う。私は肯いた。
「マイカ!!」
お兄ちゃんが私に抱き着いてくる。可愛い。
「寂しいよ、マイカ……」
お兄ちゃんは私に抱き着いて言った。ごめんね。でも、主人公が錬金術師にならないと、ゲームタイトル詐欺になっちゃうから。
お母さんが困った顔をしてお兄ちゃんを見つめ、口を開く。
「ウィリアム。マイカを困らせてはいけないわ」
「はい、お母さま」
お兄ちゃんはお母さんの言うことを素直に聞いて、私から離れた。
その直後、選択肢が現れる。
【選択肢】「お父さまは……?」/「お兄さま、遊びに来てね」/「お母さま、贈り物をありがとうございました」
迷うところだけど、私は『「お兄さま、遊びに来てね」』を選んだ。
だってお兄ちゃんと仲良くなりたい……!!
「うん。絶対に遊びに行くね」
お兄さまが泣きそうな顔で笑う。可愛い。泣くの我慢してる感じが健気可愛い。
私がこの屋敷に戻ることは(エンディングまでは)できないけど、お兄ちゃんが錬金工房に遊びに来ることはできる。
お兄ちゃんが私に手を振った直後、視界が暗転した。
視界が回復した私はアウローラ邸の前にいた。華やかな装飾がついた鉄格子の門は閉じられている。
そう。私は強制的に屋敷の外に出されたのだ。ゲームの仕様とはいえ切ない。
そして、私、今、お金全然持っていない状態なんだよ……。
プレゼントをもらって嬉しかったけど、でもお金も欲しかった。
所持金0円で旅立つことは、プレイ動画を見て知ってるけど……。
伯爵令嬢なマイキャラが、お小遣い貯めてるのは不自然だと思うんだけど……。
心の中で愚痴っていても仕方ない。錬金工房に行こう。
初期状態だとスタミナ値が少ないから、迷わないようにオプションの『ナビシステム』をONにしよう。
私はメニュー画面を表示してオプションの『ナビシステム』をONにした。
足元の白い石畳が、赤い色に変わっていく。
私は赤い道を踏みしめ、歩き出した。
迷宮都市アウローラは迷宮都市の領主の館と迷宮、探索者ギルドを繋ぐ大通りがあり、迷宮都市アウローラの外壁は見上げるほどの高さの石壁で威圧感がある。
ゲームの公式サイトで見た迷宮都市アウローラのマップは、扇のような形だった。
扇の要は迷宮都市アウローラに一つだけある大門だ。
大通りは賑わいを見せていて、私の心も浮き立つ。
あ、商人ギルドの看板がある。錬金術師の師匠も、商人ギルドに所属しているんだよね。
お金を持っていないから、お店にも入れない。お店に入って盗むこともできるけど、カルマ値が上がるし、最悪衛兵に捕まっちゃうんだよねえ。
NPCの家で、タンスとかツボとか漁ってもヤバい。
家主のNPCが襲い掛かって来ることもあるし、衛兵に突き出されることもある。
犯罪者ロールをして楽しんでいるプレイヤーのプレイ動画も見たことあるけど、ちょっとだけしか見ていない。
私は領主の娘だけど、私の顔は屋敷に勤めている使用人や護衛の騎士しか知らない。
今の簡素な服装で一人で歩いていると、一般人と同じだ。実際、伯爵令嬢としての義務と責任を放棄した状態だから、伯爵家からの支援は一切ない……ということになっている。
でもお母さんとお兄ちゃんは、ランダムでいろいろ助けてくれることもある。
赤い道が途切れた。錬金工房に着いたのだ。
無事にたどり着けて良かった。スタミナ切れも起こしてない。
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