第15話 一緒だね

 久々の母と幼い息子のふたり旅…。


仕事で忙しく、息子のシュウはいつも、ばぁばに面倒を見て貰っている。


やっと休暇を取り、ばぁばの勧めで、シュウとふたりで出掛ける事にした…。


宿は予約はしていない…。


行き当たりばったりで自由に遊び、疲れたらホテルへ行って泊まろうと、オフシーズンなので不安も無く、シュウを助手席のチャイルドシートへ座らせて、西へふたりで走り出した。


都内から横浜で降り、みなとみらいの小さな遊園地でシュウと遊び、赤レンガ倉庫で飲み物を買って、海を見ながら車の中でお弁当を食べた。


シュウもカモメを指差し、楽しげに口を動かしている。


「さぁ、出発しようか?」


「うん!」


ドライブしながら、シュウと一緒に歌を歌う。


海沿いの国道で神奈川を抜け、静岡に入った頃にはもう日が落ちて辺りは暗くなりかけて来た。


「この辺で、一泊しよう…」


母親は熱海のかなり有名なホテルのフロントで、声をかけた。


オフシーズンなのに、一部屋だけしか空いていなかった。


その部屋を頼んで、部屋まで案内された…。


部屋へ入るとそれまではしゃいでいた息子のシュウが何故か押し黙っている。


「遊び疲れたかな?」


母親は深く考えず、シュウを連れて温泉へ行く。


お湯から上がり、夕食はレストランでとの話を思い出し、浴衣のまま、レストランで食事を済ませた。


シュウとお風呂へ入り、お腹も満たし少しはしゃいだら、眠たそうに目を擦り始めた。


シュウを抱き上げ、部屋へ戻ると布団が敷いてある。


シュウを横にし、母親は、少し離れてタバコを吸った…。


その時、母親は誰かに見られている様な気になり、立ち上がり窓のカーテンを少しずらして外を見た。


ここは4階、窓の外には誰もいない…。


母親は押入れ、トイレや部屋の浴室まで開けて調べたが、誰もいない…。


「気のせいね…」


母親はシュウの隣にそっと入って、安らかなシュウの額に手で触れた。


「シュウ…いつも一緒にいてあげられなくてゴメンね…」

 

母親も運転の疲れからか、そのまま眠りについた…。


どのくらいの時が、経ったのだろう…。


突然、息子のシュウが起き上がり、泣き叫びながら部屋中を走り回った…。


頭を抱え、何かに怯え、視線はたまに上を見ている。


まるで、空から何かが降って来るのを避けているか、空から誰かが襲ってくるのか…。


「シュウ!!シュウ!!」


母親は息子を抱き締め、名前を呼び続ける…。


泣いていた息子のシュウが急に泣きやみ、母親に喋った…。


「一緒だね…」


そう言うとシュウはそのまま寝息を立てて眠った…。


その後は何もシュウには変化はなく、大阪までの旅を終え、自宅へ戻った。


シュウとふたりで楽しい旅で熱海のホテルの事は忘れかけていた…。


「おかえりーどうだった?」


「楽しかったよーねぇーシュウ…」

 

「うん!!」


「そりゃ良かったね、何処へ行ったの?」


「最初の一泊目は熱海の○○ホテルで…」


そこまで話すと、ばぁばは少し青ざめた…。


「お前、もしかしてそのホテルの4階の○○部屋?」


「良くわかったね…なんで?」


「お前が小さい頃、私とお父さんとお前で泊まったことがあったんだよ」


「え?」


「多分子供の霊にお前が取り憑かれてね…夜食のおにぎりを隠れてトイレで食べてたんだ…まるでひもじさに勝てずに盗んだおにぎりを食べるようにね…」


「うそ…あたしは覚えて無いよ」


「翌朝、お前に訊いても記憶に無かったよ…シュウには何も無かったかい?」


「そう言えば、夜中、シュウが急に泣き出し部屋中を逃げ回るような…」 


「やっぱりね…シュウもお前の小さな頃と一緒で霊を見たり、取り憑かれやすいからね…」


そこまで話すと、眠っていたシュウがムクリと起き出し口を開いた…。


「一緒だね…あの時はおいらはお前に入った…今度は息子…一緒だね…やっとあそこから離れられた…もう、一緒にいようね…」


そう言うと、シュウはまた眠りについた…。



母親はあのホテルを調べてみた…。


戦時中、まだホテルの無かったあの場所で、ひとりの孤児がお腹を空かせたまま空襲で亡くなったそうだ…。


そして、その子は今、ここに住みついている…。


息子のシュウに取り憑いて…。


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