第14話 だーれだ?



仕事は定時に終わり、乗り換えの為、横浜駅で下車する。


プラットフォームは雑踏で、人波に押し出される様に、改札口へ向う為、下りの階段を降りようとした。


その時、誰かに肩を叩かれる…。

いや、叩かれたような感覚だろうか?


振り返っても、知り合いの顔も無く、急に振り向かれて、後ろから続くサラリーマンの男性も、訝しげな表情をしている。


改札口を通り抜け、乗換先の電車の改札へ歩き出す…。


すると、またもや肩を叩かれた…。


振り返っても、今度は後ろには誰もいない…。


気のせいかしら…?



改札口に着き、通り抜けたすぐその時に、またもや、肩を叩かれる…。


後ろを見ても誰もいない…。

しかし、微かに声が聞こえる…。


「だーれだ…」


え?


後ろには、誰もいない…。

しかし、微かだが声は聞こえた…。


気のせい…気のせいよね…きっと、疲れているんだわ…。


自宅近くの駅で降り、いつもの様に、女ひとりでも入れる、馴染みの居酒屋へ向かう…。


いつもの様に、ビールを頼み、食事も注文した。


飲んで仕事疲れが軽くなると、自宅までのんびりと歩いて帰る…。


自宅までは、かなり歩かなくてはならないが、鼻唄混じりで酔いをさましながら歩いて帰るのが好きだった…。


坂道の車道脇の歩道を登り、右に曲がれば、後は、自宅まで一本道…。

閑静な住宅街…。

街灯は無くても、家々の灯りで歩くことが出来る…。


右に曲がって数歩…また、肩を叩かれる…


「だーれだ…」


酔いのせいではない…。

今度ははっきりと聞こえた…。


振り向く…。


誰もいない…。


誰?…誰なの?


周りを見渡し、声を掛ける…。


辺りは誰もいない…。


また、数歩進む…。


トントン…。

「だーれだ…」


怖くなり、女は振り向かずに、そのまま、足早に歩き出す…。


トントン…「だーれだ…」


耳元で聞こえたその声は、女を嘲り笑っていた…。


女は、一目散に走り出す…。


走りながらも、肩を叩かれ続けられ、嘲り笑い声が頭の中にこだまする…。


走りながら、肩を強く払うと、声と肩を叩かれ感じは無くなった…。

 

しかし、女は、恐怖のままに、走る足を止められない…。


自宅がそこまで見えてきた…。


肩を叩かれる感覚と頭に鳴り響く「だーれだ」の声は聞こえない…。


玄関の踊り場で、やっと足を止め、女は肩で息をした…。


玄関の鍵を取り出し、鍵穴に差し込もうにも右手が震えてうまく開けられない…。


震える右手を左手で抑え、やっと鍵が開いた時…。


トントントン…。

「だぁーれだー!!」


一際大きく、その声は響く…。


急いで玄関のドアを、開く…。


「だぁーれーだぁー!!!」


ドアを開くと灯りを消している真っ暗な玄関の内、その中に、もやっとした蒼白い光を纏った、上目遣いの女が立っていた…。


たじろいで、振り向き外へ逃げだそうとするが、後ろから、強く両目を目隠しされた…。


「だぁーれだ!!!」


その声と共に、指が両目に潜り込み、女の両目はグシャリと潰れた…。

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