第11話 霊園
「ミク〜、エイジとソウタがドライブ行こうって!」
親友のユナがあたしのバイト先に来て、あたしを呼び出した。
「もう少しで上がるから、ソウタに迎えに来てって伝えて」
ソウタはあたしの彼氏…。
ユナとエイジも付き合っている。
いつも、4人で行動する…、
今夜も、車2台で夜のドライブ…。
「ねぇ、今日はどこ行くの?」
「知らなーい…」
ユナが答える。
それを横目で見たソウタがエイジと目配せし、あたしに言った…。
「ミク、ひみつだよ。着いてからのお楽しみ…」
「え?まぁ、いっか…」
ユナはエイジの車へ、あたしはソウタの車に乗り込み車は走り出した…。
あたしは、運転しているソウタにちょっかいを出し、ソウタに怒られても、イタズラし続け、ふたりは笑いながらも車を走らす…。
「ねぇ、ホントにどこ行くの…?」
どこへ行っても、住宅だらけの横浜でも、何やら薄ら寂しい道に出た…。
「ねぇ、ホントにどこへ行くの?」
あたしは、また訊ねる…。
「ほら、あそこの霊園で肝試しだよ…」
横浜の真ん中に位置する心霊スポット…良くない噂を耳にする霊園…。
「ダメだよ…行くの…止めようよ…」
「大丈夫だって…なんかあったら、俺がミクを守るから…」
先を走るエイジの車は、もう霊園の駐車場へ着いている…。
「エイジ達、待っているから…」
あたしが止めてもソウタは強引に駐車した…。
「ミクが、ここ入るの嫌がるんだよ…」
ソウタが言った…。
「ミクー大丈夫だよ、この前学校の友達が来たけど何とも無かったって言ってたよー」
ユナが笑顔であたしに言う…。
霊園は、小高い丘に墓石が敷かれ、昼間ならエレベーターで上段まで登れるが、深夜の今は、墓石の間を通る、長い階段を歩き登らなくてはならない…。
エイジが先頭で、ユナがあたしの手を曳き、ソウタが後ろから着いて来る…。
階段を39段登ったら、踊り場になり、両脇の通路から、ズラリと墓石が並んでいる…。
「さぁ、ここが、心霊スポットの入口だよ…先に俺とユナがてっぺんまで行くから、ソウタとミクは、5分後に登ってこいよ」
エイジはそう言うと、ユナの手を握り、鼻唄混じりで登り出した…。
「ねぇソウタ…ホントに止めようよ…嫌な気がするの…」
「大丈夫だって…怖がりだなぁ~」
5分待ち、無理矢理あたしの手を握り、階段を登る…。
ほんの4〜5段登ったら、あたしの足はピタリと止まった…。
横に連なる墓石の奥に、青白く光る靄の様な中に、ひとりの老婆の姿を見た…。
「ソウタ!待って!あれを見て!お婆さんが…」
ソウタを引き止め、光の方へ指差しても、ソウタには何も見えないらしい…。
「ほら、お婆さんが手の平で押し返す様な…ほら、帰れって言ってるよ…」
「怖がるから、そんなのが見えた気になるだよ…俺にはなんも見えないよ…ほら、先を行こう…」
強引に手を引かれまた階段を上がる…。
次の踊り場に近づくと、今度は左側の墓石の連なりから、一瞬、火のかたまりがユラユラ揺れて、スゥっと消えた…。
すると、また、先の老婆が現れ、あたしの両足首をガシリと掴んだ…。
ソウタに手を引かれているあたしは、動かせない足がそのままで、空いてる左手を床の石畳に着くような形で、倒れ込む…。
「ミク!大丈夫か?」
「足を掴まれて動けない…」
「馬鹿な事言うな…足なんか掴まれて無いぞ!」
ソウタは、あたしを担ぎ上げ、階段を登ろうとする…。
「もう、お願い!引き返して!」
あたしは泣きながら、ソウタに頼んだ…。
「判ったよ、でも、上でエイジ達が待っているから、ミクを車に戻してから、俺だけ、上まで行って来るよ…」
車に戻り、あたしはソウタを引き止める…。
「ソウタ、行かないで…何か嫌な気がする…一緒に車で待ってようよ…」
「大丈夫だって…すぐ戻るから…ミクは怖がりだな…」
そう言うと、ソウタは、階段を走り登って行った…。
あたしは、車の中でガクガク震え、皆を待った…。
しばし後、笑いながら皆が戻り、あたしに
「ミクは怖がりだな…皆、何とも無いよーエイジなんか、お墓の横でオシッコしたゃうし、ユナもお墓に座って待ってたしね~」
「ソウタだって、お墓の上に記念だって、小石を乗せてたじゃん…」
あたしは、恐怖で肩が重苦しく、口も開けなかった…。
解散となり、自宅へ送られて、あたしはベッドの中でまだ震えが止まらない…どのくらい時が過ぎたのか…夢か現実か解らないが、全身が硬直し、瞳だけしか動かせない…。
金縛り?
そして、足元に青白く光る老婆が立つのがあたしに見えた…。
「お前は私に言われた通り、引き戻したから逃れられた…」
そう言うと光は消えた…。
その翌日、エイジは高熱を出し、一晩苦しみ帰らぬ人となった…。
ユナは同じ日にエイジの看病の為に向かった途中でトラックに跳ねられた…。
ソウタは、あたしの家へ向かう途中に何でも無い普通の車道でガードレールに自爆した…。
あたしは今でも、誰かに取り憑かれている様に、肩が、重い…。
あたしには…きっとまだ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます