第4話 マイカ・アウローラは自分の部屋から【裁縫箱】を持ち出し、双子の兄と母親に会う

ゲーム開始後のチュートリアルを終えた私は部屋を見回す。


次に考えるべきなのは『この部屋から何を持ち出すか』ということだ。

部屋の扉の前に立つか、ゲーム開始から10分経つと主人公の双子の兄妹が訪ねてきて、イベントが始まってしまう。

その後、しばらくはこの屋敷自体に戻れなくなるから、欲しい物は今のうちにゲットしておく必要がある。


私は今まで見て来たゲームのプレイ動画を思い出しながら考える。

天蓋付きのベッドや兄弟、机も『人差し指で三回叩くと』収納できる。

ガラス窓やカーテンも収納していたプレイヤーもいた。引っ越しする部屋みたいに、物が何もなくなってたこともあった。


でも、それをやっちゃうと主人公の家族たちの友好度が激減する。

具体的には、この後に部屋に訪ねて来る主人公の双子の兄妹と母親に嫌われてしまう。それは嫌。

主人公のNPC家族と仲良くしないプレイスタイルのプレイヤーは、部屋の中の物を持って行けるだけ持って行っちゃってもいいと思うんだけど。

ゲームのプレイ動画で、天蓋付きのベッドや鏡台が収納されるのを見るのは面白かった。


私は【鍵付きの日記帳】と【箱型のオルゴール】以外は【裁縫箱】を持って行くことにしようかな。

マイキャラの特技が『刺繍』だから【裁縫箱】は持っておきたい。買うと高いし。


【裁縫箱】は机の一番下の引き出しに入ってるんだよね。

私は机の一番下の引き出しを開けた。【裁縫箱】があった。私は【裁縫箱】を人差し指で三回叩いて収納する。

この収納システムはプレイヤーだけじゃなくてNPCも使える。


とりあえず、もうこの部屋でやることは無いし、イベントを進めようかな。

私はそう思いながら部屋の扉の前に立つ。

すると、私が部屋の扉に立った直後、扉をノックする音がした。

今から私、双子のお兄ちゃんと美人なお母さんに会うんだ……!!


扉が開き、現れたのは黒髪で緑色の目をした美少年だった。

目の前で見ると破壊力がすごい!!


「マイカ、誕生日おめでとう」


私の双子のお兄ちゃんが私の名前を呼んでくれた!! すごい!! 嬉しい!!

お兄ちゃんは私の部屋に入って来た。


「僕たち、今日で12歳になったね」


お兄ちゃんは、微笑んでそう言った後、寂しそうな顔をして言葉を続ける。


「本当に今日、行っちゃうの? マイカは錬金術師になるの?」


お兄ちゃんからの質問、来たー!! お兄ちゃんの声、可愛い。私がマイキャラに選んだボイスよりも少し低めな感じの声だ。

お兄ちゃんの質問と同時に文章が表示される。


『質問をされたら【YES 肯く】【NO 首を横に振る】で対応してください。一分間、肯くことも首を横に振ることもしなければ【何もしない】で進行します』


これ、普通に考えるなら【YES 肯く】一択だよね。だってゲームタイトルが『アウローラの錬金術師』なわけだし。

主人公が錬金術師にならずに伯爵令嬢のままだったら、ゲームタイトルが変わっちゃう。

でも、プレイ動画では果敢にも『首を横に振る』プレイヤーもいた。


『首を横に振る』と、どうなるかというと、後から合流する母親に叱られるのだ。

『一度決めたことを投げ出すことは許されない。錬金術師になると決めたのなら弱気にならず励みなさい』と……。

そして、結局は屋敷を出て行くことになる主人公に、双子の兄妹はがっかりしてしまう……という流れだ。

結果、母親の友好度も双子の兄妹の友好度も下がる。

そんなのは嫌だ。だから私は……。


「マイカ。どうして何も答えないの?」


お兄ちゃんが悲しげに言う。プレイ動画で見たことを思い返していたら【一分間、肯くことも首を横に振ることもしない】状態だったみたい!!

やってしまった……。

【何もしない】でイベントが進行している。

私【何もしない】でイベントが進行したプレイ動画って見たこと無いんだよなあ。


「ウィリアム。旅立つマイカを困らせてはいけないわ」


「お母さま」


お兄ちゃんが私の部屋に入って来たお母さんに視線を向けた。

お母さん、美人ー!! プレイ動画で何度か見たから、美人なのは知ってるけど!!

でも間近で見るとめちゃくちゃ美人ー!! エメラルドグリーンのドレスも似合っている。


お母さんの髪の色はピンクブロンドで、目の色は緑色だ。素敵。

お母さんとお兄ちゃんが並んでいるのを見ると、気持ちが上がる……っ。


「マイカ、お誕生日おめでとう。ウィリアムにはお誕生日パーティーの後に贈り物を渡す予定だけれど、今日、この屋敷を旅立つあなたには、今贈り物を渡すわ」


お母さんがそう言うと、目の前に杖と石板が現れた。

NPCのアイテムや報酬としてのアイテム、錬金成功/失敗のアイテムは、ノータイムで突然出現する仕様だ。いかにもゲームっていう感じ。

お母さんは杖を右手に、石板を左手に持って口を開く。


「これは【水の杖】と【導きの石板】よ。錬金術師として一歩を踏み出すマイカの力になるように、願いを込めて贈ります」


おおー。私が貰えたのは【水の杖】か。

女主人公は【火の杖】【水の杖】【風の杖】【土の杖】の中からランダムで一つ、杖が貰える。

男主人公は特技が『剣術』の場合/バトルスタイルが『前衛』の場合は『ロングソード』を、それ以外は女主人公のように四種類の杖の中からランダムで一つ、杖が貰える。


【導きの石板】は画面上に『ミニマップ』を出現させるためのアイテムだ。

『ミニマップ』表示はオプションからON/OFF設定できる。『ミニマップ』表示は初期設定ではONになっている。

便利だから、私はミニマップを表示させておくつもり。


ミニマップには現在地とメインストーリーを進めるためのトリガーとなる場所が表示される。

さらにオプションには『ナビシステム』があってONにするとメインストーリーが進むトリガーがある場所への道が、赤く表示される。

マイキャラ目線で見ると、自分が歩いている道が赤く表示されていて、ひたすら赤い道を進むとメインストーリーを進行するイベントトリガーの場所にたどり着く仕様だ。

方向音痴なプレイヤーに優しいシステムだと思う。


「マイカ。遠慮しないで受け取って」


私は肯いて、お母さんから【水の杖】と【導きの石板】を受け取った。

私の視界の右上にミニマップが現れる。

ミニマップ出現を確認して、私は受け取った【水の杖】と【導きの石板】を人差し指で三回叩いた。

【水の杖】と【導きの石板】は白く光って消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る