第16話 カウンターバー

事務所で仕事を終えると、いつも真夜中になる。


俺は帰りに必ず行きつけのカウンターバーで、バーボンを1杯時間をかけて飲み、帰路に着く…。


このカウンターバーには何年も通い、バーテンダーも無駄な話をかけてこないで気楽に飲める…。


俺もそろそろ引退の年齢だが、居心地の良いこの店に来る為、仕事をしている。


深夜のバーの客はいつもは俺ひとり…。


だが最近カウンターの1番端に毎晩座る女が来るようになった。


何を飲む訳でも無く、ただこちらを見ている…。


バーテンダーも相手をしない…。


黙ったまま、こちらを見ているだけ…。

 

しかし、その若い女は何故だか懐かしいような、不思議な感じのする女だった…。


数日後、今日もカウンターに座っている女を見て、バーテンダーに声をかけた…。


「あちらの女性に何か1杯差し上げて…」

 

「え?誰もいませんよ…三井さんひとりだけですよ…」


俺はカウンターの若い女に顔を向けると、女の姿はどこにも見えなかった…。


訝しく(いぶかしく)思ったが、そのまままた、黙ってバーボンを飲んだ…。


そして、自宅へ戻りベッドに入った…。


夢かうつつか判らなかったが、ベッドの脇にあの女が立っていた…。


「迎えの時間までまだあったんだけど、お前の顔を見たくてね…毎晩あそこに行ってたんだよ…」 


そう言い女は手を差し出した…。


俺はその手を取ると、幼い頃の自分に戻り、その女に話かける…。


「なんだ、そうだったんだ…おばぁちゃん…」


「さぁ時間になったよ。一緒に行こう…」


「うん…」


朝になり、家族が俺の部屋へ起こしに来た時には、俺は冷たくなって、息をするのを止めていた…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る